なるほドリ・ワイド ローマ字の表記=回答・李英浩
毎日新聞 2022/12/11 東京朝刊 有料記事
<気になる>
道路標識や商店の看板で見かけたり、パソコンで日本語を書き表すのに使ったりと、ローマ字に接する機会は日常生活にあふれています。ただ、国は70年近く前からつづり方のルールを変えておらず、実態にそぐわなくなっています。国語政策を検討する国の文化審議会は、見直しに向けた議論をスタートさせました。実は知らないことも多いローマ字について一から解説します。
◆つづりに決まりはないの?
原則「訓令式」、主流は「ヘボン式」
なるほドリ そもそもローマ字って何?
記者 「ABC」から始まるアルファベットで記す日本語のことです。主に2種類が使われています。一つは昭和初期に文部省がまとめた「訓令式」です。ほぼ母音と子音の2文字で構成され規則性が高いのが特徴で、例えば「し」は「si」、「ちゃ」は「tya」と書き表します。もう一つは幕末に来日した米国人宣教師・ヘボンが考案し、つづりを英語風に書き表す「ヘボン式」です。「し」は「shi」、「ちゃ」は「cha」と記します。
Q どちらが使われることが多いのかな?
A 文化庁が2021年度に実施した「国語に関する世論調査」で地名や名詞を挙げ、ローマ字でどのように書き表すかを尋ねたところ、多くの言葉でヘボン式が使われていました。「明石」は、訓令式の「Akasi」を使うと答えた人が23・3%だったのに対し、ヘボン式の「Akashi」を使う人が75・4%。同様に「宇治」は、ヘボン式の「Uji」が訓令式の「Uzi」を上回りました。
Q じゃあ、ヘボン式を使えばいいのかな?
A ローマ字に関する国の考え方は1954年の内閣告示で示されています。原則として訓令式を使うこととし、慣例など「にわかに改めがたい事情がある」場合にはヘボン式などを使っても差し支えないとしました。ただ、国内では第二次大戦の直後、連合国軍総司令部(GHQ)の指令で、駅や道路名のローマ字表記はヘボン式を求められました。内閣告示はありつつも、戦後の国際化も踏まえ、外務省はパスポートに記す名前に、国土交通省は道路の案内標識に書かれている地名などについてヘボン式を使うとしています。
Q 紛らわしいね。
A 有識者で作る文化審議会の国語課題小委員会は7月、つづり方の考えを整理するための議論を本格的に始めました。背景の一つには、小学校の学習環境の変化が挙げられます。
ローマ字のつづり方は、小学3年の国語で訓令式を中心に学びます。ただ、20年に新学習指導要領が実施され、3、4年生で英語の授業が始まったことで子供たちに混乱も生じているといいます。例えば、「ち」は訓令式で「ti」、ヘボン式で「chi」と書きますが、英語の「time」「child」といった単語は、ローマ字とは大きく異なる発音で読まれます。同じアルファベットを使う言葉なのに、つづりや読みのルールが違うので戸惑ってしまうのです。
文科省のGIGAスクール構想でデジタル端末が1人1台配られ、ネットやプログラミングを通じ子供がアルファベットに接する機会は増えました。今後、表記を巡る混乱が生じていないか調べるとしています。
◆外国人には分かりやすい?
表記に混乱あり、工夫が必要
Q 世間でよく使われているヘボン式に統一すればいいんじゃない?
A 言葉によっては訓令式が浸透しているものもあります。例えば「五所川原」は訓令式の「Gosyogawara」がヘボン式の「Goshogawara」をやや上回っています。小委員会は、さまざまな表記が使われていることを踏まえ、社会に混乱をきたさない形で整理することを目指しています。
Q 他にもローマ字を巡る課題はあるの?
A 日本語教育に詳しい聖心女子大の岩田一成教授は「街中の看板などでは、ローマ字を使った日本語と、英語での表記との書き分けがはっきりしておらず、混乱が生じています」と指摘します。
Q どういうこと?
A 関東地方の1級河川・江戸川を例に挙げます。ローマ字でガイドブックや道路標識に表記する場合、「Edogawa」だけではなく「Edo river」とするケースも考えられます。声に出して伝えるときに混乱する可能性があります。日本語を話す人は「エドガワ」と読んでいるので、街角で外国人観光客らに「エドリバーに行きたい」と尋ねられても、ピンとこないのです。
ローマ字は一般的に読まれる音通りに記し、「Edogawa river」「Roppongi dôri ave.」などと意味を表す「river」や「ave.」などを加える場合は、その部分の色や字体を変えるのが望ましいそうです。
岩田教授は「日本で暮らす外国人の半数はローマ字が読めませんが、ひらがなは8割が理解できます。ローマ字は、外国人とのコミュニケーションだけを考えると効率は良くないのかもしれません」と話します。(東京社会部)<グラフィック 平山義孝>
「そだねー」(古るー)。即、「ヘボン式」一本にすべきでしょう!小学3年の国語で訓令式で勉強させて、3、4年生で英語の授業をするのだったら3年生は一番の被害者ですよね。私も中1から英語を習いはじめているので(笑)、標記の違いはなんとなく分かるけど、上から三番目の道路標識の写真の「祝田橋 Iwaida Brdg.」「新橋 Shinbashi」「赤羽橋 Akabanebashi」なんて落語のネタにでもなりそうだ!
国語政策を検討する国の文化審議会には、20代、30代の代表も参加させることをお勧めします。そうそう小中高校生も!(笑)
毎日新聞 2022/12/11 東京朝刊 有料記事
<気になる>
道路標識や商店の看板で見かけたり、パソコンで日本語を書き表すのに使ったりと、ローマ字に接する機会は日常生活にあふれています。ただ、国は70年近く前からつづり方のルールを変えておらず、実態にそぐわなくなっています。国語政策を検討する国の文化審議会は、見直しに向けた議論をスタートさせました。実は知らないことも多いローマ字について一から解説します。
◆つづりに決まりはないの?
原則「訓令式」、主流は「ヘボン式」
なるほドリ そもそもローマ字って何?
記者 「ABC」から始まるアルファベットで記す日本語のことです。主に2種類が使われています。一つは昭和初期に文部省がまとめた「訓令式」です。ほぼ母音と子音の2文字で構成され規則性が高いのが特徴で、例えば「し」は「si」、「ちゃ」は「tya」と書き表します。もう一つは幕末に来日した米国人宣教師・ヘボンが考案し、つづりを英語風に書き表す「ヘボン式」です。「し」は「shi」、「ちゃ」は「cha」と記します。
Q どちらが使われることが多いのかな?
A 文化庁が2021年度に実施した「国語に関する世論調査」で地名や名詞を挙げ、ローマ字でどのように書き表すかを尋ねたところ、多くの言葉でヘボン式が使われていました。「明石」は、訓令式の「Akasi」を使うと答えた人が23・3%だったのに対し、ヘボン式の「Akashi」を使う人が75・4%。同様に「宇治」は、ヘボン式の「Uji」が訓令式の「Uzi」を上回りました。
Q じゃあ、ヘボン式を使えばいいのかな?
A ローマ字に関する国の考え方は1954年の内閣告示で示されています。原則として訓令式を使うこととし、慣例など「にわかに改めがたい事情がある」場合にはヘボン式などを使っても差し支えないとしました。ただ、国内では第二次大戦の直後、連合国軍総司令部(GHQ)の指令で、駅や道路名のローマ字表記はヘボン式を求められました。内閣告示はありつつも、戦後の国際化も踏まえ、外務省はパスポートに記す名前に、国土交通省は道路の案内標識に書かれている地名などについてヘボン式を使うとしています。
Q 紛らわしいね。
A 有識者で作る文化審議会の国語課題小委員会は7月、つづり方の考えを整理するための議論を本格的に始めました。背景の一つには、小学校の学習環境の変化が挙げられます。
ローマ字のつづり方は、小学3年の国語で訓令式を中心に学びます。ただ、20年に新学習指導要領が実施され、3、4年生で英語の授業が始まったことで子供たちに混乱も生じているといいます。例えば、「ち」は訓令式で「ti」、ヘボン式で「chi」と書きますが、英語の「time」「child」といった単語は、ローマ字とは大きく異なる発音で読まれます。同じアルファベットを使う言葉なのに、つづりや読みのルールが違うので戸惑ってしまうのです。
文科省のGIGAスクール構想でデジタル端末が1人1台配られ、ネットやプログラミングを通じ子供がアルファベットに接する機会は増えました。今後、表記を巡る混乱が生じていないか調べるとしています。
◆外国人には分かりやすい?
表記に混乱あり、工夫が必要
Q 世間でよく使われているヘボン式に統一すればいいんじゃない?
A 言葉によっては訓令式が浸透しているものもあります。例えば「五所川原」は訓令式の「Gosyogawara」がヘボン式の「Goshogawara」をやや上回っています。小委員会は、さまざまな表記が使われていることを踏まえ、社会に混乱をきたさない形で整理することを目指しています。
Q 他にもローマ字を巡る課題はあるの?
A 日本語教育に詳しい聖心女子大の岩田一成教授は「街中の看板などでは、ローマ字を使った日本語と、英語での表記との書き分けがはっきりしておらず、混乱が生じています」と指摘します。
Q どういうこと?
A 関東地方の1級河川・江戸川を例に挙げます。ローマ字でガイドブックや道路標識に表記する場合、「Edogawa」だけではなく「Edo river」とするケースも考えられます。声に出して伝えるときに混乱する可能性があります。日本語を話す人は「エドガワ」と読んでいるので、街角で外国人観光客らに「エドリバーに行きたい」と尋ねられても、ピンとこないのです。
ローマ字は一般的に読まれる音通りに記し、「Edogawa river」「Roppongi dôri ave.」などと意味を表す「river」や「ave.」などを加える場合は、その部分の色や字体を変えるのが望ましいそうです。
岩田教授は「日本で暮らす外国人の半数はローマ字が読めませんが、ひらがなは8割が理解できます。ローマ字は、外国人とのコミュニケーションだけを考えると効率は良くないのかもしれません」と話します。(東京社会部)<グラフィック 平山義孝>
「そだねー」(古るー)。即、「ヘボン式」一本にすべきでしょう!小学3年の国語で訓令式で勉強させて、3、4年生で英語の授業をするのだったら3年生は一番の被害者ですよね。私も中1から英語を習いはじめているので(笑)、標記の違いはなんとなく分かるけど、上から三番目の道路標識の写真の「祝田橋 Iwaida Brdg.」「新橋 Shinbashi」「赤羽橋 Akabanebashi」なんて落語のネタにでもなりそうだ!
国語政策を検討する国の文化審議会には、20代、30代の代表も参加させることをお勧めします。そうそう小中高校生も!(笑)