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“ひき肉です”って何?「知らない流行語」が生まれる時(サブカルが映す日本社会) / 毎日新聞

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WBC決勝で米国に勝ち、喜ぶ大谷翔平選手(中央)=米マイアミのローンデポ・パークで2023年3月21日、猪飼観史撮影

サブカルが映す日本社会 
“ひき肉です”って何?「知らない流行語」が生まれる時  
廣瀬涼・ニッセイ基礎研究所・生活研究部研究員

毎日新聞 2023年11月28日

 今年話題となった言葉を選ぶ「ユーキャン新語・流行語大賞2023」の年間大賞が12月1日に発表となる。

 今年で40回目となる歴史ある賞だが、近年は世間で実際に流行した言葉と、選考側の認知にズレがあるのではないかといった声が、ソーシャルメディア(SNS)やネット掲示板を中心に上がっていた。端的に言えば「ピンとこない」ということだ。昨年大賞の「村神様」も、野球に詳しくない層からしたら疑問の残る選出だったかもしれない。

 では今年はどうか。11月初めに30語がノミネートされているので、消費文化を研究する立場として分析してみたい。



今年の野球関連は納得?

 今年の野球関連は、国民の関心度が高かったWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で大谷翔平選手が発した「憧れるのをやめましょう」がノミネートされ、一定の納得感はあるのではないだろうか。38年ぶりに日本一になった阪神タイガースの今季スローガン「アレ」もよく耳にした言葉だ。

 他のノミネートを見ても「NGリスト」(ジャニーズ問題)を筆頭に、マスメディアも大きく取り上げた言葉が並んでいる。「5類」(コロナ関連)のほか、「闇バイト」や「チャットGPT」など時代や世相を表すものも順当に選ばれたと言ってよい。

 エンタメ関連も幅広い。テレビドラマ発の言葉としては「スエコザサ」(NHK朝ドラ)や「別班」(TBS日曜ドラマ)。SNSを中心に盛り上がった「推しの子」(アニメ)や「新しい学校のリーダーズ」(4人組ダンスボーカルグループ)なども選ばれている。

 若者世代の言葉としては「蛙化(かえるか)現象」(ささいなことで好きな人を嫌いになること)や「Y2K」(2000年頃のファッション)といったところだ。トレンドの発信源を幅広く網羅していることから、何かしらノミネートリストの中に共感できる言葉があるのではないだろうか。

「ひき肉です」って何?

 だが「聞いたこともない」という言葉もリストにあるだろう。中高年世代にとっては「ひき肉です」が筆頭だろうか。

 この言葉は、中学生6人組の人気ユーチューバー・ちょんまげ小僧が発祥で、メンバーの一人である「ひき肉」が自己紹介をするときのフレーズだ。独特の声色とポーズで「ひき肉です」とあいさつする様がSNSで大ウケした。

 さらに芸能人がこのフレーズをまねしたり、スポーツ選手が「ひき肉ポーズ」のパフォーマンスを行ったりして、世間一般への認知も広がっていった。

 ただ、テレビなどで言葉の解説が行われるくらいになると、ネットかいわいではあまり聞かなくなっていったのも興味深い。今さら流行に乗っかっていると思われたくないので、「ひき肉」という単語を発することすらためらってしまうのは筆者だけだろうか。

知らない流行語

 一昔前、マスメディアが主な情報源だった時代も、「そんな言葉、知らない」と言われてしまう流行語は存在した。だが当時は「世代間ギャップ」によってこの現象が生み出されていたように思う。同じマスメディア発でも、若者と中高年では触れているコンテンツが違うのだから当然だ。

 これに対し、現代の日本はSNS利用者が約8000万人と言われるように、マスメディアだけがメジャーな情報源ではない。さらにSNSの場合、X(ツイッター)やインスタグラムなど、人によってよく使うプラットフォームが異なる。また、同じSNSを利用していても、フォローしている対象が異なればたどり着くトレンドや流行語も違ってくる。

SNSが人々の情報源になって久しい

 つまり局地的なブームがいろいろな場所で起こっているわけで、SNSを利用していれば誰でも知っているという状況はそれほど多くはない。新語・流行語大賞はここから流行語をピックアップしてくるため、人によっては全く知らない言葉があって当然なのだ。

 一方、昔なら若者しか知らなかったようなトレンドも、今はSNSのフォロー次第で年齢に関係なく認知できる。流行語の「世代間ギャップ」はむしろ小さくなっていると考えられる。

早すぎる消費サイクル

 また、新語・流行語大賞には例年、「若者の中だけ」で流行した言葉は意外とノミネートされない。

 これはトレンドや流行語の消費サイクルが、この世代では特に早いからだ。爆発的なブームとなっても、1カ月ともたず廃れてしまうことも少なくない。女子中高生の間で流行した言葉を選ぶ「JC・JK流行語大賞」が、年2回の発表となっている理由もよく分かる。

 23年上半期のJC・JK流行語大賞には、「なぁぜなぁぜ」「ちゅき」「うちゅくしい」といった言葉も選ばれているが、今さら覚える必要はない。もうほとんど誰も使っていないからだ。

 昔は「流行の終わり」がわかりにくかったが、SNS時代は他人の投稿などで「もう誰も使っていない」ことが可視化されてしまう。流行だけでなく、流行の終わりもシェアされてしまうわけで、消費サイクルはますます高速化していく。

 そして「流行遅れな自分」が可視化されてしまうことも、SNS時代の残酷なところだ。

 毎年発売される「現代用語の基礎知識」って私の20代から30代にかけては毎年購入していたのだが、「新語・流行語大賞」の主催だったとは知らなかったな~。以前は、話題として楽しんでいたのだが2023年 ノミネート語No.30では3分の2くらいは分からない(笑)。「JC・JK流行語大賞」に至っては全く見たことも聞いたこともない。何だか自分が浦島太郎で久しぶりに日本に帰ってきたら日本語会話が通じなくなってしまっているようだ!

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