富士山。大噴火して首都圏に火山灰が降り積もれば、住民への甚大な影響が想定されている=2023年2月、本社ヘリから
毎日新聞 2023/11/23 06:00 有料記事
もし富士山が大規模に噴火し、江戸時代の時のように火山灰が2週間ほど降り続いたら、首都圏などでは上下水道や通信といったライフラインが大打撃を受けるとみられている。その場合、政府は復旧に向けどんなシナリオを描いているか――。毎日新聞が入手した政府の内部資料を見ると、復旧には共通のカギがあることが見えてくる。
降雨時に3ミリ以上の火山灰で停電
「降雨時に3ミリ以上の火山灰が降り積もると、送電線の絶縁性を保つ器具の機能低下により停電が発生する」政府の中央防災会議が2020年4月に公表した富士山の降灰対策の報告書は、こう想定している。
これを踏まえ内部資料では、噴火後の状況が最悪の場合、およそ2週間後までに東京都や神奈川県などの約3600万人が停電に遭遇する可能性があると見積もっていた。全体像の目安を浮かび上がらせるためだという。
資料をめくると、これとは別の前提条件を引用して電力や上水道などのライフライン施設について触れているページがあった。噴火後の対応手順の案として示された図では、例えば上水道施設なら次のような流れだった。
「噴火発生」→「停電発生」→「機能停止」→「停電の復旧作業開始」→「復旧」→「浄水処理再開」
この場合、噴火発生から作業開始までにかかる日数は、上水道施設までの道路上に積もった火山灰を取り除く時間を考慮して0~数日、作業開始から復旧までの日数は1~2日と見込んでいた。
下水道施設や携帯電話の基地局など通信施設の対応手順案も、基本的な流れは上水道施設と一緒だ。噴火から施設の再稼働までの日数も同じで「0~数日+1~2日」と想定していた。
送電線と鉄塔。富士山が大噴火し火山灰ががいしに降り積もれば停電の恐れがある=東京都荒川区で2023年5月31日午前11時20分、奥山智己撮影
このように、いずれのライフラインの施設でも停電の復旧が遅れると、施設自体の復旧がおぼつかないことが浮かび上がる。
「約3600万人が停電」の一方で……
肝心の電力施設に関しては、こんな書きぶりだった。
「火力発電の機能低下による供給量低下により夏季に190万キロワット(約54万世帯相当)の需給ギャップが想定される」
それでも、需給ギャップが生じても他の地域からの供給が期待できるので「安定供給上の問題が生じる可能性は低い」と記していた。
配電線などへの影響を試算した項目では、桜島(鹿児島県)の降灰データなども使って推計した結果、東京電力管内では40万世帯相当が停電すると記載。このページには「大規模な停電に至る可能性は低い」「車両の通行が可能であれば、作業開始後1日程度で復旧可能」という文言も並んでいた。
つまり、一方では停電に遭遇する住民は最大約3600万人に及ぶという目安を示しながら、もう一方では、具体的な影響を探るために目安とは別のデータを使って試算をして、影響が小さいと見込んでいることがうかがえる。
桜島が噴火し、鹿児島市内方向へ流れる噴煙=2013年8月、気象庁のウェブサイトより
火山学者から疑問
だが、影響が小さいとする想定に、火山学者の中からは疑問の声も出ている。
こうした電力施設に関する記載は、経済産業省がシンクタンクに委託して作成した報告書が基になっている。
報告書をまとめるため、経産省は有識者による作業部会を設けた。委員には、電力大手の技術者や防災科学技術研究所の研究員らの名前が並ぶ。だが、火山学者がいなかったことで、桜島の降灰データの読み方に甘さがあるという。
政府の中央防災会議の作業部会で降灰対策について議論した時、主査を務めた藤井敏嗣(としつぐ)・東京大名誉教授は「富士山の噴火の影響を検討するには、1回の噴火でどのくらいの火山灰が積もったかが重要になる」と説明する。
しかし、桜島の降灰データは、鹿児島県が公表した月単位のものが引用されていた。富士山の大噴火では地域によっては1日で10センチ超の降灰が想定されているのに、桜島の1回の噴火では1ミリ以上積もることは珍しい。
このため、桜島のような毎月の累積データでは、1回の噴火でどれだけ灰が積もったかが分からず、停電への影響を調べられるのかが疑わしいという。
藤井名誉教授は「桜島のデータを首都圏での停電に結びつけることに無理がある。もし作業部会の委員に火山の専門家がいたら、クレームがついたようなデータの引用と試算だった」と指摘する
気象庁の火山噴火予知連絡会の会長や京都大桜島火山観測所長を務めた石原和弘・京大名誉教授も、桜島の停電世帯の公式記録がないことから「月単位の降灰データの引用だけでなく、停電の全体像を把握しきれないまま推計するなど、データの取り扱いが必ずしも適当ではないのではないか」と話す。
このような見方に、経産省の担当者は「1回の噴火ごとの降灰データを使った方がいいとは思うが、そういったデータは見当たらなかった」、シンクタンクの担当者も「ほかに記録がなく、桜島の記録の引用は苦肉の策だった」と釈明した。
藤井名誉教授はこう提言する。
「対策を検討していく上で(中央防災会議の報告書で示された通り)3ミリ以上降灰する地域で停電が起きることを想定して議論すべきだ」【山口智、安藤いく子、奥山智己】
難しいことは私にはわからないが、毎日新聞の連載は下記の通り3回組まれている。
第1回 首都直下地震の被害想定を上回る影響 (2023/11/22 有料記事)
第2回 政府内部資料の見積もりの「甘さ」(今回)
第3回 東京ドーム390個分の灰の処分は
関連記事 降灰で首都圏住民の6割に物資届かず 政府試算 (2023/11/22)
いつまでも、このような日がやって来ないことを祈りたいが、もし富士山大噴火が起こったら首都機能にしろ、マスコミ報道、経済活動他に多大な影響が出ることだけは間違いないだろうね。
毎日新聞 2023/11/23 06:00 有料記事
もし富士山が大規模に噴火し、江戸時代の時のように火山灰が2週間ほど降り続いたら、首都圏などでは上下水道や通信といったライフラインが大打撃を受けるとみられている。その場合、政府は復旧に向けどんなシナリオを描いているか――。毎日新聞が入手した政府の内部資料を見ると、復旧には共通のカギがあることが見えてくる。
降雨時に3ミリ以上の火山灰で停電
「降雨時に3ミリ以上の火山灰が降り積もると、送電線の絶縁性を保つ器具の機能低下により停電が発生する」政府の中央防災会議が2020年4月に公表した富士山の降灰対策の報告書は、こう想定している。
これを踏まえ内部資料では、噴火後の状況が最悪の場合、およそ2週間後までに東京都や神奈川県などの約3600万人が停電に遭遇する可能性があると見積もっていた。全体像の目安を浮かび上がらせるためだという。
資料をめくると、これとは別の前提条件を引用して電力や上水道などのライフライン施設について触れているページがあった。噴火後の対応手順の案として示された図では、例えば上水道施設なら次のような流れだった。
「噴火発生」→「停電発生」→「機能停止」→「停電の復旧作業開始」→「復旧」→「浄水処理再開」
この場合、噴火発生から作業開始までにかかる日数は、上水道施設までの道路上に積もった火山灰を取り除く時間を考慮して0~数日、作業開始から復旧までの日数は1~2日と見込んでいた。
下水道施設や携帯電話の基地局など通信施設の対応手順案も、基本的な流れは上水道施設と一緒だ。噴火から施設の再稼働までの日数も同じで「0~数日+1~2日」と想定していた。
送電線と鉄塔。富士山が大噴火し火山灰ががいしに降り積もれば停電の恐れがある=東京都荒川区で2023年5月31日午前11時20分、奥山智己撮影
このように、いずれのライフラインの施設でも停電の復旧が遅れると、施設自体の復旧がおぼつかないことが浮かび上がる。
「約3600万人が停電」の一方で……
肝心の電力施設に関しては、こんな書きぶりだった。
「火力発電の機能低下による供給量低下により夏季に190万キロワット(約54万世帯相当)の需給ギャップが想定される」
それでも、需給ギャップが生じても他の地域からの供給が期待できるので「安定供給上の問題が生じる可能性は低い」と記していた。
配電線などへの影響を試算した項目では、桜島(鹿児島県)の降灰データなども使って推計した結果、東京電力管内では40万世帯相当が停電すると記載。このページには「大規模な停電に至る可能性は低い」「車両の通行が可能であれば、作業開始後1日程度で復旧可能」という文言も並んでいた。
つまり、一方では停電に遭遇する住民は最大約3600万人に及ぶという目安を示しながら、もう一方では、具体的な影響を探るために目安とは別のデータを使って試算をして、影響が小さいと見込んでいることがうかがえる。
桜島が噴火し、鹿児島市内方向へ流れる噴煙=2013年8月、気象庁のウェブサイトより
火山学者から疑問
だが、影響が小さいとする想定に、火山学者の中からは疑問の声も出ている。
こうした電力施設に関する記載は、経済産業省がシンクタンクに委託して作成した報告書が基になっている。
報告書をまとめるため、経産省は有識者による作業部会を設けた。委員には、電力大手の技術者や防災科学技術研究所の研究員らの名前が並ぶ。だが、火山学者がいなかったことで、桜島の降灰データの読み方に甘さがあるという。
政府の中央防災会議の作業部会で降灰対策について議論した時、主査を務めた藤井敏嗣(としつぐ)・東京大名誉教授は「富士山の噴火の影響を検討するには、1回の噴火でどのくらいの火山灰が積もったかが重要になる」と説明する。
しかし、桜島の降灰データは、鹿児島県が公表した月単位のものが引用されていた。富士山の大噴火では地域によっては1日で10センチ超の降灰が想定されているのに、桜島の1回の噴火では1ミリ以上積もることは珍しい。
このため、桜島のような毎月の累積データでは、1回の噴火でどれだけ灰が積もったかが分からず、停電への影響を調べられるのかが疑わしいという。
藤井名誉教授は「桜島のデータを首都圏での停電に結びつけることに無理がある。もし作業部会の委員に火山の専門家がいたら、クレームがついたようなデータの引用と試算だった」と指摘する
気象庁の火山噴火予知連絡会の会長や京都大桜島火山観測所長を務めた石原和弘・京大名誉教授も、桜島の停電世帯の公式記録がないことから「月単位の降灰データの引用だけでなく、停電の全体像を把握しきれないまま推計するなど、データの取り扱いが必ずしも適当ではないのではないか」と話す。
このような見方に、経産省の担当者は「1回の噴火ごとの降灰データを使った方がいいとは思うが、そういったデータは見当たらなかった」、シンクタンクの担当者も「ほかに記録がなく、桜島の記録の引用は苦肉の策だった」と釈明した。
藤井名誉教授はこう提言する。
「対策を検討していく上で(中央防災会議の報告書で示された通り)3ミリ以上降灰する地域で停電が起きることを想定して議論すべきだ」【山口智、安藤いく子、奥山智己】
難しいことは私にはわからないが、毎日新聞の連載は下記の通り3回組まれている。
第1回 首都直下地震の被害想定を上回る影響 (2023/11/22 有料記事)
第2回 政府内部資料の見積もりの「甘さ」(今回)
第3回 東京ドーム390個分の灰の処分は
関連記事 降灰で首都圏住民の6割に物資届かず 政府試算 (2023/11/22)
いつまでも、このような日がやって来ないことを祈りたいが、もし富士山大噴火が起こったら首都機能にしろ、マスコミ報道、経済活動他に多大な影響が出ることだけは間違いないだろうね。