ワシントンの連邦議会議事堂で、笑顔で演説する岸田文雄首相(中央)。奥はハリス副大統領(左)とジョンソン下院議長=2024年4月11日、AP
毎日新聞 2024/4/25 05:00 有料記事 から抜粋
政権浮揚のパフォーマンスだ
日米「指揮権統一」のリスク
日中外交がなぜ不在なのか!
先のバイデン米大統領と岸田文雄首相の日米首脳会談をどう見るか。世の評価は分かれるが、当方はどうも懸念が先に立つ。
岸田首相は「日米同盟は前例のない高みに到達した」とうたいあげ、「日米がグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時で、世界の課題に共に対処する」と強調した。米議会ではスタンディングオベーションで好感されたが、彼らが歓迎するのは当たり前だ。力の衰えと国内の分断を抱える悩める超大国として、忠実なる同盟国に負担を代替させ、結果的に米国の世界統治力を高めるとの戦略通りに運んだからである。
指揮統制も米国主導とされたのでは
まずは山崎拓氏だ。岸田演説どう受け止めた?
「安倍晋三政権では集団的自衛権行使を限定的に容認したが、今回の岸田演説はそれを踏み越え、無条件で行使するような言質を与えてしまった印象だ。『You are not alone. We are with you!』(米国は独りではない。日本は米国と共にある)と述べたが、防衛費を倍増し敵基地攻撃能力を持ったことで、全面的に日米が一体となり、従来の日本が盾、米国が矛という役割分担ではなく、日本もまた積極的に矛の役割を担いますと宣言したと、受け止められている」
「今後は日本防衛のみならず、東シナ海で中国の進出を防ぐのは日米一体でやるということになる。南シナ海についても日米比首脳会談で中国包囲網を作り上げた。NATO(北大西洋条約機構)のような集団安全保障の仕組みはできないが、多重な多国間連携をするということだ」
格子状の同盟という。
「米国は中国の軍事力の飛躍により相対的に弱体化した。中東情勢にも足をとられている。そこを同盟国が補うという意味だろう」
指揮権については?
「指揮権は別々だとのロジックにはなっているが、米国側は日米合同軍と捉え、指揮統制も米国主導であると考えているだろう。横田基地に米国側司令部を置けば、米国側は横田空域における制空権・管制権にますますこだわるだろう」
日本側はなぜここまで?
「岸田政権としてはこの手以外になかった。国賓待遇を断る理由はないし、それを受ける以上これくらいのリップサービスが必要だった。毅然(きぜん)とした主権国家としての対応ではなく、ご機嫌取りという感じが滲(にじ)み出た。要は、国内政治の危機を国際政治で挽回したいという岸田首相の立場を、日本の外交当局が理解し、従来の米国一辺倒路線の延長線上で首脳会談の合意事項、議会演説を作った」
従米一本足打法だ。
「国連中心、日米同盟堅持、アジアの一員としての立場の堅持が1957年以来日本外交の3原則だったが、このうち国連重視が揺らいでいる。ウクライナ戦争、ガザ戦争を止められない。総会決議が安保理の拒否権に対抗できない。国連自体が存在意義を失っている」
「アジアでの足場も中国の台頭や北朝鮮、ロシアの存在で脆弱(ぜいじゃく)化、日本は指導的な役割を担えないでいる。日本は第二次大戦に対する反省から77年8月に福田赳夫首相(当時)が『日本は軍事大国とならず世界の平和と繁栄に貢献する』という声明(福田ドクトリン)を発表したが、岸田首相が軍事大国を目指すと言ってしまったので、これもなくなった。3原則の残り一つ、日米同盟だけをやたらと強化してしまった。それでいいのかということだ」
「(戦後安保政策史上)相当大きな転換だ。自衛隊が米軍と一体化する、集団的自衛権の行使を限定的でなく無制限化するとの政治的宣言だ。中国への配慮はなく100%米国追従だ。米国は水面下で中国と通じている。日本は本来、米中対立の仲介者であるべきなのにそれができていない」
「しかも、米大統領選結果がどうなるか。岸田演説でスタンディングオベーションが15回ほどあったというが、ウクライナ支援継続を呼びかけるくだりでは共和党のジョンソン下院議長は立たなかった。米国の分断を感じさせる場面だった。岸田首相は、『トランプ大統領』の可能性もある中で、バイデン政権にのめり込んだ。11月5日の大統領選で吉と出るか凶と出るか。バイデン勝利だとしても、これだけの約束をしてしまい、日本が主権国家と言えるかという批判は出てくるだろう」
外交による平和構築が必要な時だ
政権浮揚効果は?
「共同通信調査で支持率が5%上がったが、まだ青木(幹雄元参院幹事長)の法則(内閣支持率と自民党支持率の和が50%を切ると危険水域)が生きている。訪米効果はその程度のものだ」
4月28日の3補選は?
「3連敗は回避できないだろう。問題は岸田首相が遊説で島根1区入りするかどうか。乗り込んで負けた場合はかなりダメージを受ける。乗り込まなかった時は逃げたと言われる。この政治判断は非常に難しい」
裏金処分も不満が残る。
「裏金問題の本質は届け出たかどうかではない。何に使ったかだ。これを調べてもいないし、議論もしていない。たった一人それを明言した者もいた。机の中に入れていた、という。メディアも検察も追及しなかったが、明らかに脱税だ」
今後の政局は?
「岸田首相には6月解散しかない。9月の総裁選での再選を考えれば、解散できないような総裁を選ぶわけがない。宏池会出身の総理として創設者の池田勇人元首相より長くやりたいとこだわっている。総裁選前に内閣改造する手もあるが、改造後総裁を降ろされたら幻の内閣になる。それは許されない。閣僚のなり手もないだろう」
やまさき・たく
1936年、中国大連市生まれ。防衛庁長官、建設大臣、自民党国対委員長、自民党幹事長、副総裁などを歴任
くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員
(サンデー毎日2024年5月5日・12日号掲載)
山崎拓氏と言ったら、小泉純一郎氏、加藤紘一氏とYKKトリオの政治同盟で名を成していたが、防衛論議などはお手の物ではないのかな?そこに行くと岸田総理はど素人に感じる。というか、島根1区の応援演説にしろ、2年連続でメーデー中央大会に出席した挨拶にしても、まるで国会での答弁みたいな調子で聴衆は喜んで聞いているのかな?と思っって観ていた。NHKのニュースなんだから批判的な切り取りではないだろう。
ただ岸田さんお得意の輪島市での車座対話 令和6年能登半島地震なんかでは、総理と直接会話が出来て予算がつくのなら参加者は真剣になるだろうが・・・。
2度も遊説に駆けつけて、衆議院補選島根1区で完敗して少しはショックを受けられたようだが、またすぐフランス、ブラジル、パラグアイを訪問して日本のことを忘れてしまわれないか心配だ。私は早いとこ辞任されることをお勧めするが、そんな気はさらさらないのだろうね。
毎日新聞 2024/4/25 05:00 有料記事 から抜粋
政権浮揚のパフォーマンスだ
日米「指揮権統一」のリスク
日中外交がなぜ不在なのか!
先のバイデン米大統領と岸田文雄首相の日米首脳会談をどう見るか。世の評価は分かれるが、当方はどうも懸念が先に立つ。
岸田首相は「日米同盟は前例のない高みに到達した」とうたいあげ、「日米がグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時で、世界の課題に共に対処する」と強調した。米議会ではスタンディングオベーションで好感されたが、彼らが歓迎するのは当たり前だ。力の衰えと国内の分断を抱える悩める超大国として、忠実なる同盟国に負担を代替させ、結果的に米国の世界統治力を高めるとの戦略通りに運んだからである。
指揮統制も米国主導とされたのでは
まずは山崎拓氏だ。岸田演説どう受け止めた?
「安倍晋三政権では集団的自衛権行使を限定的に容認したが、今回の岸田演説はそれを踏み越え、無条件で行使するような言質を与えてしまった印象だ。『You are not alone. We are with you!』(米国は独りではない。日本は米国と共にある)と述べたが、防衛費を倍増し敵基地攻撃能力を持ったことで、全面的に日米が一体となり、従来の日本が盾、米国が矛という役割分担ではなく、日本もまた積極的に矛の役割を担いますと宣言したと、受け止められている」
「今後は日本防衛のみならず、東シナ海で中国の進出を防ぐのは日米一体でやるということになる。南シナ海についても日米比首脳会談で中国包囲網を作り上げた。NATO(北大西洋条約機構)のような集団安全保障の仕組みはできないが、多重な多国間連携をするということだ」
格子状の同盟という。
「米国は中国の軍事力の飛躍により相対的に弱体化した。中東情勢にも足をとられている。そこを同盟国が補うという意味だろう」
指揮権については?
「指揮権は別々だとのロジックにはなっているが、米国側は日米合同軍と捉え、指揮統制も米国主導であると考えているだろう。横田基地に米国側司令部を置けば、米国側は横田空域における制空権・管制権にますますこだわるだろう」
日本側はなぜここまで?
「岸田政権としてはこの手以外になかった。国賓待遇を断る理由はないし、それを受ける以上これくらいのリップサービスが必要だった。毅然(きぜん)とした主権国家としての対応ではなく、ご機嫌取りという感じが滲(にじ)み出た。要は、国内政治の危機を国際政治で挽回したいという岸田首相の立場を、日本の外交当局が理解し、従来の米国一辺倒路線の延長線上で首脳会談の合意事項、議会演説を作った」
従米一本足打法だ。
「国連中心、日米同盟堅持、アジアの一員としての立場の堅持が1957年以来日本外交の3原則だったが、このうち国連重視が揺らいでいる。ウクライナ戦争、ガザ戦争を止められない。総会決議が安保理の拒否権に対抗できない。国連自体が存在意義を失っている」
「アジアでの足場も中国の台頭や北朝鮮、ロシアの存在で脆弱(ぜいじゃく)化、日本は指導的な役割を担えないでいる。日本は第二次大戦に対する反省から77年8月に福田赳夫首相(当時)が『日本は軍事大国とならず世界の平和と繁栄に貢献する』という声明(福田ドクトリン)を発表したが、岸田首相が軍事大国を目指すと言ってしまったので、これもなくなった。3原則の残り一つ、日米同盟だけをやたらと強化してしまった。それでいいのかということだ」
「(戦後安保政策史上)相当大きな転換だ。自衛隊が米軍と一体化する、集団的自衛権の行使を限定的でなく無制限化するとの政治的宣言だ。中国への配慮はなく100%米国追従だ。米国は水面下で中国と通じている。日本は本来、米中対立の仲介者であるべきなのにそれができていない」
「しかも、米大統領選結果がどうなるか。岸田演説でスタンディングオベーションが15回ほどあったというが、ウクライナ支援継続を呼びかけるくだりでは共和党のジョンソン下院議長は立たなかった。米国の分断を感じさせる場面だった。岸田首相は、『トランプ大統領』の可能性もある中で、バイデン政権にのめり込んだ。11月5日の大統領選で吉と出るか凶と出るか。バイデン勝利だとしても、これだけの約束をしてしまい、日本が主権国家と言えるかという批判は出てくるだろう」
外交による平和構築が必要な時だ
政権浮揚効果は?
「共同通信調査で支持率が5%上がったが、まだ青木(幹雄元参院幹事長)の法則(内閣支持率と自民党支持率の和が50%を切ると危険水域)が生きている。訪米効果はその程度のものだ」
4月28日の3補選は?
「3連敗は回避できないだろう。問題は岸田首相が遊説で島根1区入りするかどうか。乗り込んで負けた場合はかなりダメージを受ける。乗り込まなかった時は逃げたと言われる。この政治判断は非常に難しい」
裏金処分も不満が残る。
「裏金問題の本質は届け出たかどうかではない。何に使ったかだ。これを調べてもいないし、議論もしていない。たった一人それを明言した者もいた。机の中に入れていた、という。メディアも検察も追及しなかったが、明らかに脱税だ」
今後の政局は?
「岸田首相には6月解散しかない。9月の総裁選での再選を考えれば、解散できないような総裁を選ぶわけがない。宏池会出身の総理として創設者の池田勇人元首相より長くやりたいとこだわっている。総裁選前に内閣改造する手もあるが、改造後総裁を降ろされたら幻の内閣になる。それは許されない。閣僚のなり手もないだろう」
やまさき・たく
1936年、中国大連市生まれ。防衛庁長官、建設大臣、自民党国対委員長、自民党幹事長、副総裁などを歴任
くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員
(サンデー毎日2024年5月5日・12日号掲載)
山崎拓氏と言ったら、小泉純一郎氏、加藤紘一氏とYKKトリオの政治同盟で名を成していたが、防衛論議などはお手の物ではないのかな?そこに行くと岸田総理はど素人に感じる。というか、島根1区の応援演説にしろ、2年連続でメーデー中央大会に出席した挨拶にしても、まるで国会での答弁みたいな調子で聴衆は喜んで聞いているのかな?と思っって観ていた。NHKのニュースなんだから批判的な切り取りではないだろう。
ただ岸田さんお得意の輪島市での車座対話 令和6年能登半島地震なんかでは、総理と直接会話が出来て予算がつくのなら参加者は真剣になるだろうが・・・。
2度も遊説に駆けつけて、衆議院補選島根1区で完敗して少しはショックを受けられたようだが、またすぐフランス、ブラジル、パラグアイを訪問して日本のことを忘れてしまわれないか心配だ。私は早いとこ辞任されることをお勧めするが、そんな気はさらさらないのだろうね。