毎日新聞 2020年9月18日 東京夕刊
朝から晩まですれ違うのはマスクの顔ばかり。すっかり見慣れてしまった新型コロナウイルス感染拡大による新しい日常風景だが、目を凝らせば、マスク姿もいろいろ。作家で編集者の森永博志さん(70)は「2020年の風俗画譜として残しておきたいね」と日々、マスクピープルを描いている。目標は1000人、1000態らしい。
あだ名はマッケンジー。根っからの自由人だ。なりたかったのは絵描きらしいが、仕事にするのは2番目に好きなことと決めていたから、世界中を旅して文章を書いてきた。雑誌「ポパイ」や「ブルータス」が主な舞台となる。1980年代に発表した小説「原宿ゴールドラッシュ」が街に生きる若者のバイブルになったりもした。いまは東京・芝浦で愛犬と暮らしながら、たまに夜の新宿ゴールデン街のバー「ナグネ」から発信されるネットラジオのDJなんかをやっている。
「絵はもちろん、読書も毎日の日課だね。気に入ったフレーズをノートに書き抜いてるよ」=東京・芝浦の自宅で、鈴木琢磨撮影 ■人物略歴 森永博志(もりなが・ひろし)さん 1950年生まれ。高校中退後、仕事を転々とし、25歳で編集者、28歳でNHK・FM「サウンドストリート」の初代パーソナリティーになる。文芸誌「月刊小説王」で荒俣宏さんの「帝都物語」を世に送ったこともある。著書に「ドロップアウトのえらいひと」「自由でいるための仕事術」など多数。
このやけにカッコいい不良おやじ、コロナ禍で自らのツイッターに絵を投稿しだす。それがマスクピープルだった。「なんか急に絵が描きたくなってさ。今年1月、古希の誕生日に友人がパーティーを開いてくれ、人生で心に留まった1000人の顔を描いて会場の壁を埋めたんだ。そうこうするうちにコロナクライシスだよ。街中にマスクがあふれた。こんなに大衆が生きることに節度を重んじ、真摯(しんし)になったことはなかったよ」。スマホを手に地元はむろん、渋谷や新宿を歩く。
愛用マスクは藍染めのマッケンジーオリジナル。「気がついた。顔がない方が人は人らしいって。仕草が目に飛び込んでくる。家に帰って、撮った写真をもとに100円ショップで買ったメモ用紙に描くんだ。ゴッホみたいに素早く。で、ひと晩寝かせ、翌朝、近所のファミリーレストランなんかで色付けする。ソーシャルディスタンスのご時世だから、広い席をぜいたくに独り占めだ」ほとんど匿名だが、ひとり有名人の顔がある。「そう、香港の民主活動家、周庭さん」。この8月に香港国家安全維持法違反容疑で逮捕され、保釈された時のもの。マスクピープルを初めて意識したのは香港の民主化デモだったらしい。「みんなマスクをして抗議していた。20年くらい前かな、謎の画家、バンクシーの画集を香港で買ったら、そこにも黒いマスクをして花を投げている男の絵があったよ。印象的だった」。
コロナ禍のマスクの群れも無言の抵抗だと感じたりする。朝のカフェでサラリーマンの出勤風景を眺めつつ「タタミイワシ状態で吐き出されてくる」と思い、映画館でゾンビ映画を見た帰りに地下鉄に乗って「車内がゾンビだらけだ」とぞっとする。「先が読める人を粋と言う。粋な人が政治をやらないといけないよ」基本的に絵に説明はない。見る側が情景を感じ、想像してほしいから、とマッケンジーは言い、今日もひたすら歩く。「マスクピープルを描いていて、改めて知った。いろんな人間がいて、いろんな仕事があって、いろんな人生を生きているって。
社会が大きく変化していった60年代後半から70年代にかけ、イラストレーターの小林泰彦さんが『平凡パンチ』でやった伝説のイラスト・ルポみたいになればなあとは思っているね。あのころ僕は高校生で、世界で何が起こっているかを一番伝えてくれた。いまでも新鮮だよ。ちょうど五百羅漢ならぬ500人のマスクピープルが描けたところなんだ」。1日5人のペースでいけば、あと100日ほどで完成する予定。巨大な壁がある場所に張り、個展を開くつもりだ。【鈴木琢磨】
ひゃーっ楽しそう!「カッコいい不良おやじ」に成れなかった小父さんのあこがれの生き方かも(笑)。本当にマスクピープルって顔も表情もないんだよね。ある時は、気付かれなくって助かることもあるけどこのところ声かけられて戸惑うこともしばしば・・・。そうだ香港のデモスタイルを日本人が皆やっているんだ。でもイスラム教の国の女性(下)はずっとそうだったんだよね。そこに行くと我が日本はファッションで表現できるんだ!
朝から晩まですれ違うのはマスクの顔ばかり。すっかり見慣れてしまった新型コロナウイルス感染拡大による新しい日常風景だが、目を凝らせば、マスク姿もいろいろ。作家で編集者の森永博志さん(70)は「2020年の風俗画譜として残しておきたいね」と日々、マスクピープルを描いている。目標は1000人、1000態らしい。
あだ名はマッケンジー。根っからの自由人だ。なりたかったのは絵描きらしいが、仕事にするのは2番目に好きなことと決めていたから、世界中を旅して文章を書いてきた。雑誌「ポパイ」や「ブルータス」が主な舞台となる。1980年代に発表した小説「原宿ゴールドラッシュ」が街に生きる若者のバイブルになったりもした。いまは東京・芝浦で愛犬と暮らしながら、たまに夜の新宿ゴールデン街のバー「ナグネ」から発信されるネットラジオのDJなんかをやっている。
「絵はもちろん、読書も毎日の日課だね。気に入ったフレーズをノートに書き抜いてるよ」=東京・芝浦の自宅で、鈴木琢磨撮影 ■人物略歴 森永博志(もりなが・ひろし)さん 1950年生まれ。高校中退後、仕事を転々とし、25歳で編集者、28歳でNHK・FM「サウンドストリート」の初代パーソナリティーになる。文芸誌「月刊小説王」で荒俣宏さんの「帝都物語」を世に送ったこともある。著書に「ドロップアウトのえらいひと」「自由でいるための仕事術」など多数。
このやけにカッコいい不良おやじ、コロナ禍で自らのツイッターに絵を投稿しだす。それがマスクピープルだった。「なんか急に絵が描きたくなってさ。今年1月、古希の誕生日に友人がパーティーを開いてくれ、人生で心に留まった1000人の顔を描いて会場の壁を埋めたんだ。そうこうするうちにコロナクライシスだよ。街中にマスクがあふれた。こんなに大衆が生きることに節度を重んじ、真摯(しんし)になったことはなかったよ」。スマホを手に地元はむろん、渋谷や新宿を歩く。
愛用マスクは藍染めのマッケンジーオリジナル。「気がついた。顔がない方が人は人らしいって。仕草が目に飛び込んでくる。家に帰って、撮った写真をもとに100円ショップで買ったメモ用紙に描くんだ。ゴッホみたいに素早く。で、ひと晩寝かせ、翌朝、近所のファミリーレストランなんかで色付けする。ソーシャルディスタンスのご時世だから、広い席をぜいたくに独り占めだ」ほとんど匿名だが、ひとり有名人の顔がある。「そう、香港の民主活動家、周庭さん」。この8月に香港国家安全維持法違反容疑で逮捕され、保釈された時のもの。マスクピープルを初めて意識したのは香港の民主化デモだったらしい。「みんなマスクをして抗議していた。20年くらい前かな、謎の画家、バンクシーの画集を香港で買ったら、そこにも黒いマスクをして花を投げている男の絵があったよ。印象的だった」。
コロナ禍のマスクの群れも無言の抵抗だと感じたりする。朝のカフェでサラリーマンの出勤風景を眺めつつ「タタミイワシ状態で吐き出されてくる」と思い、映画館でゾンビ映画を見た帰りに地下鉄に乗って「車内がゾンビだらけだ」とぞっとする。「先が読める人を粋と言う。粋な人が政治をやらないといけないよ」基本的に絵に説明はない。見る側が情景を感じ、想像してほしいから、とマッケンジーは言い、今日もひたすら歩く。「マスクピープルを描いていて、改めて知った。いろんな人間がいて、いろんな仕事があって、いろんな人生を生きているって。
社会が大きく変化していった60年代後半から70年代にかけ、イラストレーターの小林泰彦さんが『平凡パンチ』でやった伝説のイラスト・ルポみたいになればなあとは思っているね。あのころ僕は高校生で、世界で何が起こっているかを一番伝えてくれた。いまでも新鮮だよ。ちょうど五百羅漢ならぬ500人のマスクピープルが描けたところなんだ」。1日5人のペースでいけば、あと100日ほどで完成する予定。巨大な壁がある場所に張り、個展を開くつもりだ。【鈴木琢磨】
ひゃーっ楽しそう!「カッコいい不良おやじ」に成れなかった小父さんのあこがれの生き方かも(笑)。本当にマスクピープルって顔も表情もないんだよね。ある時は、気付かれなくって助かることもあるけどこのところ声かけられて戸惑うこともしばしば・・・。そうだ香港のデモスタイルを日本人が皆やっているんだ。でもイスラム教の国の女性(下)はずっとそうだったんだよね。そこに行くと我が日本はファッションで表現できるんだ!