グループの会合を終え、記者団の取材に応じる立憲民主党の小沢一郎氏=衆院第1議員会館で2023年11月21日午後1時1分、竹内幹撮影
毎日新聞 2024/5/12 06:00 有料記事
政治資金パーティー裏金事件の影響もあり、内閣支持率が長らく低迷する岸田文雄首相は、次の衆院選の「顔」としては不足。9月の党総裁選までに衆院解散・総選挙に打って出ることもできず、もう交代だろう。
こんな見方が永田町で広がる一方、それに警鐘を鳴らす議員がいる。「剛腕」「壊し屋」の異名をとり、かつて自民党の権力闘争の中枢にいた立憲民主党の小沢一郎衆院議員だ。
「岸田総理を甘く見ちゃダメだよ」。小沢氏は3月下旬、記者団にこう語り、「清和会(安倍派)をズタズタにやっつけて、今度は二階(俊博元幹事長)を引退に追い込んだ。ものすごくしたたかだよ」と警戒感をあらわにした。早期解散の可能性を問う記者団には「(党内に)敵、いねえもん誰も。再選確実なのになんで解散するの?」と語り、総裁選で岸田氏が再選、衆院解散はその後との見立てを披露した。
自民党の二階俊博元幹事長の次期衆院選不出馬表明などについて記者団の取材に応じる岸田文雄首相=首相官邸で2024年3月25日午後6時52分、竹内幹撮影
確かに、党内最大派閥として影響力を持ち続けた安倍派で「5人衆」といわれた実力者たちは、いずれも裏金事件を巡る党の処分を受け、表舞台に当面立てない状況に追い込まれた。
特に、国会の代表質問で「国民が期待するリーダーの姿が示せていない」と岸田首相を厳しく批判した世耕弘成前参院幹事長は離党勧告、「ポスト岸田」に意欲を示していた西村康稔前経済産業相は党員資格停止1年と厳しい処分結果になった。
岸田首相と政治的に距離があった二階氏は「岸田さんから裏金事件で処分されるくらいなら」(二階氏周辺)と、自ら次期衆院選への不出馬を表明し、事実上の引退を宣言。二階氏は1993年に小沢氏とともに自民党を離党して新生党の結党に関わるなど、小沢氏を側近として支えた。小沢氏は、かつての子分を「二階も岸田くんに劣らずしたたかだけど、彼の今の状況ではかなわんのかなあ」と振り返った。
記者会見で次期衆院選不出馬の意向を表明した自民党の二階俊博元幹事長(手前)。奥は林幹雄元経済産業相=東京都千代田区の同党本部で2024年3月25日午前10時37分、竹内幹撮影
岸田首相の一般的なイメージは、真面目でいい人そう、悪く言えば歯切れが悪く迫力不足……だろうか。裏金事件の逆風にさらされ、右往左往しているようにも見える首相の「したたか説」は当たっているのか。
本人に「狙った通りの結果ですか?」と尋ねてみたが、当然ながら「(対抗馬を)追い込むとか潰すとか、そんなつもりはない。一つ一つやるべきことをやった結果だ」とかわされた。
首相の内心を探る上で参考になる言葉を、小沢氏が師と仰いだ田中角栄元首相が残している。
「首相になって一度は口にしたいのが派閥解消」
党内の実力者とどう折り合いをつけながら政権を運営するかが、歴代首相の悩みのタネだったことがうかがえる。そうみると、岸田首相が先陣を切って打ちだした「派閥解散」もしたたかな一手にみえてくる。
党紀委員会から離党勧告を受けて自民党に離党届を提出し、記者会見する世耕弘成参院議員(左)=東京都千代田区で2024年4月4日午後6時47分、宮武祐希撮影
首相による岸田派解散宣言を受け、残る自民5派閥のうち麻生派を除く4派閥も雪崩を打つように解散を決めた。党の改革案には、派閥を本来の政策集団に戻すために「お金と人事から完全に決別する」ことが盛り込まれた。「政治とカネ」の問題を機に、各派閥から人事権も奪ったともいえる。
第4派閥に過ぎない岸田派出身の首相は、党内の求心力を保つため、内閣改造や党役員人事で「派閥均衡」に苦慮してきた。派閥解散を決めた1月、首相は周辺に「派閥に気を使ってはいけなくなるんだから、これで自由に人事ができるな」と語っている。
あおりを受けたのは、派内に「裏金議員」がいなかった麻生派と茂木派だ。特にポスト岸田の候補に挙がる茂木敏充幹事長にとって、派閥は総裁選を戦う基盤になる重要な戦力。ところが派閥解散の流れを受けて小渕優子選対委員長らが相次いで茂木派を離脱し、他の4派閥から3カ月遅れの4月17日、政治団体「平成研究会」の解散を決めざるを得なくなった。
党内のライバルでもある安倍派、二階派、茂木派の有力者が次々にダメージを負う状況を作った首相は、したたかにも映る。一方で党内には「支持率ばかりを意識して、場当たり的に決めているだけだ」との批判も多く、主流派だった岸田派、麻生派、茂木派の「3派連合」の関係が冷え込んだことで、政権運営は混迷の度合いを増している。
総裁選まで約4カ月。首相周辺は「憲法改正」「北朝鮮問題」の2テーマで結果を出し、再選の道を探ろうとしている。もはやそれしか活路がないほど政権が追い込まれた証左とも言えるが、日朝首脳会談の実現を小沢氏は「起死回生の一打」とみて警戒する。総裁選に向けた政界の攻防が、ますますしたたかさを増していきそうだ。
【政治部・飼手勇介】
私みたいな野次馬は、岸田政権は「風前の灯火」で、もう無くなるっと思っていたが、政治のプロ中のプロの小沢一郎氏が語るのだから三流週刊誌レベルではないのだろう。まさか岸田一強の長期独裁政権が生まれるのではないだろうね。なんだか不気味な印象だ。
毎日新聞 2024/5/12 06:00 有料記事
政治資金パーティー裏金事件の影響もあり、内閣支持率が長らく低迷する岸田文雄首相は、次の衆院選の「顔」としては不足。9月の党総裁選までに衆院解散・総選挙に打って出ることもできず、もう交代だろう。
こんな見方が永田町で広がる一方、それに警鐘を鳴らす議員がいる。「剛腕」「壊し屋」の異名をとり、かつて自民党の権力闘争の中枢にいた立憲民主党の小沢一郎衆院議員だ。
「岸田総理を甘く見ちゃダメだよ」。小沢氏は3月下旬、記者団にこう語り、「清和会(安倍派)をズタズタにやっつけて、今度は二階(俊博元幹事長)を引退に追い込んだ。ものすごくしたたかだよ」と警戒感をあらわにした。早期解散の可能性を問う記者団には「(党内に)敵、いねえもん誰も。再選確実なのになんで解散するの?」と語り、総裁選で岸田氏が再選、衆院解散はその後との見立てを披露した。
自民党の二階俊博元幹事長の次期衆院選不出馬表明などについて記者団の取材に応じる岸田文雄首相=首相官邸で2024年3月25日午後6時52分、竹内幹撮影
確かに、党内最大派閥として影響力を持ち続けた安倍派で「5人衆」といわれた実力者たちは、いずれも裏金事件を巡る党の処分を受け、表舞台に当面立てない状況に追い込まれた。
特に、国会の代表質問で「国民が期待するリーダーの姿が示せていない」と岸田首相を厳しく批判した世耕弘成前参院幹事長は離党勧告、「ポスト岸田」に意欲を示していた西村康稔前経済産業相は党員資格停止1年と厳しい処分結果になった。
岸田首相と政治的に距離があった二階氏は「岸田さんから裏金事件で処分されるくらいなら」(二階氏周辺)と、自ら次期衆院選への不出馬を表明し、事実上の引退を宣言。二階氏は1993年に小沢氏とともに自民党を離党して新生党の結党に関わるなど、小沢氏を側近として支えた。小沢氏は、かつての子分を「二階も岸田くんに劣らずしたたかだけど、彼の今の状況ではかなわんのかなあ」と振り返った。
記者会見で次期衆院選不出馬の意向を表明した自民党の二階俊博元幹事長(手前)。奥は林幹雄元経済産業相=東京都千代田区の同党本部で2024年3月25日午前10時37分、竹内幹撮影
岸田首相の一般的なイメージは、真面目でいい人そう、悪く言えば歯切れが悪く迫力不足……だろうか。裏金事件の逆風にさらされ、右往左往しているようにも見える首相の「したたか説」は当たっているのか。
本人に「狙った通りの結果ですか?」と尋ねてみたが、当然ながら「(対抗馬を)追い込むとか潰すとか、そんなつもりはない。一つ一つやるべきことをやった結果だ」とかわされた。
首相の内心を探る上で参考になる言葉を、小沢氏が師と仰いだ田中角栄元首相が残している。
「首相になって一度は口にしたいのが派閥解消」
党内の実力者とどう折り合いをつけながら政権を運営するかが、歴代首相の悩みのタネだったことがうかがえる。そうみると、岸田首相が先陣を切って打ちだした「派閥解散」もしたたかな一手にみえてくる。
党紀委員会から離党勧告を受けて自民党に離党届を提出し、記者会見する世耕弘成参院議員(左)=東京都千代田区で2024年4月4日午後6時47分、宮武祐希撮影
首相による岸田派解散宣言を受け、残る自民5派閥のうち麻生派を除く4派閥も雪崩を打つように解散を決めた。党の改革案には、派閥を本来の政策集団に戻すために「お金と人事から完全に決別する」ことが盛り込まれた。「政治とカネ」の問題を機に、各派閥から人事権も奪ったともいえる。
第4派閥に過ぎない岸田派出身の首相は、党内の求心力を保つため、内閣改造や党役員人事で「派閥均衡」に苦慮してきた。派閥解散を決めた1月、首相は周辺に「派閥に気を使ってはいけなくなるんだから、これで自由に人事ができるな」と語っている。
あおりを受けたのは、派内に「裏金議員」がいなかった麻生派と茂木派だ。特にポスト岸田の候補に挙がる茂木敏充幹事長にとって、派閥は総裁選を戦う基盤になる重要な戦力。ところが派閥解散の流れを受けて小渕優子選対委員長らが相次いで茂木派を離脱し、他の4派閥から3カ月遅れの4月17日、政治団体「平成研究会」の解散を決めざるを得なくなった。
党内のライバルでもある安倍派、二階派、茂木派の有力者が次々にダメージを負う状況を作った首相は、したたかにも映る。一方で党内には「支持率ばかりを意識して、場当たり的に決めているだけだ」との批判も多く、主流派だった岸田派、麻生派、茂木派の「3派連合」の関係が冷え込んだことで、政権運営は混迷の度合いを増している。
総裁選まで約4カ月。首相周辺は「憲法改正」「北朝鮮問題」の2テーマで結果を出し、再選の道を探ろうとしている。もはやそれしか活路がないほど政権が追い込まれた証左とも言えるが、日朝首脳会談の実現を小沢氏は「起死回生の一打」とみて警戒する。総裁選に向けた政界の攻防が、ますますしたたかさを増していきそうだ。
【政治部・飼手勇介】
私みたいな野次馬は、岸田政権は「風前の灯火」で、もう無くなるっと思っていたが、政治のプロ中のプロの小沢一郎氏が語るのだから三流週刊誌レベルではないのだろう。まさか岸田一強の長期独裁政権が生まれるのではないだろうね。なんだか不気味な印象だ。