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男の気持ち:杞憂だった 「しあわせだよ。忘れない」福岡県直方市・宮木慎次郎(62歳)/ 毎日新聞

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写真は有吉佐和子の長編小説『恍惚の人』 (こうこつのひと)の映画化、森繁久彌と高峰秀子のワンシーン          
 素敵なお話です。私の母が亡くなった年の正月に息子とふたり故郷・博多に帰った時のことを思い出しました。母は「ありがとう」と言ってくれたものです。

 癌を患って長く床に就いている東京のすぐ上の姉のことも思います。私にはその上に二人の姉も居ますが、病の姉は私たちには姿を見せてくないようです。そんな姉の唯一の楽しみは娘と息子が病院に連れてくる4人の孫だと思っています。私はいつも子供たちからはどんな印象なのかなと想像していましたが、宮木慎次郎さんのこの投稿を読ませていただいてほっとした気持ちです。どうも有難うございました。ちなみに私は今68歳で兵庫県で暮らしております。

  

男の気持ち:杞憂だった 福岡県直方市・宮木慎次郎(62歳)
  (杞憂・・・心配する必要のないことをあれこれ心配すること。取り越し苦労。)  

毎日新聞 2015年09月23日 西部朝刊

 独り者の私にとって、孫の到来はもちろんうれしい。盆と正月にしか会えない彼らだが、いつもその成長に驚かされ、同時に今生の出会いに感謝させてもらっている。

 ただ正直なところを言うと、手放しで喜んでばかりはいられない一抹の不安がある。

 わが家には認知症の母がいて、私が介護している。小学生に認知症が分かるだろうか、せっかくの楽しいだんらんに水を差すことが起きないだろうかと要らぬ心配をしてしまうのだ。

 それが杞憂(きゆう)だったと教えてくれたのは、先だって届いた孫からの絵はがきだった。

 小学校3年生で野球をしている彼は、何でも運動ができる代わりに、ちょっと頭がゆっくりしていて絵も字も苦手だ。

 はがきにはマウンドからボールを投げる自分の姿が描かれていた。やはりへただったが、実に楽しげで、やけに手足が長かった。そしてその絵の横に、くっきりこう書いてあったのだ。

 「おばあちゃん、ねてる? あのね、こんどボクがピッチャーになるから、ぜったい見にきてね。やくそくだよ」

 90歳の母は、絵はがきが届く3日前に病院へ救急搬送され、そのまま入院していた。心不全の危機から脱した先日、ようやく少しの会話ならできるようになった。私は持参した孫の絵はがきをそっと差し出した。

 「まあ」  母は絶句し、ややあって満面の笑みとなり、やがて一筋の涙をこぼした。そして言った。

 「しあわせだよ。忘れない」

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