寺島実郎氏=東京都千代田区で、加藤隆寛撮影
ちと難しいお話なので私も100%は理解出来ていないが、関口宏のサンデーモーニングで3週間に1回くらい出演する寺島実郎氏のニュース解説には特に耳を傾けている。納得できることがいつも多いんだな~。元毎日新聞の政治部長の倉重篤郎氏のコラムも以前から毎日新聞のニュース最前線で注目している。
以下の解説のすべては理解出来ていないけどとても興味深い。今の世の中に生きている以上この「ニュース最前線」の記事くらいすらすらと読めるようになりたいものだ(笑)。経済の仕組みが一番難しいね!
サンデー毎日 / 倉重篤郎のニュース最前線 / 寺島実郎の救国提言 ウクライナ侵攻で世界は一変した! 新しい民主主義の核心・実践編
毎日新聞 2022/5/19 05:00 有料記事
ウクライナの事態は世界的な複合不況を招来し、私たちの生活を圧迫している。西側においては停戦への意志が影を潜め、戦争への加担が強まっている。かつてない生活破壊、政治危機にあって、私たちは「新たな民主主義」を構想すべきではないか。「全体知の巨人」が国民に呼びかける渾身提言!
政治家は「政党」を超えよ/「米国過剰依存」から脱却/「産業基盤の再生」の方策
ロシア・ウクライナ戦争で気付きが二つあった。
インフレはコロナから立ち直りかけていた消費を冷え込ませるだけではなく、低所得者や年金受給者ら庶民の生活を直撃する。国民万般の懐から一律にカネをもぎ取る所得移転、見えない税金でもある。インフレ封じこそ政治の要諦であり、その手段として中央銀行に与えられた機能が金利調整権限である。米国FRBを含め各国中銀が次々に金利を上げ、インフレ抑止の金融引き締めに転じていることは承知の通りである。
「負の遺産」ばかりの経済と防衛
ただ、日本銀行(黒田東彦(はるひこ)総裁)だけがそれができない。金融引き締めどころか、利回りを指定して国債を無制限に買い取る「連続指し値オペ」という金融緩和策を続けている。その結果起きているのは、世界主要国との金利格差の広がりであり、これが円売り、円安更新、輸入物価の上昇、国内インフレという悪循環を生んでいる。本来インフレファイターであるべき日銀が、金利高に怯(おび)えるあまり、インフレを容認、加速させているのだ。
なぜ金利高に怯えるのか。9年に及ぶ異次元金融緩和政策の結果である。1000兆円を超える国債発行(借金)に対する金利負担と、そのうちの半分近い520兆円を保有する日銀の財務劣化が怖いのである。金利負担で言えば、1%上昇で国債費は1年目には0・8兆円、翌年度は2兆円、翌々年度は3・8兆円、借り換えが一巡すると10兆円の増加となる。まっとうな予算が組めなくなる。日銀財務で言えば、金利1%上げで保有国債の価値が67兆円(16年時点で試算)毀損(きそん)するほか、当座預金への付利払いが生じ、日銀の自己資本9・7兆円が簡単に吹っ飛んでしまうのだ。
一言で言えば、アベノミクスの呪縛である。安倍・菅政権の9年間で、やりたい放題カネをばら撒(ま)き、いい思いをしてきたツケが、一気に噴き出た形である。
今一つは、米バイデン政権のこの戦争への向き合い方に対する疑問であり、日本の憲法9条・専守防衛路線の重要性再認識である。
まずは、この戦争を防げなかったことへの不信である。ロシアの侵略の本質的背景にNATOの東方拡大があることを否定する識者はいないだろう。米国内にもキッシンジャーやミアシャイマーら力の均衡論や地政学的観点から西側の急速な東方拡大はロシアを追い詰めることになると反対、ロシアにも緩衝帯が必要だとする論者がいたことは、前々回のこの欄(5月8・15日号)で紹介した。ミアシャイマーは、今なおプーチンを戦争に追い込んだのはウクライナのNATO非加盟を担保できなかった米外交の失敗だとしている。
次に、停戦努力は棚上げし、民主主義vs.国権主義の戦いと聖戦化、結果的にこの戦争を長期化させていることへの疑念である。この背景には、西側的価値をどこまでも拡大すべきだという民主主義・価値観外交があり、これがかつてのネオコンと違うところは、情報と兵器のみを供給し自らは戦闘に加わらない点である、というのが同欄での元外務官僚・東郷和彦氏の解説であった。他国には血を流させ自国の軍産複合体が潤う「死の商人」路線は賛成できない。そもそも価値観外交がアフガン、イラク戦争で失敗した教訓はどこにいったのか、とも思う。
さらに9条だ。この戦争は、従来あった敵基地攻撃能力の保有、防衛費2%増といった軍備増強論をさらに加速させているが、私見は異なる。戦争はいったん始まると止まらないどころか、人命と文明をとことん破壊する。軍事的抑止力強化はこの局面では破壊力をパワーアップするだけである。戦争というシステムの絶対悪がこれほどまでに明確になった事例はない。紛争解決に戦争という手段を取らない、放棄する、との姿勢は正しいし、戦争に追い込まれたとしてもロシア的侵犯ではなく、ウクライナ的専守防衛の立場でありたい。その意味では、むしろ9条の戦争統制力の価値を再発見したことになる。
ここでもまた、従米・軍事抑止力強化路線を推し進めた安倍・菅時代の負の遺産とぶつかる羽目になる。米国への同調を恒常化、従米という枠内でしか思考できなくなり、その忖度(そんたく)から米兵器を爆買い(後年度負担でツケが拡大)し、集団的自衛権行使の縛りを解いたことで海外での武力行使への道を開いてしまった。
ラーメン3000円「恐怖の円安」
我々はこの10年の安倍・菅政治をきちんと検証し尽くしただろうか。その咎(とが)について選挙でしっかりと問い質(ただ)しただろうか。「アベノミクスの継続と改良」を掲げる岸田文雄政権が間に入ったこともあり、すべて半端、曖昧のうちに時が過ぎてしまった感がある。
ここはネジを巻き戻す時だ。今我々がどういう状態にあるのか。それはどうしてそうなっているのか。拠(よ)って至ったことへの分析が必要だ。そして、それをどういう方向にどのように変えるのか。アジェンダ(課題)設定はさらに重要だ。
この稿では寺島実郎氏(日本総合研究所会長、多摩大学長)に意見を聞く。
7月10日投開票の見込みの参院選まであと2カ月。不気味なほどの静けさを打ち破るべく、安倍・菅政治を徹底批判、その上にどんな日本を築き上げていくのか。根源的問題提起をしていただく。
「連休を通じて二つの衝撃的数字があった。一つがIMF発表の2021年GDPの確定値だ。世界全体に占める日本の比重が5・1%になってしまった。ピーク時1994年の17・9%に比べると『日本の埋没』は顕著だ。2000年にはまだ14%あったので、一気に埋没したことになる」
「もう一つは、『恐怖の円安』だ。この連休に海外に出た人たちが絶句するように共通して語る。アベノミクスが始まる2012年には80円を割っていたドルが今や130円を超す。ラーメンやうどんを食べてもチップを足すとたちまち3000円くらいになるという。自国通貨が6割以上下落することの悲哀が伝わってくる」
埋没も悲哀も安倍・菅政治の帰結に見える。そこで参院選。何を問うべきか?
「まさにその『安倍・菅政治のシンドローム』からの脱却だ。6年前の参院選を振り返ってほしい。あの時、経済ではアベノミクス、外交・安保では対トランプ忖度で、多くの日本人が、日本もそこそこによくやっている、と思い込む共同幻想の中にあった。それがコロナとウクライナ危機という二重のショックで見事に消え去った。むしろ、アベノミクスや従米外交が、日本の埋没を加速したことに気付かなければいけない」
「アベノミクスとは調整インフレ政策だった。デフレからの脱却を目指し、第一の矢の異次元金融緩和で金融をジャブジャブにし、第二の矢の財政出動で赤字国債を日銀に丸投げ、公的資金により意図的に株高と円安に持ち込むという政策だった。株高も円安も日本経済を見掛け上は良く見せたが、一方で実力以上の株高は経営者を勘違いさせた。円高・省エネなどの高いハードルを、産業の創生や技術の錬磨を通じて越えようとする努力を経済人は忘却し、日本の産業技術基盤はみるみる劣化していった」
「コロナが来て、世界中が異次元金融緩和にシンクロナイズしたこの2年あまりは、アベノミクスの主導者と忖度官僚たちがほっとしていた時代だった。異形の政策は自分たちだけではないと。だが、ウクライナ危機がまた局面を変えた。資源高がインフレを助長したため、欧米各国は金融引き締めに転換、連休のもう一つのショックとして、米FRBが一気に0・5㌽政策金利を上げた。彼らには金融政策を正常化する柔軟性が残されていた」
「ところが日本はいつまでたっても正常化できない。国家予算の12倍、GDPの2倍もの借金(公的債務)を積み上げ、金利を上げるに上げられない、という雪隠詰めのような状態だ。これはいわば、アベノミクスの罪と罰だ。この先、日米の金利格差が広がるとさらに円安にシフト、日本だけでなく途上国資金も米国へ流出するだろう。世界的な金融不安を内包する中で、日本だけが正常化できないという不都合な真実の中にはまり込んでいる」
構想力が何も見えない岸田政権
その罪、万死に値する。
「重要なのは、これを政・財・官・学・メディア各界の共同正犯と自覚することだ。本来は禁じ手であったものを2年限定で始めたはずが、自堕落に続け、出口さえ議論できない状態だ。政界は忖度一色で、財界は安住し、官界はどんどん予算を膨らませ、アカデミズムはリフレ派の議論を批判できず、経済メディアはアベノミクス礼賛を特集した。この反省に基づき、日本が置かれている状況への本質的省察がなければこの先進みだすことができない」
安倍外交にも問題が?
「トランプ・米国への過剰同調と、プーチン・ロシアへ秋波を送り過ぎた。特に、プーチンには哀しいまでに手玉に取られた。ファーストネームで呼び合うのが信頼関係の証しだと、ウラジーミルと呼び、27回首脳会談を行った。14年のウクライナ危機では西側各国が控える中、日本の首相だけがソチ冬季五輪開会式に出席、プーチンをして日本はG7から引きはがせるという変な期待値を持たせた」
「北方領土交渉では筋道を間違えた。外交交渉は国際条約によるレジティマシー(正当性)に依拠することが重要だ。それは第二次大戦の終結時に大西洋憲章、連合国共同宣言の基本的柱になった『戦争による領土不拡大』条項だ。結果的にヒトラーを生み出した第一次世界大戦の教訓から戦勝による領土拡大を自制しようというものだった」
「この原則に基づけば、ロシア・ソ連との間で複数回あった領土交渉の中で、日露戦争後のポーツマス条約(1905年)は戦勝国が奪い取ったという意味で、南樺太を放棄せざるを得ないのは分からなくもないが、平和的に領土を確定した樺太・千島交換条約(1875年)による国境線は、敗戦国であっても日本としてしっかり主張すべき基本であった。それを『二島先行返還』という玉虫色の解決策をちらつかされ、しかもそれすら取れず、蹴散らされる形での結末になった」
「米国への過剰同調も然(しか)り。北方領土も尖閣も、実は米国がどういうスタンスを取るかによって大きく方向付けが変わる。米国は尖閣に対する日本の施政権は認めるものの、領有権にコミットしないと言い続けているが、米国が領有権を認めれば、安保条約第5条(日米共同対処)の対象になる、という回りくどい表現は必要なくなる。ここでも筋道を通す外交が必要だ。対朝鮮半島、中国の近隣外交もことごとく相互不信のデッドロックに乗り上げた」
岸田政権はどう見る?
「ローリスクの安全運転に徹している。G7に同調してロシアを締め上げていれば日本の立ち位置をある程度確保できると読み、7月の参院選にこのまま突っ込もうとしているが、政権発足して半年余。その欠点も見えてきた。創造性、クリエーティビティーが無いことだ。『アベノミクスの改良』というが、それを超え日本をどういう経済産業国家にするのかという構想力が見えてこない」
「先日の岸田外遊にも懸念を持った。ベトナム、インドネシアなどの東南アジアの首脳が、G7との同調だけで生きる日本に対する期待感なし、という姿勢を見せた。もちろんロシアの戦争には賛成しないが、アジアを冷戦型の二極構造に引きずり込んでは駄目だという1955年のアジア・アフリカ(バンドン)会議以来の伝統ともいえるメッセージを再確認すべきだ」
野党はどうか?
「このぬるま湯的状況の中で緊張感を失っている。都市新中間層と言われる中道リベラル層の心をつかみきれていない。産業政策が抜け落ちているからである。我々はもう一回、日本という国の再生を試みなくてはいけない。本当の意味での『新しい資本主義』をどう語り、新しい国際秩序をどう創るかが、政策論として問われている。過去の成功モデルを前提とした分配を語るのではなく、明らかに後退し、失敗しているモデルの中で、しんがり戦を戦っていくつもりで新しいアジェンダを提起すべきだ」
政党超えた国民運動のうねりを
寺島氏にはアジェンダを三つに絞ってもらった。
「第一に、民主主義の深化だ。ウクライナ危機でよりクリアに炙(あぶ)り出されたのは、民主主義とは何か、であった。成熟した民主主義とは何かを今一度問い直さなければならない。熟慮、多数決、少数尊重、言論の自由という国内民主主義を定着させることだ。プーチンのロシアの危うさは、民族宗教としてのロシア正教が国家権力と一体化すると民主主義が機能しなくなることを示している。これは、『日本は神の国』という国家神道が日本を狂わせた80年前の日本近代史の教訓にも通じることで、改憲議論でも重要なポイントだ」
「ウクライナ危機で国連は無力で機能しないという人がいるが、私は違うと思う。国連安保理での5大国主義が機能しないということが明らかになったが、国連総会が持つ意味や人権委員会からロシアが放逐されていくプロセスには意味があった。『超大国の力こそ正義』に見えたが、弱小国の一票も意味を持っていた。だからこそ、国連の中で日本がどう動くのか。米国のスタンプでないとしたら何なのか。世界の民主主義、全員参加型秩序の中でどういう役割を担うのか、が重要になっている」
「例えば、今回のプーチンの核威嚇を国際社会としてどう捉えるか。唯一の被爆国・日本が、核抑止力という冷戦型思考の議論ではなく、核兵器禁止条約の先頭に出て、核保有国は非保有国を攻撃してはならない、とのルール形成にリーダーシップを発揮するなどの行動はどうだろうか。エネルギー安保のため技術革新で連携するプラットフォーム作りを提起、あるいは、異次元緩和時代の終焉(しゅうえん)に伴い金融安保をどうするか、いつまでもIMF・世銀頼りでいいのか、という問題意識を発信してもいい。成熟した民主主義国家として国際社会の新しい制度・ルール形成を主導すべきだ」
「第二に、産業政策の重視だ。金融資本主義とデジタル資本主義の肥大化の中でか細くなっている産業資本主義のあり方について、日本の本来の生真面目さに立ち返り、ものづくりの技術をさらに磨き、そこにデジタルエコノミーの要素、技術を取り込む。戦後日本を支えてきた自動車、鉄鋼、エレクトロニクスという工業生産力モデルの産業から、『食と農』『医療・防災』『文化・教育』という基幹産業に21世紀の日本産業の進路をシフトさせていくことだ。岸田政権は『アベノミクスの改良』として、外資を引き込み、国民の貯蓄を投資に向ける『インベスト・イン・キシダ』を目玉にしているが、これもすべてマネーゲーム重視にすぎない。産業の基盤を強くする政策ではない」
「第三は、対米過剰依存と過剰期待の中を生きてきた戦後との本当の意味で訣別(けつべつ)だ。一部の大国が支配するのではなく、全員参加型秩序によって動く国際社会を作り、その中で日本のレジティマシーを確立していく。先述した二極構造には分断されないことだ。そのためには、日米地位協定の改定と、在日米軍基地の段階的縮小をアジェンダとして鮮明にすることだ。腰砕けになってはならない。かつてドイツが冷戦終焉後に実施したように、辺野古も含め三沢から沖縄まで、すべての米軍基地をテーブルに乗せ、アジアの安全保障のために本当に必要な基地を見極め、例えば敗戦後100年目にあたる2045年をめどに在日米軍基地の段階的縮小を図ることだ」
◇ ◇ 3点セットの寺島アジェンダ。いかがだろうか。
ぜひともこの3点を公約に取り込む政党が出てきてほしいものだ。岸田自民党はどうであろうか。安倍・菅政治の否定から入るところで躊躇(ちゅうちょ)があるであろう。両氏とも党内ではまだ実力者だ。安全運転の岸田氏にもそこまでの問題意識と執行力があるとは思えない。
野党はどうか。本来であれば、新しいアジェンダセットは野党の役割だが、現時点でその動きはない。
寺島氏自身は既成政党と職業政治家に全く期待はしていない。政党を超えたボトムアップ的国民運動のうねりがいずれ出て、このアジェンダを背負っていくと見ている。政治家は既成政党を超えて「新しい民主主義」をつくりだせ、とのメッセージだ。
「(その動きは)出てきますよ、必ず。歴史というのはそういうものだ。必要が結果を呼ぶ。現状を変えねばと思い始めている人たちが増え、そのエネルギーがプールされつつあることを肌身で感じている。水面下で地に足が着いた時に反転のエネルギーが生まれてくる。フランスでマクロンが出てきたような現象(2017年大統領選)が日本でも起きる可能性はある。今の政党の役割を超えて、全く新しい政治勢力が生まれた。その時に思想家のジャック・アタリの果たした超党派的役割が重要だ。私もアジェンダが何なのかという応分の役割を果たしたいと思っている」
全体知の巨人・寺島氏の楽観主義に賛成だ。参院選は、過去何度も節目の時代を演出してきた。12年周期説もある。1986年の社会党惨敗、そして「山が動いた」(土井たか子社会党委員長)選挙、98年の橋本龍太郎首相退陣選挙、2010年の衆参ねじれ選挙がそうだった。今年も12年ぶりの寅年選挙。選挙だけは票があくまではわからない。この2カ月間で何がどう動くのか。じっくりウオッチしてみたい。
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てらしま・じつろう
1947年生まれ。日本総合研究所会長。世界的視点で日本の針路について重要な問題提起を行ってきた
倉重篤郎 くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員
ちと難しいお話なので私も100%は理解出来ていないが、関口宏のサンデーモーニングで3週間に1回くらい出演する寺島実郎氏のニュース解説には特に耳を傾けている。納得できることがいつも多いんだな~。元毎日新聞の政治部長の倉重篤郎氏のコラムも以前から毎日新聞のニュース最前線で注目している。
以下の解説のすべては理解出来ていないけどとても興味深い。今の世の中に生きている以上この「ニュース最前線」の記事くらいすらすらと読めるようになりたいものだ(笑)。経済の仕組みが一番難しいね!
サンデー毎日 / 倉重篤郎のニュース最前線 / 寺島実郎の救国提言 ウクライナ侵攻で世界は一変した! 新しい民主主義の核心・実践編
毎日新聞 2022/5/19 05:00 有料記事
ウクライナの事態は世界的な複合不況を招来し、私たちの生活を圧迫している。西側においては停戦への意志が影を潜め、戦争への加担が強まっている。かつてない生活破壊、政治危機にあって、私たちは「新たな民主主義」を構想すべきではないか。「全体知の巨人」が国民に呼びかける渾身提言!
政治家は「政党」を超えよ/「米国過剰依存」から脱却/「産業基盤の再生」の方策
ロシア・ウクライナ戦争で気付きが二つあった。
インフレはコロナから立ち直りかけていた消費を冷え込ませるだけではなく、低所得者や年金受給者ら庶民の生活を直撃する。国民万般の懐から一律にカネをもぎ取る所得移転、見えない税金でもある。インフレ封じこそ政治の要諦であり、その手段として中央銀行に与えられた機能が金利調整権限である。米国FRBを含め各国中銀が次々に金利を上げ、インフレ抑止の金融引き締めに転じていることは承知の通りである。
「負の遺産」ばかりの経済と防衛
ただ、日本銀行(黒田東彦(はるひこ)総裁)だけがそれができない。金融引き締めどころか、利回りを指定して国債を無制限に買い取る「連続指し値オペ」という金融緩和策を続けている。その結果起きているのは、世界主要国との金利格差の広がりであり、これが円売り、円安更新、輸入物価の上昇、国内インフレという悪循環を生んでいる。本来インフレファイターであるべき日銀が、金利高に怯(おび)えるあまり、インフレを容認、加速させているのだ。
なぜ金利高に怯えるのか。9年に及ぶ異次元金融緩和政策の結果である。1000兆円を超える国債発行(借金)に対する金利負担と、そのうちの半分近い520兆円を保有する日銀の財務劣化が怖いのである。金利負担で言えば、1%上昇で国債費は1年目には0・8兆円、翌年度は2兆円、翌々年度は3・8兆円、借り換えが一巡すると10兆円の増加となる。まっとうな予算が組めなくなる。日銀財務で言えば、金利1%上げで保有国債の価値が67兆円(16年時点で試算)毀損(きそん)するほか、当座預金への付利払いが生じ、日銀の自己資本9・7兆円が簡単に吹っ飛んでしまうのだ。
一言で言えば、アベノミクスの呪縛である。安倍・菅政権の9年間で、やりたい放題カネをばら撒(ま)き、いい思いをしてきたツケが、一気に噴き出た形である。
今一つは、米バイデン政権のこの戦争への向き合い方に対する疑問であり、日本の憲法9条・専守防衛路線の重要性再認識である。
まずは、この戦争を防げなかったことへの不信である。ロシアの侵略の本質的背景にNATOの東方拡大があることを否定する識者はいないだろう。米国内にもキッシンジャーやミアシャイマーら力の均衡論や地政学的観点から西側の急速な東方拡大はロシアを追い詰めることになると反対、ロシアにも緩衝帯が必要だとする論者がいたことは、前々回のこの欄(5月8・15日号)で紹介した。ミアシャイマーは、今なおプーチンを戦争に追い込んだのはウクライナのNATO非加盟を担保できなかった米外交の失敗だとしている。
次に、停戦努力は棚上げし、民主主義vs.国権主義の戦いと聖戦化、結果的にこの戦争を長期化させていることへの疑念である。この背景には、西側的価値をどこまでも拡大すべきだという民主主義・価値観外交があり、これがかつてのネオコンと違うところは、情報と兵器のみを供給し自らは戦闘に加わらない点である、というのが同欄での元外務官僚・東郷和彦氏の解説であった。他国には血を流させ自国の軍産複合体が潤う「死の商人」路線は賛成できない。そもそも価値観外交がアフガン、イラク戦争で失敗した教訓はどこにいったのか、とも思う。
さらに9条だ。この戦争は、従来あった敵基地攻撃能力の保有、防衛費2%増といった軍備増強論をさらに加速させているが、私見は異なる。戦争はいったん始まると止まらないどころか、人命と文明をとことん破壊する。軍事的抑止力強化はこの局面では破壊力をパワーアップするだけである。戦争というシステムの絶対悪がこれほどまでに明確になった事例はない。紛争解決に戦争という手段を取らない、放棄する、との姿勢は正しいし、戦争に追い込まれたとしてもロシア的侵犯ではなく、ウクライナ的専守防衛の立場でありたい。その意味では、むしろ9条の戦争統制力の価値を再発見したことになる。
ここでもまた、従米・軍事抑止力強化路線を推し進めた安倍・菅時代の負の遺産とぶつかる羽目になる。米国への同調を恒常化、従米という枠内でしか思考できなくなり、その忖度(そんたく)から米兵器を爆買い(後年度負担でツケが拡大)し、集団的自衛権行使の縛りを解いたことで海外での武力行使への道を開いてしまった。
ラーメン3000円「恐怖の円安」
我々はこの10年の安倍・菅政治をきちんと検証し尽くしただろうか。その咎(とが)について選挙でしっかりと問い質(ただ)しただろうか。「アベノミクスの継続と改良」を掲げる岸田文雄政権が間に入ったこともあり、すべて半端、曖昧のうちに時が過ぎてしまった感がある。
ここはネジを巻き戻す時だ。今我々がどういう状態にあるのか。それはどうしてそうなっているのか。拠(よ)って至ったことへの分析が必要だ。そして、それをどういう方向にどのように変えるのか。アジェンダ(課題)設定はさらに重要だ。
この稿では寺島実郎氏(日本総合研究所会長、多摩大学長)に意見を聞く。
7月10日投開票の見込みの参院選まであと2カ月。不気味なほどの静けさを打ち破るべく、安倍・菅政治を徹底批判、その上にどんな日本を築き上げていくのか。根源的問題提起をしていただく。
「連休を通じて二つの衝撃的数字があった。一つがIMF発表の2021年GDPの確定値だ。世界全体に占める日本の比重が5・1%になってしまった。ピーク時1994年の17・9%に比べると『日本の埋没』は顕著だ。2000年にはまだ14%あったので、一気に埋没したことになる」
「もう一つは、『恐怖の円安』だ。この連休に海外に出た人たちが絶句するように共通して語る。アベノミクスが始まる2012年には80円を割っていたドルが今や130円を超す。ラーメンやうどんを食べてもチップを足すとたちまち3000円くらいになるという。自国通貨が6割以上下落することの悲哀が伝わってくる」
埋没も悲哀も安倍・菅政治の帰結に見える。そこで参院選。何を問うべきか?
「まさにその『安倍・菅政治のシンドローム』からの脱却だ。6年前の参院選を振り返ってほしい。あの時、経済ではアベノミクス、外交・安保では対トランプ忖度で、多くの日本人が、日本もそこそこによくやっている、と思い込む共同幻想の中にあった。それがコロナとウクライナ危機という二重のショックで見事に消え去った。むしろ、アベノミクスや従米外交が、日本の埋没を加速したことに気付かなければいけない」
「アベノミクスとは調整インフレ政策だった。デフレからの脱却を目指し、第一の矢の異次元金融緩和で金融をジャブジャブにし、第二の矢の財政出動で赤字国債を日銀に丸投げ、公的資金により意図的に株高と円安に持ち込むという政策だった。株高も円安も日本経済を見掛け上は良く見せたが、一方で実力以上の株高は経営者を勘違いさせた。円高・省エネなどの高いハードルを、産業の創生や技術の錬磨を通じて越えようとする努力を経済人は忘却し、日本の産業技術基盤はみるみる劣化していった」
「コロナが来て、世界中が異次元金融緩和にシンクロナイズしたこの2年あまりは、アベノミクスの主導者と忖度官僚たちがほっとしていた時代だった。異形の政策は自分たちだけではないと。だが、ウクライナ危機がまた局面を変えた。資源高がインフレを助長したため、欧米各国は金融引き締めに転換、連休のもう一つのショックとして、米FRBが一気に0・5㌽政策金利を上げた。彼らには金融政策を正常化する柔軟性が残されていた」
「ところが日本はいつまでたっても正常化できない。国家予算の12倍、GDPの2倍もの借金(公的債務)を積み上げ、金利を上げるに上げられない、という雪隠詰めのような状態だ。これはいわば、アベノミクスの罪と罰だ。この先、日米の金利格差が広がるとさらに円安にシフト、日本だけでなく途上国資金も米国へ流出するだろう。世界的な金融不安を内包する中で、日本だけが正常化できないという不都合な真実の中にはまり込んでいる」
構想力が何も見えない岸田政権
その罪、万死に値する。
「重要なのは、これを政・財・官・学・メディア各界の共同正犯と自覚することだ。本来は禁じ手であったものを2年限定で始めたはずが、自堕落に続け、出口さえ議論できない状態だ。政界は忖度一色で、財界は安住し、官界はどんどん予算を膨らませ、アカデミズムはリフレ派の議論を批判できず、経済メディアはアベノミクス礼賛を特集した。この反省に基づき、日本が置かれている状況への本質的省察がなければこの先進みだすことができない」
安倍外交にも問題が?
「トランプ・米国への過剰同調と、プーチン・ロシアへ秋波を送り過ぎた。特に、プーチンには哀しいまでに手玉に取られた。ファーストネームで呼び合うのが信頼関係の証しだと、ウラジーミルと呼び、27回首脳会談を行った。14年のウクライナ危機では西側各国が控える中、日本の首相だけがソチ冬季五輪開会式に出席、プーチンをして日本はG7から引きはがせるという変な期待値を持たせた」
「北方領土交渉では筋道を間違えた。外交交渉は国際条約によるレジティマシー(正当性)に依拠することが重要だ。それは第二次大戦の終結時に大西洋憲章、連合国共同宣言の基本的柱になった『戦争による領土不拡大』条項だ。結果的にヒトラーを生み出した第一次世界大戦の教訓から戦勝による領土拡大を自制しようというものだった」
「この原則に基づけば、ロシア・ソ連との間で複数回あった領土交渉の中で、日露戦争後のポーツマス条約(1905年)は戦勝国が奪い取ったという意味で、南樺太を放棄せざるを得ないのは分からなくもないが、平和的に領土を確定した樺太・千島交換条約(1875年)による国境線は、敗戦国であっても日本としてしっかり主張すべき基本であった。それを『二島先行返還』という玉虫色の解決策をちらつかされ、しかもそれすら取れず、蹴散らされる形での結末になった」
「米国への過剰同調も然(しか)り。北方領土も尖閣も、実は米国がどういうスタンスを取るかによって大きく方向付けが変わる。米国は尖閣に対する日本の施政権は認めるものの、領有権にコミットしないと言い続けているが、米国が領有権を認めれば、安保条約第5条(日米共同対処)の対象になる、という回りくどい表現は必要なくなる。ここでも筋道を通す外交が必要だ。対朝鮮半島、中国の近隣外交もことごとく相互不信のデッドロックに乗り上げた」
岸田政権はどう見る?
「ローリスクの安全運転に徹している。G7に同調してロシアを締め上げていれば日本の立ち位置をある程度確保できると読み、7月の参院選にこのまま突っ込もうとしているが、政権発足して半年余。その欠点も見えてきた。創造性、クリエーティビティーが無いことだ。『アベノミクスの改良』というが、それを超え日本をどういう経済産業国家にするのかという構想力が見えてこない」
「先日の岸田外遊にも懸念を持った。ベトナム、インドネシアなどの東南アジアの首脳が、G7との同調だけで生きる日本に対する期待感なし、という姿勢を見せた。もちろんロシアの戦争には賛成しないが、アジアを冷戦型の二極構造に引きずり込んでは駄目だという1955年のアジア・アフリカ(バンドン)会議以来の伝統ともいえるメッセージを再確認すべきだ」
野党はどうか?
「このぬるま湯的状況の中で緊張感を失っている。都市新中間層と言われる中道リベラル層の心をつかみきれていない。産業政策が抜け落ちているからである。我々はもう一回、日本という国の再生を試みなくてはいけない。本当の意味での『新しい資本主義』をどう語り、新しい国際秩序をどう創るかが、政策論として問われている。過去の成功モデルを前提とした分配を語るのではなく、明らかに後退し、失敗しているモデルの中で、しんがり戦を戦っていくつもりで新しいアジェンダを提起すべきだ」
政党超えた国民運動のうねりを
寺島氏にはアジェンダを三つに絞ってもらった。
「第一に、民主主義の深化だ。ウクライナ危機でよりクリアに炙(あぶ)り出されたのは、民主主義とは何か、であった。成熟した民主主義とは何かを今一度問い直さなければならない。熟慮、多数決、少数尊重、言論の自由という国内民主主義を定着させることだ。プーチンのロシアの危うさは、民族宗教としてのロシア正教が国家権力と一体化すると民主主義が機能しなくなることを示している。これは、『日本は神の国』という国家神道が日本を狂わせた80年前の日本近代史の教訓にも通じることで、改憲議論でも重要なポイントだ」
「ウクライナ危機で国連は無力で機能しないという人がいるが、私は違うと思う。国連安保理での5大国主義が機能しないということが明らかになったが、国連総会が持つ意味や人権委員会からロシアが放逐されていくプロセスには意味があった。『超大国の力こそ正義』に見えたが、弱小国の一票も意味を持っていた。だからこそ、国連の中で日本がどう動くのか。米国のスタンプでないとしたら何なのか。世界の民主主義、全員参加型秩序の中でどういう役割を担うのか、が重要になっている」
「例えば、今回のプーチンの核威嚇を国際社会としてどう捉えるか。唯一の被爆国・日本が、核抑止力という冷戦型思考の議論ではなく、核兵器禁止条約の先頭に出て、核保有国は非保有国を攻撃してはならない、とのルール形成にリーダーシップを発揮するなどの行動はどうだろうか。エネルギー安保のため技術革新で連携するプラットフォーム作りを提起、あるいは、異次元緩和時代の終焉(しゅうえん)に伴い金融安保をどうするか、いつまでもIMF・世銀頼りでいいのか、という問題意識を発信してもいい。成熟した民主主義国家として国際社会の新しい制度・ルール形成を主導すべきだ」
「第二に、産業政策の重視だ。金融資本主義とデジタル資本主義の肥大化の中でか細くなっている産業資本主義のあり方について、日本の本来の生真面目さに立ち返り、ものづくりの技術をさらに磨き、そこにデジタルエコノミーの要素、技術を取り込む。戦後日本を支えてきた自動車、鉄鋼、エレクトロニクスという工業生産力モデルの産業から、『食と農』『医療・防災』『文化・教育』という基幹産業に21世紀の日本産業の進路をシフトさせていくことだ。岸田政権は『アベノミクスの改良』として、外資を引き込み、国民の貯蓄を投資に向ける『インベスト・イン・キシダ』を目玉にしているが、これもすべてマネーゲーム重視にすぎない。産業の基盤を強くする政策ではない」
「第三は、対米過剰依存と過剰期待の中を生きてきた戦後との本当の意味で訣別(けつべつ)だ。一部の大国が支配するのではなく、全員参加型秩序によって動く国際社会を作り、その中で日本のレジティマシーを確立していく。先述した二極構造には分断されないことだ。そのためには、日米地位協定の改定と、在日米軍基地の段階的縮小をアジェンダとして鮮明にすることだ。腰砕けになってはならない。かつてドイツが冷戦終焉後に実施したように、辺野古も含め三沢から沖縄まで、すべての米軍基地をテーブルに乗せ、アジアの安全保障のために本当に必要な基地を見極め、例えば敗戦後100年目にあたる2045年をめどに在日米軍基地の段階的縮小を図ることだ」
◇ ◇ 3点セットの寺島アジェンダ。いかがだろうか。
ぜひともこの3点を公約に取り込む政党が出てきてほしいものだ。岸田自民党はどうであろうか。安倍・菅政治の否定から入るところで躊躇(ちゅうちょ)があるであろう。両氏とも党内ではまだ実力者だ。安全運転の岸田氏にもそこまでの問題意識と執行力があるとは思えない。
野党はどうか。本来であれば、新しいアジェンダセットは野党の役割だが、現時点でその動きはない。
寺島氏自身は既成政党と職業政治家に全く期待はしていない。政党を超えたボトムアップ的国民運動のうねりがいずれ出て、このアジェンダを背負っていくと見ている。政治家は既成政党を超えて「新しい民主主義」をつくりだせ、とのメッセージだ。
「(その動きは)出てきますよ、必ず。歴史というのはそういうものだ。必要が結果を呼ぶ。現状を変えねばと思い始めている人たちが増え、そのエネルギーがプールされつつあることを肌身で感じている。水面下で地に足が着いた時に反転のエネルギーが生まれてくる。フランスでマクロンが出てきたような現象(2017年大統領選)が日本でも起きる可能性はある。今の政党の役割を超えて、全く新しい政治勢力が生まれた。その時に思想家のジャック・アタリの果たした超党派的役割が重要だ。私もアジェンダが何なのかという応分の役割を果たしたいと思っている」
全体知の巨人・寺島氏の楽観主義に賛成だ。参院選は、過去何度も節目の時代を演出してきた。12年周期説もある。1986年の社会党惨敗、そして「山が動いた」(土井たか子社会党委員長)選挙、98年の橋本龍太郎首相退陣選挙、2010年の衆参ねじれ選挙がそうだった。今年も12年ぶりの寅年選挙。選挙だけは票があくまではわからない。この2カ月間で何がどう動くのか。じっくりウオッチしてみたい。
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てらしま・じつろう
1947年生まれ。日本総合研究所会長。世界的視点で日本の針路について重要な問題提起を行ってきた
倉重篤郎 くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員