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ごはんの時間 / 中華あんまん=井上都 / 毎日新聞

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  写真は楽天から        

 遠い青春を連れてくるあんまんっていいですね!私だったら・・・と考えていたら「ごまさば」を思い出した。これはお袋の味だ。お袋さん、何かいろんなおやつを作ってくれてたな~。青春時代までしかいっしょに暮していないお袋の味っていつまでも残っているから不思議な気がする。それが美味しいんだな!井上都さん有難うございました。 

  

 ごはんの時間 / 中華あんまん=井上都
 毎日新聞2016年1月29日 東京夕刊
 
 パート先で「契約終了、継続不可」と通告を受けた帰り道、私は何十年ぶりかでホカホカの中華あんまんを買った。同じ通告を受けた人は私と同じシングルマザーで、その夜からすぐに仕事を探し始めたそうだ。次に会ったとき、「明日面接に行く」と話した。そのたくましさに感服するばかりの私は、あの日から毎日あんまんを食べている。なぜあんまん?と自問し、ずっと昔から大好きだったことを思い出した。

 それは高校時代、行きたかった東京の学校を、あんたには合わないという母の陽気な一言で諦めた私は、千葉県市川市の家から歩いて20分の女子高へ進んだ。帰りのあいさつが終わるや否や一目散に家へと向かう、かなり太ったパッとしない女学生だった。

 通学路に「じゅん菜池公園」と名付けられた遊歩道があり、池を囲むようにベンチが置かれていた。途中のパン屋さんで買った熱々のあんまんを食べながら、よくそこで時間を費やした。

 「今日はじいやのお迎えのない日」と、愛らしいお嬢さまである私、目下買い食いの冒険中という物語を作り将来へ思いをはせた。いつもどこか近くから、私が生まれた年にはやったヒット曲「へイ、ポーラ」が流れてきた。知らず知らずただ丸暗記したその歌を、自分のテーマ曲かのように聞いていた。

 夕食後、あんまんを手にすれば「あんまんってさ、おいしいの?」とあんこの苦手な息子が聞く。「すっごくおいしいよ。食べる?」「遠慮しとく」

 多少太っても構いやしないとほおばれば、ほのかにゴマの香る甘いあんは、遠い青春を連れてくる。(エッセイスト)

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