時代の風:アベノミクスの地方波及=元総務相・増田寛也
毎日新聞 2013年12月15日 東京朝刊
◇モノサシ変えてみよう
今年も残すところあとわずか、この1年を回顧する季節となった。今年は「安倍政権の年」といっても過言ではないと思う。アベノミクスによる「三本の矢」、特に1本目の大胆な金融緩和と2本目の機動的な財政出動によって、久しぶりに日本経済が世界の脚光を浴びることとなった。9月に首相みずからアルゼンチンに乗り込んで2020年東京五輪招致を成功させたことは日本全体に明るい話題を提供する一方で、臨時国会終盤の特定秘密保護法成立をめぐっての政権とメディアとの緊張関係の高まりは、来年の日本政治の波乱要因となる可能性を示しているといえよう。
ところで、近年、貿易収支の赤字幅が大幅に拡大し、国富が海外に流出する事態を招いている。その直接的な原因は、原発の運転停止による液化天然ガス、原油の大量輸入によるものだが、企業はすでに生産拠点を海外に移転しており、円安がそのまま輸出の増大につながらない経済構造であることも一因である。さらに来年4月からは消費増税を控えており、個人消費の伸びにも多くは期待できない。アベノミクスの核心が3本目の成長戦略にあるのはいうまでもないが、エネルギーや財政についての厳しい制約の下で国内投資の促進など民間セクター中心の成長戦略により日本経済を再生させ、さらには財政再建を実現するのは至難の業である。当面の企業の収益増を所得増につなげ、さらに地方に行き渡らせることができるのか。来年はアベノミクスの真の実力が試される年となる。
アベノミクスの成果の地方への波及について、いくつか指摘したい。財政よりも金融政策が実体経済に強い影響を与えるようになった今日、国境を越えて自由に動き回る投資マネーを日本に呼び込む政策は、地方から見ると市場原理そのものに映る。その延長線上で、資源の合理的配分を市場メカニズムだけに委ねると、おそらく「ヒト、モノ、カネ」は大都市、特に東京に集中し、地方はやがて消滅、経済効率一辺倒の国土構造に変質する。アベノミクスに対する地方の「警戒心」はここにある。しかし、国家の中枢機能が東京一極に集中している国土構造が脆弱(ぜいじゃく)であることは、近い将来の発生が危惧される首都直下地震を見ても明らかである。近年、大都市と地方の間で県民所得や雇用機会の格差が拡大する傾向にあるが、東京をはじめ大都市には国際的な都市間競争に勝ち抜くだけの基礎体力をつけさせるとともに、一方でバランスのとれた国土づくりを追求し、地方の自立的な発展の道筋や多様性のある国土づくりの姿を示すことがアベノミクスの次なる目標となろう。
前回の本稿で示したとおり、急激な人口減少により多くの地方都市は、将来、消滅の可能性を内在している。そのような地域の将来ビジョンについて、正直なところ、私に起死回生の確たるアイデアがあるわけではない。それでも考えてみれば、敗戦やオイルショックという危機を乗り越え、最近まで世界第2位の経済大国であった日本は、生活が豊かになり欲しい物は簡単に手に入れることができるようになったが、一方で、経済的な利益ばかりを偏重し、それを貨幣に置き換えて価値を問い、効率性のみを追求して物事が本来もつ多様な側面を見逃してきたように思う。
絵は和歌山県情報館から
グローバリズムによってさらに経済効率性の側面が強調されそうな今こそ、地域の個性に着目し、モノサシや尺度を変えて新たな価値観のもと、地方の将来の姿を描くべきであろう。たとえば、森林資源を利用した再生可能な新しいエネルギー源として木質バイオマスに着目するなど、モノサシを変えれば日本の各地に大いなる資産は数多く残っている。もちろん、「時間・余裕と安らぎ・自然環境」など、これまで十分に評価し得なかったものを大事にすることも必要だ。
ここは過去の右肩上がりの時代の成功体験にとらわれた古い世代ではなく、若者の柔軟な発想を生かすべき分野だ。幸いにして学生や就職して間もない若い世代ではローカル志向が増えているように感ずる。現地に住みついて地域おこしに奮闘する若者を数多く目にする。グローバル化の時代にあえてローカルな活動を志向する彼らに期待を込め、新しい年への希望としたい。=毎週日曜日に掲載
岩手県知事の経験もある増田寛也さんの話はテレビで観ていても冷静でとても印象がいい。難しいことは分からないが、今から先、地方が疲弊していくのは間違いないだろうね。
それに引きかえ大東京は益々肥っていくだろう。あたかもテレビで観る中国の上海、香港、深せんの各都市が超高層ビル化して、辺境の地はさびれていく一方の姿は我が国にも重なる気がする。日本の地方都市でも、札幌や福岡なんかはそれなりに発展して行っている気はするけど・・・。
特定秘密保護法をごり押しで通して支持率を落とした安倍政権、来年は挽回のホームランは飛びだすのかな、アベノミクスがやり玉に上がって作戦の練り直しなるのか?まあ、野党が弱すぎる間は「何でもあり!」の時代が続きそうだが!