自宅でインタビューに答える詩人の谷川俊太郎さん=東京都杉並区で2019年10月11日午前11時40分、尾籠章裕撮影
社説 / 谷川俊太郎さん逝く 「生きる」支えた詩の言葉
毎日新聞 2024/11/20 東京朝刊
やさしくて柔らかい。けれども心のひだに深く入り込む。紡がれた言葉が、どれだけ多くの人生に寄り添ってきたことだろう。
戦後の現代詩を代表する詩人、谷川俊太郎さんが92歳で亡くなった。詩を通して言葉の可能性を広げるとともに、絵本や随筆などで世代を超える共感を得てきた。
熱心な読者ならずとも、教科書やCMで谷川さんの世界に触れた人は少なくないだろう。ネット上に哀悼や感謝のメッセージがあふれる。詩人が残したものの大きさを改めて思い知らされる。
親しみやすく、ユーモアもある半面、地球や人類を宇宙の高みから俯瞰(ふかん)するような作品は、読み手の時空も押し広げていく。
デビュー作の「二十億光年の孤独」は、「人類は小さな球の上で/眠り起きそして働き」で始まる。「朝のリレー」は、「カムチャツカの若者が/きりんの夢を見ているとき/メキシコの娘は/朝もやの中でバスを待っている」と読み手をいざなう。語感で遊びながら、やんわりと差しはさむ文明批判も痛烈だ。
一方で、身体感覚に直接訴えかける「ののはな」などのひらがな詩は、日本語の音の面白さや豊かさを味わわせてくれる。
東日本大震災後には、1971年刊行の詩集に収められた「生きる」が再び広く読まれ、喪失感を抱えた人々の支えになった。詩が持つ力であろう。
「生きているということ/いま生きているということ」というフレーズが繰り返される詩は、日常のかけがえのなさを思い起こさせる。同時に、「かくされた悪を注意深くこばむこと」という言葉には、人間や社会の暗部と対峙(たいじ)する覚悟がにじむ。
2019年に出版されたイラストレーターのNoritakeさんとの絵本「へいわとせんそう」は、暴力がエスカレートし、分断が進むいまの世界への問いかけでもあろう。
「みんながいろいろな言葉で平和を追求したりしているけれども、戦争は全然なくならない」「詩の言葉が何かの役に立たないか」
信じていたのは、世界を対立させるのではなく、包み込む詩の力だ。どんな言葉を生み出していくのか。私たちに託された宿題だ。
余録 / 「空をこえて ラララ星のかなた」で…
毎日新聞 2024/11/20 東京朝刊
「ピーナッツ」の翻訳40周年を記念して感謝状を贈呈され、スヌーピー(左)に祝福される谷川俊太郎さん=東京都内のホテルで2007年11月14日午後0時6分、馬場理沙撮影
「空をこえて ラララ星のかなた」で始まる鉄腕アトムの主題歌。「カムチャツカの若者がきりんの夢を見ているとき」から世界一周する「朝のリレー」のテレビCM。誰もがどこかでその作品に触れているだろう
▲92歳で亡くなった詩人の谷川俊太郎さん。「生きているということ いま生きているということ」のフレーズで知られる「生きる」は発表から40年後の東日本大震災を機に絵本に。味わい深い日本語訳でスヌーピー人気にも一役買った
▲小学校低学年で「今朝生まれてはじめて朝を美しいと思った」と日記に書いたのが原点。高校時代に詩を書き始め、ことばを並べて「一種の模型みたいな世界」を作る面白さを知った
▲「かっぱかっぱらった かっぱらっぱかっぱらった とってちってた」。子どもたちを喜ばせる「ことばあそびうた」は「日本語の音の豊かさ、楽しさを復権しようという心意気」で書いたという
▲学校嫌いで大学に行かなかった。進路を問う哲学者の父に渡した詩が評価されて20歳で発表した詩集が「二十億光年の孤独」。組織に属さず、職業としての詩人の道を貫き、盟友だった詩人、大岡信(まこと)さんは「離群性」と呼んだ。かつて芸術選奨も辞退した
▲「自然に生まれ 自然に 還る 簡素な いのちの 複雑精妙 畏れ 慄(おのの)き 戯れ 歌って 罪なく 消え失せ ヒトは 自失」。ネット時代の「ことばのインフレ」を危惧し3年前に発表した14行詩(ソネット)集「虚空へ」の一編「自然に生まれ」である。
巡回展「谷川俊太郎 絵本★百貨展」で「ドームはおならが出た形をイメージしている」と解説する学芸員(右)=山口県周南市美術博物館で、2024年9月28日撮影
恥ずかしながら私は、前の記事 再掲 / 谷川俊太郎詩集から以外のことは何も知らなかった。今朝の毎日新聞にはほかも社会面で「平易なことば 本質射抜く」と題し半ページを使った記事も掲載されている。私も詩を書くことは出来なくとも谷川俊太郎さんみたいに年を重ねたいものだ。
谷川先生のご冥福を心からお祈り致します。
社説 / 谷川俊太郎さん逝く 「生きる」支えた詩の言葉
毎日新聞 2024/11/20 東京朝刊
やさしくて柔らかい。けれども心のひだに深く入り込む。紡がれた言葉が、どれだけ多くの人生に寄り添ってきたことだろう。
戦後の現代詩を代表する詩人、谷川俊太郎さんが92歳で亡くなった。詩を通して言葉の可能性を広げるとともに、絵本や随筆などで世代を超える共感を得てきた。
熱心な読者ならずとも、教科書やCMで谷川さんの世界に触れた人は少なくないだろう。ネット上に哀悼や感謝のメッセージがあふれる。詩人が残したものの大きさを改めて思い知らされる。
親しみやすく、ユーモアもある半面、地球や人類を宇宙の高みから俯瞰(ふかん)するような作品は、読み手の時空も押し広げていく。
デビュー作の「二十億光年の孤独」は、「人類は小さな球の上で/眠り起きそして働き」で始まる。「朝のリレー」は、「カムチャツカの若者が/きりんの夢を見ているとき/メキシコの娘は/朝もやの中でバスを待っている」と読み手をいざなう。語感で遊びながら、やんわりと差しはさむ文明批判も痛烈だ。
一方で、身体感覚に直接訴えかける「ののはな」などのひらがな詩は、日本語の音の面白さや豊かさを味わわせてくれる。
東日本大震災後には、1971年刊行の詩集に収められた「生きる」が再び広く読まれ、喪失感を抱えた人々の支えになった。詩が持つ力であろう。
「生きているということ/いま生きているということ」というフレーズが繰り返される詩は、日常のかけがえのなさを思い起こさせる。同時に、「かくされた悪を注意深くこばむこと」という言葉には、人間や社会の暗部と対峙(たいじ)する覚悟がにじむ。
2019年に出版されたイラストレーターのNoritakeさんとの絵本「へいわとせんそう」は、暴力がエスカレートし、分断が進むいまの世界への問いかけでもあろう。
「みんながいろいろな言葉で平和を追求したりしているけれども、戦争は全然なくならない」「詩の言葉が何かの役に立たないか」
信じていたのは、世界を対立させるのではなく、包み込む詩の力だ。どんな言葉を生み出していくのか。私たちに託された宿題だ。
余録 / 「空をこえて ラララ星のかなた」で…
毎日新聞 2024/11/20 東京朝刊
「ピーナッツ」の翻訳40周年を記念して感謝状を贈呈され、スヌーピー(左)に祝福される谷川俊太郎さん=東京都内のホテルで2007年11月14日午後0時6分、馬場理沙撮影
「空をこえて ラララ星のかなた」で始まる鉄腕アトムの主題歌。「カムチャツカの若者がきりんの夢を見ているとき」から世界一周する「朝のリレー」のテレビCM。誰もがどこかでその作品に触れているだろう
▲92歳で亡くなった詩人の谷川俊太郎さん。「生きているということ いま生きているということ」のフレーズで知られる「生きる」は発表から40年後の東日本大震災を機に絵本に。味わい深い日本語訳でスヌーピー人気にも一役買った
▲小学校低学年で「今朝生まれてはじめて朝を美しいと思った」と日記に書いたのが原点。高校時代に詩を書き始め、ことばを並べて「一種の模型みたいな世界」を作る面白さを知った
▲「かっぱかっぱらった かっぱらっぱかっぱらった とってちってた」。子どもたちを喜ばせる「ことばあそびうた」は「日本語の音の豊かさ、楽しさを復権しようという心意気」で書いたという
▲学校嫌いで大学に行かなかった。進路を問う哲学者の父に渡した詩が評価されて20歳で発表した詩集が「二十億光年の孤独」。組織に属さず、職業としての詩人の道を貫き、盟友だった詩人、大岡信(まこと)さんは「離群性」と呼んだ。かつて芸術選奨も辞退した
▲「自然に生まれ 自然に 還る 簡素な いのちの 複雑精妙 畏れ 慄(おのの)き 戯れ 歌って 罪なく 消え失せ ヒトは 自失」。ネット時代の「ことばのインフレ」を危惧し3年前に発表した14行詩(ソネット)集「虚空へ」の一編「自然に生まれ」である。
巡回展「谷川俊太郎 絵本★百貨展」で「ドームはおならが出た形をイメージしている」と解説する学芸員(右)=山口県周南市美術博物館で、2024年9月28日撮影
恥ずかしながら私は、前の記事 再掲 / 谷川俊太郎詩集から以外のことは何も知らなかった。今朝の毎日新聞にはほかも社会面で「平易なことば 本質射抜く」と題し半ページを使った記事も掲載されている。私も詩を書くことは出来なくとも谷川俊太郎さんみたいに年を重ねたいものだ。
谷川先生のご冥福を心からお祈り致します。