Quantcast
Channel: 小父さんから
Viewing all articles
Browse latest Browse all 4329

人生相談  50年前の不義理が頭よぎる=回答者・高橋源一郎 / 毎日新聞

$
0
0
写真は noel からお借りした
 
  私は、相談者の71歳のご婦人の方と同年です。私は胸をかきむしられる思いで苦しんだことは有りませんが、似たような経験で何十年ぶりかに会った後輩は、私の気にしていたことなど忘れていましたね。回答の高橋源一郎先生の「時は、わたしたちが出会った人たちすべてを、夜の星座のようなものに変えてゆく」って素敵な考え方ですね。でも、私の仕事の上で憎たらしかった数人が「懐かしい人」に変われるかどうかは、まだ自信が持てません!(笑)。 

   

人生相談  50年前の不義理が頭よぎる=回答者・高橋源一郎

毎日新聞 2019年3月25日 東京朝刊

 50年近く前、働いていた会社の方にとても良くしていただいたにもかかわらず、大変な不義理をしまして、ここ数年そのことが毎日のように頭をよぎり、胸をかきむしられる思いで苦しんでいます。

 同僚だった夫と結婚した時のお祝いにもお返しせず、お世話になったお礼も言いませんでした。今さらおわびの手紙を出すのもはばかられますし、誰にも言えず悩んでいます。(71歳・女性)

   

 遥(はる)か昔、深く傷つけた人がいます。会うことがあれば謝りたいと、ずっと思ってきました。

 けれど、いつしかそんなふうには考えなくてもいいのではないかと思うようになりました。

 その人はいま、わたしと同じように老いて生きているのでしょうか。それとも、亡くなったのでしょうか。わたしにはわかりません。わかっているのは、わたしの記憶の中で、その人はいまも若く、あの頃のように眩(まぶ)しく輝いていることだけです。

 逆に、思い出す度に震えるほど憎かった人間も許せないと憤った相手もいます。そんな彼らもまた、気がつけば、わたしの中で「懐かしい人」に変わっていました。いまあるのは、わたしの生涯に関わってくれたことへの深い感謝だけです。

 時は、わたしたちが出会った人たちすべてを、夜の星座のようなものに変えてゆくのだと思います。あなたが気にかけているその人は、あなたのことを、いまは懐かしく思っているのかもしれません。あの人はどうしているのか、幸せに生きているのだろうかと。

 だから、気にする必要などありません。そうではなく、天空に輝く星を見上げるように、深い憧憬(しょうけい)の気持ちで、生涯で出会ったすべての人たちを思い出してください。それが彼らへの、あなたからの感謝でありまた最高の謝罪になるのです。

 この世界でいちばん残酷な仕打ちは忘れられてしまうことなんですから。(作家)

Viewing all articles
Browse latest Browse all 4329

Trending Articles