愛称は「ＢｏＢＡ（ボバ）」。デビュー作品の役名が由来だ＝東京都渋谷区で、喜屋武真之介撮影
毎日新聞 2020年5月15日 東京夕刊
元「国鉄マン」という異色の経歴の持ち主である。保線担当だった。１９８７年の分割・民営化でＪＲ東海の社員に。職場も地元・長野から愛知に変わり、役者の道に進むきっかけとなった。仕事帰りや休みの日に映画館に通い詰めるうち、知遇を得たのが映画監督の山川直人さんだった。８９年、山川さんにミュージックビデオに起用され、「シンデレラが舞踏会に連れて行ってもらったような気分でした。楽しかったので、もう一回、撮影現場に参加したいという気持ちが強まったんです」。
会社を辞めようか――悩んでいたある日、交通事故を起こした。事故処理をしている時、心が決まった。「もし相手を死なせていたら、人生を選ぶことすらできない。どうせ失敗するなら、好きなことをやって失敗した方が納得できるじゃないかって」
９０年１２月８日に退社した。当時２７歳。「カッコつけて『ジョン・レノンが死んだ日の１２月８日に辞める』って、シャレで言ったんです。でも僕はジョン・レノンが大好きというほどではなかったので、我ながら何で？と思いまして。８月８日生まれで数字の８がよく頭に浮かぶのですが、ふと、その日って国鉄に入ってからどれぐらいだろうと数えてみたんです。そうしたら８年と８カ月と８日だった。その瞬間、この日に辞めるしかないと思いました」
上京してからはスタッフ兼俳優の生活。バイク便配達で生計を立てていた時期もあった。大きな転機となったのが２００１年のフジテレビ系のドラマ「ＨＥＲＯ」だ。木村拓哉さん演じる主人公らが通うバーで、むちゃな注文にも「あるよ」と応じるバーテンダーを好演して人気を博した。以来、バラエティー番組に出演するなど仕事の幅が広がり、今や押しも押されもせぬ名バイプレーヤーである。
コワモテの役柄が多いが、素顔はおちゃめ。そして大のネコ好きだ。保護ネコサイトを通して引き取った３匹と暮らす。「一番上が黒のクマ子で７歳、真ん中は茶トラのチャイで６歳、末っ子がキジトラなんですけどサビという名で５歳。全員女の子です。白と三毛を迎えれば、全柄そろった感じになりますよね。好きなところは何と言っても、あの毛の感触ですね」
ネコ談議は止まらない。「今日も出がけに末っ子が抱きついてきて。『そんなことされたら遅刻しちゃうよー』って言いながら来たんです」。メロメロぶりをさらけ出し、さらにこう続ける。「僕がパソコンを使っていると、腕の間に座ってくつろぐんです。でも食卓に乗るのは禁止なので妻はすごくしかる。するとね、『だってー、だってー』って言い訳するように鳴くんですよ。その声が毎回毎回、違うニュアンスに聞こえて、ハア、たまらんわって」ああ、田中家のネコになりたい。こんなにも愛されているネコは幸せものである。
田中家は現在、新築中。自ら図面を引いたほどのこだわりの家だ。「工務店さんは『ここまで書き込んでくる人はいない』とあきれていました。子どもの頃は大工になるのが夢っていうほど憧れていたので、何かやりたくてしょうがないんですよ。新型コロナウイルスの流行で撮影予定が飛んじゃって、今は時間が空いているので、毎日見に行っては、手伝わせてくださーいって言ってます」と笑う。
照明助手だった経験をフルに活用し、採光と照明には工夫を凝らした。「３畳ほどのライトコート（中庭）を設けました。それに面してお風呂の窓も付けました。照明の付け方にもこだわりました」
もちろんネコたちのことも忘れていない。「トイレの場所も造ったし、天井を吹き抜けにして、太めの梁（はり）の上をネコが行き来できるようにしています。でも大変ですね、家を建てるのも。多くの方はもっと若い時に家を持つでしょうけど、僕は５６ですからね。まだまだ働かなきゃ」
引っ越しの日を指折り数えて待つ日々だ。【小松やしほ】
■人物略歴
田中要次（たなか・ようじ）さん
１９６３年、長野県生まれ。高校卒業後の８２年、国鉄（当時）に就職。９０年に退職。２００１年、ドラマ「ＨＥＲＯ」のバーテンダー役で注目される。現在、テレビ東京系「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Ｚ」レギュラー。
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小父さんは、恥ずかしながら退職して、昼間に再放送で流れていたドラマ「ＨＥＲＯ」を毎日のように観ていた。結果、劇場で公開されたHERO (2015年の映画)も観に行った。ドラマ全体も面白いのだが、この田中要次さんの怖い顔して「あるよ」のひと言もいつの日か楽しみに変わっていた。彼のドラマは前にも後にも観たことないのだが「あるよ」ファンになっていたね。しかし、この役でブレイクしたことも今日の今日まで知らなかったな～！
毎日新聞 2020年5月15日 東京夕刊
元「国鉄マン」という異色の経歴の持ち主である。保線担当だった。１９８７年の分割・民営化でＪＲ東海の社員に。職場も地元・長野から愛知に変わり、役者の道に進むきっかけとなった。仕事帰りや休みの日に映画館に通い詰めるうち、知遇を得たのが映画監督の山川直人さんだった。８９年、山川さんにミュージックビデオに起用され、「シンデレラが舞踏会に連れて行ってもらったような気分でした。楽しかったので、もう一回、撮影現場に参加したいという気持ちが強まったんです」。
会社を辞めようか――悩んでいたある日、交通事故を起こした。事故処理をしている時、心が決まった。「もし相手を死なせていたら、人生を選ぶことすらできない。どうせ失敗するなら、好きなことをやって失敗した方が納得できるじゃないかって」
９０年１２月８日に退社した。当時２７歳。「カッコつけて『ジョン・レノンが死んだ日の１２月８日に辞める』って、シャレで言ったんです。でも僕はジョン・レノンが大好きというほどではなかったので、我ながら何で？と思いまして。８月８日生まれで数字の８がよく頭に浮かぶのですが、ふと、その日って国鉄に入ってからどれぐらいだろうと数えてみたんです。そうしたら８年と８カ月と８日だった。その瞬間、この日に辞めるしかないと思いました」
上京してからはスタッフ兼俳優の生活。バイク便配達で生計を立てていた時期もあった。大きな転機となったのが２００１年のフジテレビ系のドラマ「ＨＥＲＯ」だ。木村拓哉さん演じる主人公らが通うバーで、むちゃな注文にも「あるよ」と応じるバーテンダーを好演して人気を博した。以来、バラエティー番組に出演するなど仕事の幅が広がり、今や押しも押されもせぬ名バイプレーヤーである。
コワモテの役柄が多いが、素顔はおちゃめ。そして大のネコ好きだ。保護ネコサイトを通して引き取った３匹と暮らす。「一番上が黒のクマ子で７歳、真ん中は茶トラのチャイで６歳、末っ子がキジトラなんですけどサビという名で５歳。全員女の子です。白と三毛を迎えれば、全柄そろった感じになりますよね。好きなところは何と言っても、あの毛の感触ですね」
ネコ談議は止まらない。「今日も出がけに末っ子が抱きついてきて。『そんなことされたら遅刻しちゃうよー』って言いながら来たんです」。メロメロぶりをさらけ出し、さらにこう続ける。「僕がパソコンを使っていると、腕の間に座ってくつろぐんです。でも食卓に乗るのは禁止なので妻はすごくしかる。するとね、『だってー、だってー』って言い訳するように鳴くんですよ。その声が毎回毎回、違うニュアンスに聞こえて、ハア、たまらんわって」ああ、田中家のネコになりたい。こんなにも愛されているネコは幸せものである。
田中家は現在、新築中。自ら図面を引いたほどのこだわりの家だ。「工務店さんは『ここまで書き込んでくる人はいない』とあきれていました。子どもの頃は大工になるのが夢っていうほど憧れていたので、何かやりたくてしょうがないんですよ。新型コロナウイルスの流行で撮影予定が飛んじゃって、今は時間が空いているので、毎日見に行っては、手伝わせてくださーいって言ってます」と笑う。
照明助手だった経験をフルに活用し、採光と照明には工夫を凝らした。「３畳ほどのライトコート（中庭）を設けました。それに面してお風呂の窓も付けました。照明の付け方にもこだわりました」
もちろんネコたちのことも忘れていない。「トイレの場所も造ったし、天井を吹き抜けにして、太めの梁（はり）の上をネコが行き来できるようにしています。でも大変ですね、家を建てるのも。多くの方はもっと若い時に家を持つでしょうけど、僕は５６ですからね。まだまだ働かなきゃ」
引っ越しの日を指折り数えて待つ日々だ。【小松やしほ】
■人物略歴
田中要次（たなか・ようじ）さん
１９６３年、長野県生まれ。高校卒業後の８２年、国鉄（当時）に就職。９０年に退職。２００１年、ドラマ「ＨＥＲＯ」のバーテンダー役で注目される。現在、テレビ東京系「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Ｚ」レギュラー。
小父さんは、恥ずかしながら退職して、昼間に再放送で流れていたドラマ「ＨＥＲＯ」を毎日のように観ていた。結果、劇場で公開されたHERO (2015年の映画)も観に行った。ドラマ全体も面白いのだが、この田中要次さんの怖い顔して「あるよ」のひと言もいつの日か楽しみに変わっていた。彼のドラマは前にも後にも観たことないのだが「あるよ」ファンになっていたね。しかし、この役でブレイクしたことも今日の今日まで知らなかったな～！