毎日新聞さん、御免なさい。又、すっかり転載させていただきました。
トランプ大統領の言動、毎回トップニュースのようですが、今日も相当ヒートアップしてきました。
私も、かなりの時間、その評論や記事も見ていますが、このヤマザキマリさんのコラムはとても興味深いです。誰かも言ってましたが、過剰反応なのかも知れません!こんなことが大統領2期8年も続くわけありませんね。長い歴史のスパンから言ったらひと時の問題でしょうし、そうあって欲しいものです。
そうそう、イタリアにはベルルスコーニという資産家でスキャンダラスな閣僚評議会議長も居ましたね。
トランプ大統領に驚かないローマ1000年の歴史観 / ヤマザキマリさんに聞く(1)
アメリカでトランプ大統領が誕生。欧州ではイギリスが欧州連合(EU)離脱を宣言し、欧州統合にもほころびが見える。「テルマエ・ロマエ」で知られ長くイタリアに住む漫画家のヤマザキマリさんに、イタリアから見るトランプ政権、欧州統合の行方を聞いた。【聞き手は経済プレミア編集部、平野純一】
──アメリカでトランプ大統領が誕生しました。どのような感想を持ちましたか。
◆ヤマザキマリさん イタリアに長く住んでいる私の視点からすると、あまり驚かなかったというのが正直な感想です。確かに歴代のアメリカ大統領の中では異質で過激な人物かもしれませんが、イタリア人はトランプ氏をものすごく冷静に見ていると思います。この事態に情動的に動いても仕方ない、という感じでしょうか。
イタリア人は、古代ローマ帝国の1000年の歴史、その後のベネチア共和国の1000年の歴史を持っています。この二つの1000年の歴史の中で、人間がやれること、やるべきことはすべてやってきたという感覚をたいていの人々は持っています。
歴史の中で共和政も帝政も王政もすべて経験して、良い為政者も悪い為政者も、政策の成功も失敗もすべて見てきました。だから、少しくらい変な人が出てきても驚かないのです。
昨年11月8日の大統領選の開票を、私はイタリア人十数人と一緒にご飯を食べながらテレビで見ていましたが、みんなで「まあトランプが大統領になったとしても、たかだか4年だし、それまでに飽きて辞めちゃうかもね」などという話をしました。
イタリア人は簡単に政治家を信用しない
──長い歴史を知れば、物事を達観して見られるということですか。
◆わたしの周りのイタリア人の会話の中には、ローマ帝国の皇帝の話が普通に出てきます。皇帝にも当然さまざまなタイプがいて、賢帝もいれば、ひどい皇帝もいました。「この政治家は皇帝ティベリウス(第2代皇帝、紀元前42年~紀元37年)を想起させるね」とか、「暴君ネロ(第5代皇帝、紀元37~68)も最初は民衆にも支持されるいいヤツだった」という会話がなされるのです。
アメリカでは、新しい大統領が選ばれると市民は「あなたが私たちの生活を良くしてくれます。あなたを信じています!」などと言って「信じる美徳」があるように思います。アメリカのポピュリズムとはそういうものなのでしょう。白人の低・中間層がこれまで不遇だったので不満が爆発して、この状況を変えてくれる人がトランプ氏というストーリーなのでしょうか。
しかしイタリアでは信頼は美徳ではありません。信頼とはむしろなまけ者がすることで、知性や教養を持つ人は為政者を疑ってかかります。それは知識階級のある意味で義務的なものとして、そういう行動をすべきだという感覚があります。だからイタリア人から見れば、「そう簡単に社会が変わりますかね」という冷めた見方になるわけです。
オバマ大統領の限界も感じていた
──簡単には信用しないぞという感覚が染みついているわけですね。
◆そこが歴史の長い国と短い国の違いかもしれません。歴史の中には「サンプルになる人間」がたくさんいるので、そういう人が時空を超えて、常に現代の我々の頭に出てきます。だからトランプ氏のような人が出てきても驚きません。こういう人が出てきたら、結果はどうだったというおおよその検証ができているからです。
逆に、8年前にオバマ大統領が出てきた時も、ローマ帝国に例えれば「彼は属州出身のトラヤヌス帝(ローマ出身でない初の皇帝、紀元53~117年)かな」という話をしました。その意味は「非常に知的な人がリーダーになったけれども限界もあるよね」ということです。
イタリアでは、政治に関して討論するテレビ番組が多いですが、今回も当然ながらトランプ氏に賛成の人、反対の人の双方の専門家がさまざまな議論を交わしています。トランプ大統領の政策のメリットとデメリットを盛んに話すのですが、それを見ながら家族で話していても、どれか一つの意見をうのみにすることはないし、討論も極めて冷静に見ている感があります。
イタリア人は政治の話が大好き
──イタリア人は政治にあまり期待していないと……?
◆我々はつい最近ですが、ベルルスコーニ首相を経験しています。彼も資産家でポピュリストの面があり、トランプ氏とよく似ていると言われます。前述したアメリカ大統領選の開票時も、「我々はベルルスコーニを経験しているから、トランプ氏が大統領でも動じないね」という話をしました。
私の周りには、ベルルスコーニという人物を好きではない人間が多いのですが、しかし実際にはベルルスコーニ氏はかなり長い間支持されていました。「どうして?」と思いますが、これがまた政治というものです。
イタリア人は政治の話は大好きで、若者からお年寄りまで、普通の会話の中で政治の話が当たり前に出てきます。イタリアと日本を往復する生活をしていると、日本の日常ではイタリアに比べてかなり政治の話が少ないように思います。これはあまり褒められたことではないですね。
<次回「移民に優しい国イタリアは欧州分断の波に乗るのか」>
略歴
ヤマザキマリ / 漫画家
1967年東京都生まれ。フィレンツェ・アカデミア美術学校で絵画を学ぶ。96年にイタリアでの暮らしをつづったエッセーマンガでデビュー。現在はイタリア北部パドバ市在住。映画にもなった「テルマエ・ロマエ」は「2010年度マンガ大賞2010」「第14回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞、累計部数は900万部。2016年度文部省芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。現在は月刊誌「新潮45」に「プリニウス」(とり・みきさんと共著)などを連載中。