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淑女の養生訓 /36 幼いころの自分は誰かの記憶の中に=元村有希子 / 毎日新聞

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写真は大江ノ郷牧場(左)とAMBRYSHOP(右)から 

毎日新聞 2024/2/27 05:02  有料記事

「パ・リーグって上等な感じがするね」

「なんで?」

「パリ、だから。でも、セ・リーグもセリーヌみたい。こっちも上等!」

 野球ファンならひっくり返りそうなこの会話、50年来の幼なじみと先日、温泉に出かけた時のやりとりである。

 彼女は大きな病院を経営する医師だが、イメージとは裏腹な独自の感性が持ち味。その兆しは幼少期からあった。

 小学校の入学式。ピカピカの1年生が教室に顔をそろえた。担任のムラオ先生が「気になることは何でも聞いてください」と水を向けると、彼女が手を上げてこう言った。

「先生、この学校にはゆうれいがいますか?」

 目を白黒させる先生の様子が目に浮かぶ。ただし彼女も私もその場面を覚えていない。私の母が彼女に会うたび「あのときはねえ」と笑って話す思い出である。

 不思議なことだが、私たちは自分がどんな子どもだったかを、他者の記憶を通して知る。いまの自分の「おおもと」であるにもかかわらずだ。

 久しぶりにアルバムを開いてみる。2歳の私が、アパートの前の空き地でバウムクーヘンを食べている。

 手書きの写真説明によると、同い年のキョウコちゃんが、持っていたバウムクーヘンを地面に落とした。すかさず私がそれを拾ってパクリとやったのだという。

 道理で、キョウコちゃんが啞然(あぜん)とした表情で私を見ているわけだ。私の食い意地もさることながら、制止せずシャッターを切る母も母である。

 子どもが虐待されて死ぬ事件が相次いでいる。理不尽というほかない。

 生きながらえたとしても、その子を愛情深く見守る大人がいなければ、幼いころの自分の記憶は失われてしまう。その欠落が人生に落とす影は、決して小さくないと思う。

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もとむら・ゆきこ
1966年、北九州市生まれ。毎日新聞論説委員。本紙に連載「水説」、新著に『科学目線』。趣味は居酒屋、温泉、数独

(サンデー毎日2024年3月10日号掲載)

 元村さんの子供の頃の思い出と、温泉に浸かっての?パシフィック・リーグとセントラル・リーグの小話がとても愉快です。

 ところがところが、年中テレビで報道される親の愛情も受けずに、虐待された上に死ぬ至る事件などが出てくると、私は音声を消すか、チャンネルを切り替えてしまいます。とても事件を直視することが出来ません。

 正に、元村さんが書かれている「生きながらえたとしても・・・その欠落が人生に落とす影は、決して小さくないと思う。」そのものだと感じます。今回は政治や行政のことは抜きにしておきます。有難うございました。  

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