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本  / 安部公房 著 「砂の女」/  新潮文庫

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欠けて困るものなど、何一つありはしない。

砂穴の底に埋もれていく一軒家に故なく閉じ込められ、あらゆる方法で脱出を試みる男を描き、世界二十数カ国語に翻訳紹介された名作。

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。読売文学賞受賞作。~ 新潮文庫から


上はEテレの100分de名著から

今回の指南役、漫画家・文筆家のヤマザキマリさんによれば、この小説には、過酷な現実から逃れようともがく主人公の模索を通して、絶えず自由を求めながらも不自由さに陥ってしまう私たち人間の問題が描かれているといいます。それだけではありません。安部が戦後社会の中で苦渋をもって見つめざるを得なかった「自由という言葉のまやかし」が「砂の女」という作品に照らし出されるようにみえてきます。この作品は、私たちにとって「本当の自由とは何か」を深く見つめるための大きなヒントを与えてくれるのです。パンデミックによって、移動や交流の自由が著しく制限されている私たち現代人にも示唆することが多いといいます。 

 100分de名著は、好きな番組で日頃は、「へ~っ」とか「ふ~ん」と眺めているのだが(笑)、今回の安倍公房 著「砂の女」は第1回放送の「『定着』と『流動』のはざまで」をを見て、すぐに文庫本を購入した。自分が本離れをしている大きな理由の一つは、老眼鏡を持っていないことだと確信した(笑)。

 この小説を書き下ろした安部公房さんって東大医学部を卒業しているんだね。小説の展開の中ではやたら科学的な洞察も出てくるは、昆虫博士みたいなところもある。今の私からみると哲学書に感じる。

 なんでもヤマザキマリさんは油絵を学ぶつもりで17歳でイタリア留学して文壇サロンで通っていたら世の中のことも日本のことも何も分かっていないと馬鹿にされていたんだとか。ところが75歳くらいの主宰者がこれを読みなさいと差し出したのが「砂の女」(イタリア語版)だったそう。「お前はこれを読むことによって自分のいる不条理と向き合うことができる」と。

 文庫本の巻末の解説にはドナルド・キーンさんが、文体の一番の特徴は比喩の豊富さと正確さであろう。別の次元で、二つの観点から振り返ってみると、あらゆる現象の本質が分かってくる。『砂の女』は安部氏の想像力によるノンフィクションである。同時に、日本いや世界の真相を最も小説的な方法によって描いている。われら二十世紀の人間が誇るべき小説の一つである。・・・と評している。

 私に一番分かり易いのは文庫本の帯に記されている(100分de名著の)ヤマザキマリさんの 「私たちが 生きているのは、果たして 砂の穴の中なのか、それとも外なのか。」これだね!

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