毎日新聞 2020年8月3日 東京夕刊
7日から山手線並み
開業して半世紀になる東海道新幹線のダイヤが、新たな領域に踏み出す。7日から「のぞみ」の1時間あたりの本数が、これまでより2本多い最大12本になるのだ。「ひかり」と「こだま」を合わせると、ピーク時は新幹線が3分半に1本のペースで東京駅を出発する。日中のJR山手線並みの「過密ダイヤ」だ。どうやって実現できたのだろうか。その背景を探った。【山本佳孝】
6月のある平日。午後2時35分、東京駅16番ホームに上りの「のぞみ18号」が滑り込んできた。すべての乗客が降りると、入れ替わるように44人の清掃員が一斉に乗り込む。到着から16分後に迫る折り返し運転の準備だ。座席を次々に回転させて向きを次の進行方向に合わせ、床に落ちたゴミをほうきで取り除く。機敏な動きはまるで熟練した職人のよう。作業を終えた清掃員が降車すると、列車は「のぞみ95号」として定刻通り広島へ向かった。
ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、こんな雰囲気5年くらい前に日本アルプスの帰りに、新大阪駅の下りのプラットホームに立って感じたことがある。なにせ、博多行き、鹿児島行き、岡山止まりと次々にこだまや、ひかり、のぞみの電車が出るので驚いたものだ。こんな真似は日本以外の国に新幹線車両を持ち込んでも絶対に運行できないだろうと!たぶんあの頃も3分半に1本のペースくらいで発着していたのではないだろうか?それが、3密ではない(笑)、まだ過密ダイヤになるんだ!中国のように脱線なんて起こらないだろうね。とにかくすごい!ん?リニア新幹線が開業したら両者への乗客はあるんだろうか?格安航空・LCCのサービスも益々向上しているだろうし・・・。
「10分清掃」。のぞみ12本ダイヤ実現のキーワードだ。運転本数を増やすには、折り返し運転が多い東京駅で、いかに時間を短縮できるかがカギを握る。従来の清掃時間は12分で、これを10分に縮めることが必須条件だった。清掃を担当するのはJR東海のグループ会社「新幹線メンテナンス東海」(東京都中央区)。清掃員たちをまとめるチーフキャストの田中由記子さんは「12分ですらきつい。2分短縮する話を聞いた時は本当にびっくりした」と明かす。ストップウオッチで清掃時間を計り、どの作業を削れるか勉強会で何度も話し合い、効率化の研究を繰り返した。
まず、座席がぬれているかどうかをセンサーで調べる作業を見直した。座席は飲み物や汗でぬれている場合がある。これまでは全座席が検査の対象だったが、過去のデータから座席の背もたれがぬれている場合は座面もぬれているケースが多いことが判明。座面がぬれているかを確認してからセンサーを使う方法に変更した。さらに床の掃き掃除とモップ掛けを同時にできる掃除道具を開発。工夫を積み重ね、2年がかりで目標の2分を削り出した。2019年10月から10分清掃を実現しており、田中さんは「清掃の質は変わらない」と自信を見せる。
ただし、東京駅には他にもハードルがあった。東海道新幹線のホームは六つあるものの、線路はホームを出てすぐに合流して上下線で1本ずつになるため、発着する列車が入り乱れて混雑するのだ。列車の流れをスムーズにするには、到着列車の速度をなるべく緩めない必要があった。そこで、到着時に自動ブレーキがかかるポイントを20年2月から40メートル駅側に寄せた。到着時間はほんの数秒早くなった程度だが、それでも出発列車が素早く出られるようになった。新幹線は最終的に運転士の手動ブレーキで止めるため、オーバーランしないようにブレーキのアシスト機能を導入し、安全対策にも力を入れた。
東京駅に次ぐターミナルの新大阪駅も改良した。13年に27番ホームを新設し、ホーム数は7から8に。「引き上げ線」と呼ばれる列車の留置場所を2本整備し、より多くの列車が止まれるようにした。列車の性能も向上させた。1999年にデビューし、最高時速270キロだった「700系」が20年3月に引退。列車はいずれも21世紀に登場した「N700系」「N700A」「N700S」の三つになり、最高時速は285キロに統一された。
秒単位の時間を削り出して実現にこぎ着けた12本ダイヤ。当初は3月から始める予定だったが、新型コロナウイルスの影響で新幹線利用客が大幅に減り、お盆休み直前の今月7日に延期した。お盆休みの新幹線予約状況も低調だが、12本ダイヤは3密を避けるとの理由もあるとみられる。
過去最多、1日60万席超
1964年に開業し、これまで60億人を運んできた東海道新幹線。東京―新大阪間を最も速く結ぶ「のぞみ」は92年3月に誕生した。それまで最も速かったのは「ひかり」で、東京―新大阪間の所要時間は2時間49分。のぞみはそれを19分縮めて2時間30分にした。速度性能がアップした列車を投入したためだ。さらに速度性能が上がった現在は、最速2時間21分になっている。
当初は1時間に1本でスタートした本数も徐々に増え、2014年から10本ダイヤになった。それでも単身赴任者の帰宅や旅行の出発が多い金曜夕方になると満席になることがあったため、12本ダイヤを導入することにした。
のぞみの座席数は、ひかりやこだまと同じで1本あたり1323席。12本ダイヤの実現で、東海道新幹線は1日あたり最大455本、計60万1965席になる。いずれも過去最多という。
7日から山手線並み
開業して半世紀になる東海道新幹線のダイヤが、新たな領域に踏み出す。7日から「のぞみ」の1時間あたりの本数が、これまでより2本多い最大12本になるのだ。「ひかり」と「こだま」を合わせると、ピーク時は新幹線が3分半に1本のペースで東京駅を出発する。日中のJR山手線並みの「過密ダイヤ」だ。どうやって実現できたのだろうか。その背景を探った。【山本佳孝】
6月のある平日。午後2時35分、東京駅16番ホームに上りの「のぞみ18号」が滑り込んできた。すべての乗客が降りると、入れ替わるように44人の清掃員が一斉に乗り込む。到着から16分後に迫る折り返し運転の準備だ。座席を次々に回転させて向きを次の進行方向に合わせ、床に落ちたゴミをほうきで取り除く。機敏な動きはまるで熟練した職人のよう。作業を終えた清掃員が降車すると、列車は「のぞみ95号」として定刻通り広島へ向かった。
ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、こんな雰囲気5年くらい前に日本アルプスの帰りに、新大阪駅の下りのプラットホームに立って感じたことがある。なにせ、博多行き、鹿児島行き、岡山止まりと次々にこだまや、ひかり、のぞみの電車が出るので驚いたものだ。こんな真似は日本以外の国に新幹線車両を持ち込んでも絶対に運行できないだろうと!たぶんあの頃も3分半に1本のペースくらいで発着していたのではないだろうか?それが、3密ではない(笑)、まだ過密ダイヤになるんだ!中国のように脱線なんて起こらないだろうね。とにかくすごい!ん?リニア新幹線が開業したら両者への乗客はあるんだろうか?格安航空・LCCのサービスも益々向上しているだろうし・・・。
「10分清掃」。のぞみ12本ダイヤ実現のキーワードだ。運転本数を増やすには、折り返し運転が多い東京駅で、いかに時間を短縮できるかがカギを握る。従来の清掃時間は12分で、これを10分に縮めることが必須条件だった。清掃を担当するのはJR東海のグループ会社「新幹線メンテナンス東海」(東京都中央区)。清掃員たちをまとめるチーフキャストの田中由記子さんは「12分ですらきつい。2分短縮する話を聞いた時は本当にびっくりした」と明かす。ストップウオッチで清掃時間を計り、どの作業を削れるか勉強会で何度も話し合い、効率化の研究を繰り返した。
まず、座席がぬれているかどうかをセンサーで調べる作業を見直した。座席は飲み物や汗でぬれている場合がある。これまでは全座席が検査の対象だったが、過去のデータから座席の背もたれがぬれている場合は座面もぬれているケースが多いことが判明。座面がぬれているかを確認してからセンサーを使う方法に変更した。さらに床の掃き掃除とモップ掛けを同時にできる掃除道具を開発。工夫を積み重ね、2年がかりで目標の2分を削り出した。2019年10月から10分清掃を実現しており、田中さんは「清掃の質は変わらない」と自信を見せる。
ただし、東京駅には他にもハードルがあった。東海道新幹線のホームは六つあるものの、線路はホームを出てすぐに合流して上下線で1本ずつになるため、発着する列車が入り乱れて混雑するのだ。列車の流れをスムーズにするには、到着列車の速度をなるべく緩めない必要があった。そこで、到着時に自動ブレーキがかかるポイントを20年2月から40メートル駅側に寄せた。到着時間はほんの数秒早くなった程度だが、それでも出発列車が素早く出られるようになった。新幹線は最終的に運転士の手動ブレーキで止めるため、オーバーランしないようにブレーキのアシスト機能を導入し、安全対策にも力を入れた。
東京駅に次ぐターミナルの新大阪駅も改良した。13年に27番ホームを新設し、ホーム数は7から8に。「引き上げ線」と呼ばれる列車の留置場所を2本整備し、より多くの列車が止まれるようにした。列車の性能も向上させた。1999年にデビューし、最高時速270キロだった「700系」が20年3月に引退。列車はいずれも21世紀に登場した「N700系」「N700A」「N700S」の三つになり、最高時速は285キロに統一された。
秒単位の時間を削り出して実現にこぎ着けた12本ダイヤ。当初は3月から始める予定だったが、新型コロナウイルスの影響で新幹線利用客が大幅に減り、お盆休み直前の今月7日に延期した。お盆休みの新幹線予約状況も低調だが、12本ダイヤは3密を避けるとの理由もあるとみられる。
過去最多、1日60万席超
1964年に開業し、これまで60億人を運んできた東海道新幹線。東京―新大阪間を最も速く結ぶ「のぞみ」は92年3月に誕生した。それまで最も速かったのは「ひかり」で、東京―新大阪間の所要時間は2時間49分。のぞみはそれを19分縮めて2時間30分にした。速度性能がアップした列車を投入したためだ。さらに速度性能が上がった現在は、最速2時間21分になっている。
当初は1時間に1本でスタートした本数も徐々に増え、2014年から10本ダイヤになった。それでも単身赴任者の帰宅や旅行の出発が多い金曜夕方になると満席になることがあったため、12本ダイヤを導入することにした。
のぞみの座席数は、ひかりやこだまと同じで1本あたり1323席。12本ダイヤの実現で、東海道新幹線は1日あたり最大455本、計60万1965席になる。いずれも過去最多という。