本田由紀氏=和田大典撮影
毎日新聞 2023年3月7日
少子高齢化の進行で年金、介護、医療など社会保障費の負担が重くなっているなか、若者と高齢者の対立をあおる風潮がある。
どう考えるべきか、教育社会学者の本田由紀・東京大学大学院教授に聞いた。
◇ ◇
――高齢者を標的にするのは問題のすり替えではありませんか。
本田氏 日本の年金制度が十分でなく持続的でも健全でもないことは事実だ。若者の「自分たちは年金がもらえなくなる」という不満や不安は根拠がある。
しかし、その不満のぶつけ先が高齢者になるのは大きな間違いだ。若者の不安につけこんで、意図的におかしなことを言って、あおる人たちがいる。
ここに至るまでの政策の問題をすべて飛ばして、現在の人口構造だけをクローズアップして高齢者を狙い撃ちにする。高齢者がいるから、自分たちの生活が苦しい、日本社会がダメになっているというような、非常に短絡的で残酷なことを言う、いわゆる「インフルエンサー」たちがいる。
問題は制度の作り方だ。高齢者を害悪と決めつけて解決する問題では全くない。
――批判すべき対象は他にあるのではないでしょうか。
◆少子高齢化の進行によって年金財政が厳しくなることは以前からわかっていたのに、政権が対処してこなかった。自民党は「自助」を掲げ続けてきた。
私は「戦後日本型循環モデル」と言っているが、一定以上の安定した経済成長があれば働き手の賃金が上がり、介護や育児はすべて家庭のなかの女性が担当すればうまく回るだろう、というモデルがある。
低成長時代に入って長いにもかかわらず、いまだに自民党はこのモデルで政策を考え続け、「家族で勝手に生きろ」とおしつけている。
国民の間でいがみ合いをおこして対立をあおり、仕方がないという雰囲気を作って、「やむを得ず」高齢者への給付を削減していく芝居の筋書きができている気がする。
――目指すべき政策はあるはずです。
◆本来は税の累進性を強化し、富裕層から取るべきだ。富めるものからもっと取れというのが正しい政策なのに、高齢者の責任にすり替えられている。
豊かな高齢者はいるが、年金だけで生活する苦しい高齢者も大勢いる。高齢者と富裕層は分類としては別なのに、意図的に重ねられて攻撃されている。このずれは重大だ。
政府が国家の重要な役割である税の再分配機能を果たしていない。国際比較をすると見えてくるが、日本では弱者救済が政府の役割だと考える人の割合が低い。
税の再分配機能が失敗している結果として、若者の生活が苦しくなっている。だから、若者には、自分たちが搾取されている実感が非常に強い。
中学や高校で講演をすることがあるが、「(自分がもらえるようになるころには)年金は立ちゆかなくなるのではないか」「弱者を支えている余裕などないのではないか」などと、詰め寄るような感じで質問をされることがたびたびある。
――単純で過激な考え方が広がっています。
◆社会を支える役割をもっと果たすべきなのは、権力を手にしている人たちであって、庶民に再分配をするのは政治の基本的な役割のはずだ。
ところが今、日本が向かっているのは弱者を攻撃し、権力を持っている人にこびるという全く転倒した方向だ。
サバイバルに駆り立てられている若者にとっては強い人にこびて、そのおこぼれを少しでももらう方が生き延びる見込みが大きくなると感じてしまっている。世の中の成り立ちとして転倒している。
この方向をどうすれば止められるか、もがいている。多くの研究者も努力してデータを出し、提言をしている。マスメディアももっと危機感を持ち、こうした動きに反論してほしい。【聞き手・須藤孝】
このような考え方を聞いたのは初めてだ!我々年寄りが長生きしているのが悪いのではないんだ。ほんと国のトップは一体全体どこを向いて政治をしているんだろう?ホワイトハウスと財界と自分の選挙区だけか?(笑)。さも、国民みんなが幸せになるような打ち上げ花火を「お金の算段もしないで」ボンボン打ち上げては、矛盾を突かれると官僚の書いた建前論原稿を目を凝らして読んでいる。
本田由紀教授、貴重な意見を誠に有難うございました。
毎日新聞 2023年3月7日
少子高齢化の進行で年金、介護、医療など社会保障費の負担が重くなっているなか、若者と高齢者の対立をあおる風潮がある。
どう考えるべきか、教育社会学者の本田由紀・東京大学大学院教授に聞いた。
◇ ◇
――高齢者を標的にするのは問題のすり替えではありませんか。
本田氏 日本の年金制度が十分でなく持続的でも健全でもないことは事実だ。若者の「自分たちは年金がもらえなくなる」という不満や不安は根拠がある。
しかし、その不満のぶつけ先が高齢者になるのは大きな間違いだ。若者の不安につけこんで、意図的におかしなことを言って、あおる人たちがいる。
ここに至るまでの政策の問題をすべて飛ばして、現在の人口構造だけをクローズアップして高齢者を狙い撃ちにする。高齢者がいるから、自分たちの生活が苦しい、日本社会がダメになっているというような、非常に短絡的で残酷なことを言う、いわゆる「インフルエンサー」たちがいる。
問題は制度の作り方だ。高齢者を害悪と決めつけて解決する問題では全くない。
――批判すべき対象は他にあるのではないでしょうか。
◆少子高齢化の進行によって年金財政が厳しくなることは以前からわかっていたのに、政権が対処してこなかった。自民党は「自助」を掲げ続けてきた。
私は「戦後日本型循環モデル」と言っているが、一定以上の安定した経済成長があれば働き手の賃金が上がり、介護や育児はすべて家庭のなかの女性が担当すればうまく回るだろう、というモデルがある。
低成長時代に入って長いにもかかわらず、いまだに自民党はこのモデルで政策を考え続け、「家族で勝手に生きろ」とおしつけている。
国民の間でいがみ合いをおこして対立をあおり、仕方がないという雰囲気を作って、「やむを得ず」高齢者への給付を削減していく芝居の筋書きができている気がする。
――目指すべき政策はあるはずです。
◆本来は税の累進性を強化し、富裕層から取るべきだ。富めるものからもっと取れというのが正しい政策なのに、高齢者の責任にすり替えられている。
豊かな高齢者はいるが、年金だけで生活する苦しい高齢者も大勢いる。高齢者と富裕層は分類としては別なのに、意図的に重ねられて攻撃されている。このずれは重大だ。
政府が国家の重要な役割である税の再分配機能を果たしていない。国際比較をすると見えてくるが、日本では弱者救済が政府の役割だと考える人の割合が低い。
税の再分配機能が失敗している結果として、若者の生活が苦しくなっている。だから、若者には、自分たちが搾取されている実感が非常に強い。
中学や高校で講演をすることがあるが、「(自分がもらえるようになるころには)年金は立ちゆかなくなるのではないか」「弱者を支えている余裕などないのではないか」などと、詰め寄るような感じで質問をされることがたびたびある。
――単純で過激な考え方が広がっています。
◆社会を支える役割をもっと果たすべきなのは、権力を手にしている人たちであって、庶民に再分配をするのは政治の基本的な役割のはずだ。
ところが今、日本が向かっているのは弱者を攻撃し、権力を持っている人にこびるという全く転倒した方向だ。
サバイバルに駆り立てられている若者にとっては強い人にこびて、そのおこぼれを少しでももらう方が生き延びる見込みが大きくなると感じてしまっている。世の中の成り立ちとして転倒している。
この方向をどうすれば止められるか、もがいている。多くの研究者も努力してデータを出し、提言をしている。マスメディアももっと危機感を持ち、こうした動きに反論してほしい。【聞き手・須藤孝】
このような考え方を聞いたのは初めてだ!我々年寄りが長生きしているのが悪いのではないんだ。ほんと国のトップは一体全体どこを向いて政治をしているんだろう?ホワイトハウスと財界と自分の選挙区だけか?(笑)。さも、国民みんなが幸せになるような打ち上げ花火を「お金の算段もしないで」ボンボン打ち上げては、矛盾を突かれると官僚の書いた建前論原稿を目を凝らして読んでいる。
本田由紀教授、貴重な意見を誠に有難うございました。