東京都議会で所信表明する小池百合子都知事=東京都新宿区で2021年6月1日午後1時25分、佐々木順一撮影
サンデー毎日
毎日新聞 2021/6/19 05:00 有料記事
パラリンピック切り捨てか 対コロナは掛け声ばかり
連日、記者会見で自粛を訴える東京都の小池百合子知事。都民の命を守る姿に、一時は称賛の声もあった。しかし、〝冗舌な女帝〟が、東京五輪については、多くを語らないままだ。なぜか。秘密のベールに包まれた都庁の実態と、小池氏の〝隠された野望〟に迫る。
「絵解きかるたのような〝言葉遊び〟は、全くもって不謹慎。やってはいけないことです」
憤まんやるかたない表情でこう語るのは、前東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏だ。怒りの矛先は、小池百合子東京都知事に向けられたものだ。
6月4日、小池氏は定例会見で、新型コロナウイルス感染予防対策として、「『8時だよ、みんな帰ろう』。これを徹底していく必要があると思いますので、働き方の意識も変えていただければ」と呼びかけ、カエルのイラストが載るフリップを片手にアピールした。
「フリップには『8時にはみんなかえる』としか書いてなかったのに、かつての人気番組『8時だョ!全員集合』にあやかって言ったのでしょうが、あの番組にはザ・ドリフターズが出演。つまり、志村けんさんが出ていた番組です。テレビキャスター出身者としても、センスが無さすぎです」(舛添氏)
昨年3月、コロナで急死した志村さんをおもんぱかれば、やってはいけないことだと指摘する。
これまでも小池氏は、コロナ対策に「3密」「ステイホーム」「〝夜の街〟要注意」「5つの小」といったキャッチフレーズを連発し、話題にはなった。一方、PCR検査の拡充や重症者用の病床数確保については、多少の改善はされたものの劇的な進展は見られず、ひたすら都民に自粛を促すだけのように見える。
小池氏が都知事就任以降、真っ先に手がけたのは、築地市場の豊洲移転問題だった。元都庁幹部で、小池氏を間近で見てきた澤章氏はこう語る。
「小池氏は当時、『築地を守る、豊洲は活(い)かす』という言葉を掲げましたが、『8時だよ』も同じ秀逸な〝キャッチフレーズ政治〟と言えるでしょう。しかし、浮ついた言葉だけで中身が無いこと甚だしい」
澤氏は1986年に都庁入庁後、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任し、都環境公社理事長になった。2020年、『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓(じょうし)すると理事長職を解任された。澤氏の解説はさらに続く。
「役人が用意した原稿を、その場で自分の言葉に手直ししたりする。その能力は長(た)けているが、中身が伴っていない。だから、その後は尻切れトンボに終わってしまうように感じます」
そう言えば、16年の都知事選では「7つのゼロ」を公約に掲げた。ペット殺処分ゼロを辛うじて進め、満員電車ゼロはコロナ禍とテレワークの推奨で正直、比較が難しい。しかし、都道電柱ゼロ、待機児童ゼロは何も実現していない。また、公約の一丁目一番地としていた情報公開も改善の兆しが見られない。
コロナ対策要の局長が昨夏異動
ここで改めて、小池氏のキャリアを振り返ってみよう。ニュースキャスターを務めていた小池氏が政界に転身したのは1992年。7月の参院選に細川護熙(もりひろ)氏が旗揚げした日本新党公認で出馬し、初当選。翌93年の衆院選にくら替え出馬し、当選。非自民の連立与党の一員となった。
94年、新進党の旗揚げに参加。その後、自由党、保守党と所属政党を変え、2002年、自民党に入党した。永田町で〝政界渡り鳥〟と呼ばれるゆえんである。小泉純一郎政権時に環境相、沖縄・北方担当相となり、第1次安倍晋三政権では防衛相と大臣を歴任した。
そして、自民党衆院議員を辞し、16年7月の都知事選に出馬。291万2628票を得て、史上初の女性都知事に就任。20年7月には都知事選史上2番目の得票数となる366万1371票で再選された。
輝かしいキャリアの裏で、都庁内では〝恐怖政治〟が行われているという。匿名を条件に、都庁幹部職員はこう語る。
「コロナ対策も五輪対応も知事の一声で決まってしまいます。諫言(かんげん)すれば疎ましく思われ、左遷される。無理難題でも黙って従うしかない。都庁内は思考停止状態そのものです」
その一例を澤氏は、こう解説してくれた。
「昨年2月、コロナ感染拡大で、当時の福祉保健局長が『保健所との連携がうまくいっていない。改善すべき』と直接言ったそうです。コロナ対策の要のリーダーでしたが、7月には交通局長に異動となりました」
交通局長は公営企業のセクションで、同じ局長職でもランクは上だという。いわば〝栄転〟人事だが、長年福祉や公衆衛生に携わってきたスペシャリストを外し、後釜には公衆衛生の経験がない財務局出身者を据えたというのだ。
「小池氏は、財務局の中でも予算を取り仕切る主計部出身者で側近を固めています。一方で、福祉保健局長の異動人事があった翌8月には、医療系の部長が辞職しました」(澤氏)
小池氏が知事就任以降、このような人事がまかり通り、モノ言えぬ雰囲気が都庁に流れているという。
「自分の言うことを聞き、忠実に早く実行できる者だけが出世できるシステムになっている。アメとムチの使い分けができている証左でしょう。都民ファーストではなく、まさに〝自分ファースト〟です」(同)
舛添氏はこう語る。
「澤氏も〝被害者〟の一人。公益財団法人の理事長職は、いわゆる天下りポスト。都庁職員とは違うのに、暴露本を書いた〝罪〟で切り捨てた。尋常ではない」
それでも、都民の命や生活が守られているのなら、トップリーダーとして申し分ないだろう。ところが、冒頭のようにキャッチフレーズによる自粛生活の要請ばかりが実情なのだ。
「国がわずかなカネをばら撒(ま)いた際、都も遅れるな、とばかりに無計画にばら撒いて9200億円の基金をひと月で使い果たした。本来であれば、ドイツのように前年の売り上げの75%補償を、都債を発行してでも構わないから行うべきだった。首都・東京は他都市のモデルになる施策を行わなければいけない。それを国と張り合うことばかりで、調整も一切しない。これでは都民は報われない」(舛添氏)
都の時短協力金振り込まれない
報われない都民――。そんな声は至るところで聞こえてくる。
「小池知事が、これまでどんな音楽を聴いてきたのかは知らないが、音楽をはじめとするエンターテインメント全般を〝不要不急〟の一言で片づけることに憤りを感じました」
こう語るのは、都内の音楽プロダクションで制作部長を務めるAさんだ。
不要不急については、外出を控えることの訴えに使うとともに、エンターテインメント業界の自粛要請にも使われた。Aさんの会社は、昨年の売り上げが前年比90%以上のダウンとなった。それだけではない。
「ファンの人たちからは『コンサートに行けなくて体調を崩した』『精神的にも肉体的にも病んでいます』との声が数多く寄せられています」(Aさん)
劇場や映画館は、コロナ禍で感染防止策を入念に行ってきた。なのに、データを示さず、特定の業界を狙い撃ちにする都の姿勢に、Aさんは疑問を呈する。
エンタメ業界ばかりではない。今年に入り、東京都には1月から2カ月以上におよぶ緊急事態宣言、4月25日からは3度目の緊急事態宣言が発令された。大きな打撃を受けたと報じられているのは飲食業界だ。
〝サラリーマンの聖地〟として知られる東京・新橋で居酒屋「やきとんユカちゃん」のオーナー、藤嶋由香さんもあきれ顔で語る。
「(小池氏が)初めて都知事選に出馬した時はリーダーシップがあると思い、期待しましたが、パフォーマンスだけで実態が伴っていない。都が効果的なコロナ対策を打ち出せない中、飲食店に的を絞って〝やっている感〟を出しているようにしか見えません」
同店は2度目の緊急事態宣言までは、都の時短要請に協力してきた。だが、協力金の一部は6月上旬時点で、まだ振り込まれていない。藤嶋さんは「時短を要請するなら、約束は速やかに履行してほしい」。都内で計4店舗を展開するが、1店舗は6月末で廃業するなど影響は深刻だ。
一方、4月25日から酒類の提供も行う通常営業に切り替えた。理由は取引先を守るためでもある。飲食店と違って酒屋への補償はなく、酒類提供を止めていれば日ごろ、お世話になっている酒屋の経営を圧迫することにもつながる。藤嶋さんは「店を閉めるのが命を守ることにつながると言うが、店を開けるのも命を守ることにもなる」と語る。
もちろん、コロナ対策は都単独のものではない。ただ、都民に対し毎日のように記者会見で訴える小池氏に対し、藤嶋さんは不信感を拭えない。
パラ中止で国政復帰との臆測も
このような都民の悲痛な叫びがある一方、開催まで40日を切った東京五輪・パラリンピックについて小池氏は、「安全安心な大会を開催することについて東京都の方針は変わっていない」(4月23日、都の定例知事会見)、「コロナ対策をしっかりして、安全安心な大会にすべく(政府と都が)連携していく」(5月21日、官邸内で)と、多くを語らず、開催に向けて準備していくことを示すのみだ。
「国政で、菅義偉首相が連日ヤリ玉にあげられていますが、五輪の主催は国ではなく都市。つまり、東京五輪は東京都で、小池氏が権限を持っている。世界が〝コロナとの戦争〟の中、ワクチン接種が進み〝休戦状態〟になった米国やイスラエル、英国などが『五輪をやります』と言うのは分かるが、今なお〝激戦状態〟の東京が『やります』と言ってはいけない」(舛添氏)
読売新聞が6月に実施した全国世論調査では、東京五輪・パラリンピックは「開催する」が50%、「中止する」は48%と、わずかだが開催支持が上回った。
澤氏は「小池氏は、元々五輪に興味がない。開催すれば箔(はく)がつく程度のことでしょう。この難局をうまく切り抜けることだけを考えているように見えます」。
舛添氏はこう読む。
「都内は、徐々に感染者数が下がっています。ここで中止を宣言したら、批判の矢面に立たされかねない。だから、はっきり明言しない。ところが、感染者数が再び上がれば、率先して中止を宣言する可能性があると思います」
この予測を裏付けるかのように、自民党関係者はこう語る。
「東京五輪は8月8日に閉会し、約2週間後の同24日、パラリンピックが開会します。この〝空白期間〟に第5波の感染拡大となった場合、小池氏はいち早くパラリンピック中止を宣言するのではないでしょうか」
臆測の域を出ない。だが「国政復帰をめざしている小池氏であれば、あり得ること」(前出の自民党関係者)。というのも、7月4日投開票の東京都議選では、小池氏が立ち上げ、都議会第1党となった都民ファーストの会が、大きく議席を減らすと見られている。代わって自民党が第1党に復帰するというのだ。
そこで、都政運営が苦しくなった小池氏は、感染拡大を受けてパラ中止を決め、その責任を取って知事を辞任。一方、身をていして感染拡大を食い止めたとの喝采を浴びた小池氏は、今秋までに行われる衆院選に打って出て、日本初の女性宰相を目指すのではないかという自民党側の読みだ。
ただ、小池氏の知事就任後、複数の都幹部は「知事はオリよりパラに関心があるようだ」と目を輝かせていた。そんな思い入れのあるパラを泣く泣く切り捨てるのか。果たして、〝沈黙の女帝〟はどう出るか。
(本誌・山田厚俊、飯山太郎)
小池都知事が〝政界渡り鳥〟なのは百も承知だが、小泉内閣では閣僚全員にクールビズといって沖縄の「かりゆしウエア」を着せるし、今では自民党の二階幹事長に「小池百合子さんに代わる候補者が自民党に居ますか、小池さんを推します」とも言わせたが、私は買いかぶり過ぎていたようだね。但し、総理のポストにもし座っていたら、菅さんよりましな気はするんだが・・・(笑)。「モノ言えぬ雰囲気が都庁に流れている」なんて菅総理と瓜二つだな!
サンデー毎日
毎日新聞 2021/6/19 05:00 有料記事
パラリンピック切り捨てか 対コロナは掛け声ばかり
連日、記者会見で自粛を訴える東京都の小池百合子知事。都民の命を守る姿に、一時は称賛の声もあった。しかし、〝冗舌な女帝〟が、東京五輪については、多くを語らないままだ。なぜか。秘密のベールに包まれた都庁の実態と、小池氏の〝隠された野望〟に迫る。
「絵解きかるたのような〝言葉遊び〟は、全くもって不謹慎。やってはいけないことです」
憤まんやるかたない表情でこう語るのは、前東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏だ。怒りの矛先は、小池百合子東京都知事に向けられたものだ。
6月4日、小池氏は定例会見で、新型コロナウイルス感染予防対策として、「『8時だよ、みんな帰ろう』。これを徹底していく必要があると思いますので、働き方の意識も変えていただければ」と呼びかけ、カエルのイラストが載るフリップを片手にアピールした。
「フリップには『8時にはみんなかえる』としか書いてなかったのに、かつての人気番組『8時だョ!全員集合』にあやかって言ったのでしょうが、あの番組にはザ・ドリフターズが出演。つまり、志村けんさんが出ていた番組です。テレビキャスター出身者としても、センスが無さすぎです」(舛添氏)
昨年3月、コロナで急死した志村さんをおもんぱかれば、やってはいけないことだと指摘する。
これまでも小池氏は、コロナ対策に「3密」「ステイホーム」「〝夜の街〟要注意」「5つの小」といったキャッチフレーズを連発し、話題にはなった。一方、PCR検査の拡充や重症者用の病床数確保については、多少の改善はされたものの劇的な進展は見られず、ひたすら都民に自粛を促すだけのように見える。
小池氏が都知事就任以降、真っ先に手がけたのは、築地市場の豊洲移転問題だった。元都庁幹部で、小池氏を間近で見てきた澤章氏はこう語る。
「小池氏は当時、『築地を守る、豊洲は活(い)かす』という言葉を掲げましたが、『8時だよ』も同じ秀逸な〝キャッチフレーズ政治〟と言えるでしょう。しかし、浮ついた言葉だけで中身が無いこと甚だしい」
澤氏は1986年に都庁入庁後、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任し、都環境公社理事長になった。2020年、『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓(じょうし)すると理事長職を解任された。澤氏の解説はさらに続く。
「役人が用意した原稿を、その場で自分の言葉に手直ししたりする。その能力は長(た)けているが、中身が伴っていない。だから、その後は尻切れトンボに終わってしまうように感じます」
そう言えば、16年の都知事選では「7つのゼロ」を公約に掲げた。ペット殺処分ゼロを辛うじて進め、満員電車ゼロはコロナ禍とテレワークの推奨で正直、比較が難しい。しかし、都道電柱ゼロ、待機児童ゼロは何も実現していない。また、公約の一丁目一番地としていた情報公開も改善の兆しが見られない。
コロナ対策要の局長が昨夏異動
ここで改めて、小池氏のキャリアを振り返ってみよう。ニュースキャスターを務めていた小池氏が政界に転身したのは1992年。7月の参院選に細川護熙(もりひろ)氏が旗揚げした日本新党公認で出馬し、初当選。翌93年の衆院選にくら替え出馬し、当選。非自民の連立与党の一員となった。
94年、新進党の旗揚げに参加。その後、自由党、保守党と所属政党を変え、2002年、自民党に入党した。永田町で〝政界渡り鳥〟と呼ばれるゆえんである。小泉純一郎政権時に環境相、沖縄・北方担当相となり、第1次安倍晋三政権では防衛相と大臣を歴任した。
そして、自民党衆院議員を辞し、16年7月の都知事選に出馬。291万2628票を得て、史上初の女性都知事に就任。20年7月には都知事選史上2番目の得票数となる366万1371票で再選された。
輝かしいキャリアの裏で、都庁内では〝恐怖政治〟が行われているという。匿名を条件に、都庁幹部職員はこう語る。
「コロナ対策も五輪対応も知事の一声で決まってしまいます。諫言(かんげん)すれば疎ましく思われ、左遷される。無理難題でも黙って従うしかない。都庁内は思考停止状態そのものです」
その一例を澤氏は、こう解説してくれた。
「昨年2月、コロナ感染拡大で、当時の福祉保健局長が『保健所との連携がうまくいっていない。改善すべき』と直接言ったそうです。コロナ対策の要のリーダーでしたが、7月には交通局長に異動となりました」
交通局長は公営企業のセクションで、同じ局長職でもランクは上だという。いわば〝栄転〟人事だが、長年福祉や公衆衛生に携わってきたスペシャリストを外し、後釜には公衆衛生の経験がない財務局出身者を据えたというのだ。
「小池氏は、財務局の中でも予算を取り仕切る主計部出身者で側近を固めています。一方で、福祉保健局長の異動人事があった翌8月には、医療系の部長が辞職しました」(澤氏)
小池氏が知事就任以降、このような人事がまかり通り、モノ言えぬ雰囲気が都庁に流れているという。
「自分の言うことを聞き、忠実に早く実行できる者だけが出世できるシステムになっている。アメとムチの使い分けができている証左でしょう。都民ファーストではなく、まさに〝自分ファースト〟です」(同)
舛添氏はこう語る。
「澤氏も〝被害者〟の一人。公益財団法人の理事長職は、いわゆる天下りポスト。都庁職員とは違うのに、暴露本を書いた〝罪〟で切り捨てた。尋常ではない」
それでも、都民の命や生活が守られているのなら、トップリーダーとして申し分ないだろう。ところが、冒頭のようにキャッチフレーズによる自粛生活の要請ばかりが実情なのだ。
「国がわずかなカネをばら撒(ま)いた際、都も遅れるな、とばかりに無計画にばら撒いて9200億円の基金をひと月で使い果たした。本来であれば、ドイツのように前年の売り上げの75%補償を、都債を発行してでも構わないから行うべきだった。首都・東京は他都市のモデルになる施策を行わなければいけない。それを国と張り合うことばかりで、調整も一切しない。これでは都民は報われない」(舛添氏)
都の時短協力金振り込まれない
報われない都民――。そんな声は至るところで聞こえてくる。
「小池知事が、これまでどんな音楽を聴いてきたのかは知らないが、音楽をはじめとするエンターテインメント全般を〝不要不急〟の一言で片づけることに憤りを感じました」
こう語るのは、都内の音楽プロダクションで制作部長を務めるAさんだ。
不要不急については、外出を控えることの訴えに使うとともに、エンターテインメント業界の自粛要請にも使われた。Aさんの会社は、昨年の売り上げが前年比90%以上のダウンとなった。それだけではない。
「ファンの人たちからは『コンサートに行けなくて体調を崩した』『精神的にも肉体的にも病んでいます』との声が数多く寄せられています」(Aさん)
劇場や映画館は、コロナ禍で感染防止策を入念に行ってきた。なのに、データを示さず、特定の業界を狙い撃ちにする都の姿勢に、Aさんは疑問を呈する。
エンタメ業界ばかりではない。今年に入り、東京都には1月から2カ月以上におよぶ緊急事態宣言、4月25日からは3度目の緊急事態宣言が発令された。大きな打撃を受けたと報じられているのは飲食業界だ。
〝サラリーマンの聖地〟として知られる東京・新橋で居酒屋「やきとんユカちゃん」のオーナー、藤嶋由香さんもあきれ顔で語る。
「(小池氏が)初めて都知事選に出馬した時はリーダーシップがあると思い、期待しましたが、パフォーマンスだけで実態が伴っていない。都が効果的なコロナ対策を打ち出せない中、飲食店に的を絞って〝やっている感〟を出しているようにしか見えません」
同店は2度目の緊急事態宣言までは、都の時短要請に協力してきた。だが、協力金の一部は6月上旬時点で、まだ振り込まれていない。藤嶋さんは「時短を要請するなら、約束は速やかに履行してほしい」。都内で計4店舗を展開するが、1店舗は6月末で廃業するなど影響は深刻だ。
一方、4月25日から酒類の提供も行う通常営業に切り替えた。理由は取引先を守るためでもある。飲食店と違って酒屋への補償はなく、酒類提供を止めていれば日ごろ、お世話になっている酒屋の経営を圧迫することにもつながる。藤嶋さんは「店を閉めるのが命を守ることにつながると言うが、店を開けるのも命を守ることにもなる」と語る。
もちろん、コロナ対策は都単独のものではない。ただ、都民に対し毎日のように記者会見で訴える小池氏に対し、藤嶋さんは不信感を拭えない。
パラ中止で国政復帰との臆測も
このような都民の悲痛な叫びがある一方、開催まで40日を切った東京五輪・パラリンピックについて小池氏は、「安全安心な大会を開催することについて東京都の方針は変わっていない」(4月23日、都の定例知事会見)、「コロナ対策をしっかりして、安全安心な大会にすべく(政府と都が)連携していく」(5月21日、官邸内で)と、多くを語らず、開催に向けて準備していくことを示すのみだ。
「国政で、菅義偉首相が連日ヤリ玉にあげられていますが、五輪の主催は国ではなく都市。つまり、東京五輪は東京都で、小池氏が権限を持っている。世界が〝コロナとの戦争〟の中、ワクチン接種が進み〝休戦状態〟になった米国やイスラエル、英国などが『五輪をやります』と言うのは分かるが、今なお〝激戦状態〟の東京が『やります』と言ってはいけない」(舛添氏)
読売新聞が6月に実施した全国世論調査では、東京五輪・パラリンピックは「開催する」が50%、「中止する」は48%と、わずかだが開催支持が上回った。
澤氏は「小池氏は、元々五輪に興味がない。開催すれば箔(はく)がつく程度のことでしょう。この難局をうまく切り抜けることだけを考えているように見えます」。
舛添氏はこう読む。
「都内は、徐々に感染者数が下がっています。ここで中止を宣言したら、批判の矢面に立たされかねない。だから、はっきり明言しない。ところが、感染者数が再び上がれば、率先して中止を宣言する可能性があると思います」
この予測を裏付けるかのように、自民党関係者はこう語る。
「東京五輪は8月8日に閉会し、約2週間後の同24日、パラリンピックが開会します。この〝空白期間〟に第5波の感染拡大となった場合、小池氏はいち早くパラリンピック中止を宣言するのではないでしょうか」
臆測の域を出ない。だが「国政復帰をめざしている小池氏であれば、あり得ること」(前出の自民党関係者)。というのも、7月4日投開票の東京都議選では、小池氏が立ち上げ、都議会第1党となった都民ファーストの会が、大きく議席を減らすと見られている。代わって自民党が第1党に復帰するというのだ。
そこで、都政運営が苦しくなった小池氏は、感染拡大を受けてパラ中止を決め、その責任を取って知事を辞任。一方、身をていして感染拡大を食い止めたとの喝采を浴びた小池氏は、今秋までに行われる衆院選に打って出て、日本初の女性宰相を目指すのではないかという自民党側の読みだ。
ただ、小池氏の知事就任後、複数の都幹部は「知事はオリよりパラに関心があるようだ」と目を輝かせていた。そんな思い入れのあるパラを泣く泣く切り捨てるのか。果たして、〝沈黙の女帝〟はどう出るか。
(本誌・山田厚俊、飯山太郎)
小池都知事が〝政界渡り鳥〟なのは百も承知だが、小泉内閣では閣僚全員にクールビズといって沖縄の「かりゆしウエア」を着せるし、今では自民党の二階幹事長に「小池百合子さんに代わる候補者が自民党に居ますか、小池さんを推します」とも言わせたが、私は買いかぶり過ぎていたようだね。但し、総理のポストにもし座っていたら、菅さんよりましな気はするんだが・・・(笑)。「モノ言えぬ雰囲気が都庁に流れている」なんて菅総理と瓜二つだな!