「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録の推薦などについて、記者団の質問に答える岸田文雄首相=首相官邸で2022年1月28日、竹内幹撮影
毎日新聞 2022/2/4 東京夕刊 有料記事
鈴木哲夫氏 「丸投げ」理念なしが露呈
与良委員 「弱腰」批判で揺らぐ足元
新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」が猛威をふるう中、政権発足から100日を超えた岸田文雄首相の内閣支持率は意外に堅調である。とはいえ、永田町を歩けば岸田政権の本当の姿が見えてくる。ジャーナリストの鈴木哲夫氏、毎日新聞の与良正男専門編集委員が語り合った。【構成・浜中慎哉】
説明がない
与良 安倍晋三政権以来、コロナの感染者数が増えると内閣支持率が下落する傾向がありました。ところが、今年1月の毎日新聞などの世論調査では、岸田内閣の支持率は52%で、前回(昨年12月)の54%からほぼ横ばいでした。
鈴木哲夫氏
=幾島健太郎撮影
鈴木 私は厳しい見方をしています。コロナ対策は、ワクチン対応などを見ても現場に任せっきりな印象で、きつい言い方をすれば「丸投げ」なんです。象徴的なのは、18歳以下に10万円相当を給付する未来応援給付。与党や省庁に議論を任せ、現金とクーポンをそれぞれ5万円分ずつ配布という妥協案を承認しましたが、世論を中心に批判の声が高まると「全額現金給付の容認」に乗り換えた。それを首相やその周辺は「聞く耳がある」「ボトムアップだ」などと自賛していますが、言い換えれば政策理念がないということです。そうした姿が徐々に見えてきたのではないでしょうか。支持率も、横ばいという表現もできますが、逆に言えば、伸びが止まったとも言えます。
与良委員
=幾島健太郎撮影
与良 確かに支持率が下がり始めた調査もあります。コロナ対応については、当初から専門家の間では「最悪のシナリオ」としてオミクロン株による感染者急増の可能性が指摘されていました。首相は「最悪の事態を想定するのが危機管理」と再三述べていますが、本当にそう考えているのか、疑念があります。「オミクロン株は重症化しない」ということばかりが国民に伝わり、危機意識が緩んでしまっているようにも感じます。これは政権の手綱さばきに問題があるからではないでしょうか。
鈴木 首相はそもそも、30以上の都道府県に適用されたまん延防止等重点措置について、記者のぶら下がり取材に応じるだけで記者会見を開いていません。これだけ感染が広がってオミクロン株という新しい敵に直面しているわけですから、国民に対して、オミクロン株対応に特化した新たな視点のメッセージを専門家と並んで出すべき局面では。また、通常国会では、コロナ対策を強化する感染症法や特措法などの法改正を見送るとしましたが、「危機管理が大事」と言うなら今すぐに議論を始めるべきです。日本医師会が反対しそうだとか国会が荒れそうだとかいうものを避けるのは、今夏に参院選を控えているからなのでしょうが、それは筋が違う。
与良 岸田首相の言葉がとても空疎に感じます。丁寧に答弁しているように見えますが、結局は何も言っていないに等しい。昨年9月の自民党総裁選の頃から盛んに使ってきた「新しい資本主義」というキーワードがまさにそれです。問題意識は私も共感するのです。ところが、今年1月の施政方針演説では、「さまざまな弊害を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両面から資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化していきます」と説明しました。これ、理解できます? 行き過ぎた新自由主義の是正といった程度にとどめておけばよかったのに、大風呂敷を広げてしまった。「成長と分配の両方が大事だ」と言うのなら、アベノミクスとほとんど変わらない。結局、「新しい資本主義」とは「アベノミクスの持続化」のことなのではないか、と思い始めています。
鈴木 岸田首相の施政方針演説における「新しい資本主義」の説明は分かりにくい。それに、「成長と分配を重視する」というのも、いまだに具体的にどうするのか見えてこない。国民は「私たちの生活はどうなるの?」「仕事は?」「子育ては?」といったことが聞きたいのに、その説明がなく、むなしさすら感じます。
安倍氏と溝
与良 今夏に参院選を控える中、自民党が参院選に勝利すれば、岸田政権が長期政権になるとの見方も浮上しています。岸田政権を支える自民党内情勢をどう見ていますか。
鈴木 対立が表面化しているわけではありませんが、安倍元首相と岸田首相の間で溝が深まっていると思います。政権発足直後の閣僚や党役員の人事で安倍氏の意向が十分に反映されなかったことがきっかけでしたが、決定打は、安倍氏と同じ山口県が地盤で、古くから因縁のある林芳正元文部科学相を外相に起用したことではないでしょうか。安倍氏に近い関係者の話では、岸田首相は事前に外相人事を安倍氏に相談し、安倍氏も人づてに首相に内意を伝えていたようです。にもかかわらず、首相はよりによって、安倍氏の得意分野である外交・安全保障の要のポストに天敵の林氏を起用した。首相の意図にかかわらず、この外相人事によって二人の関係は急速に冷えてしまったようなのです。
与良 一方、「佐渡島の金山」(新潟県)を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録するよう推薦する話では、首相は韓国との関係を重視して慎重だったにもかかわらず安倍氏らから「弱腰だ」と批判されると一転して方針を変えた。
そんな二人を何とかつなぎ留めているのが憲法改正です。岸田首相は安倍氏の悲願である改憲に意欲を示しており、党の憲法改正実現本部の総会に出席し「総力を挙げて結果を出したい」とあいさつしました。首相は韓国との関係を重視して慎重だったにもかかわらず安倍氏らから「弱腰だ」と批判されると一転して方針を変えた。首相は韓国との関係を重視して慎重だったにもかかわらず安倍氏らから「弱腰だ」と批判されると一転して方針を変えた。改憲論議が岸田首相にとっての政権維持装置になっているわけです。
鈴木 安倍氏は、総裁選で推した高市早苗政調会長や、同じ派閥の下村博文前政調会長を「ポスト岸田」候補として考えているようです。党内を見渡せば、茂木派を率いる茂木敏充幹事長はポスト岸田を見据えた言動が活発化し、岸田政権の誕生で党内の非主流派となった二階俊博元幹事長や菅義偉前首相、石破茂元幹事長らが連携を模索する動きもある。今後の岸田政権の動向次第では、こうした党内の動きが加速するでしょう。
前の総裁選挙からかな~?政治討論に興味がなくなったのは。このお二方の対談を読んでいてその原因が分かったような気になる。良く言えば「可もなく、不可もなく」で、悪く言えば表題の「『丸投げ』理念なしが露呈、『弱腰』批判で揺らぐ足元」なのかな?私は元総理の推す高市早苗氏に「ポスト岸田」にはなってもらいたくないので、魅力は感じないけど、岸田文雄首相には頑張ってほしいです。立憲民主党に維新にも期待が持てませんね~。
毎日新聞 2022/2/4 東京夕刊 有料記事
鈴木哲夫氏 「丸投げ」理念なしが露呈
与良委員 「弱腰」批判で揺らぐ足元
新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」が猛威をふるう中、政権発足から100日を超えた岸田文雄首相の内閣支持率は意外に堅調である。とはいえ、永田町を歩けば岸田政権の本当の姿が見えてくる。ジャーナリストの鈴木哲夫氏、毎日新聞の与良正男専門編集委員が語り合った。【構成・浜中慎哉】
説明がない
与良 安倍晋三政権以来、コロナの感染者数が増えると内閣支持率が下落する傾向がありました。ところが、今年1月の毎日新聞などの世論調査では、岸田内閣の支持率は52%で、前回(昨年12月)の54%からほぼ横ばいでした。
鈴木哲夫氏
=幾島健太郎撮影
鈴木 私は厳しい見方をしています。コロナ対策は、ワクチン対応などを見ても現場に任せっきりな印象で、きつい言い方をすれば「丸投げ」なんです。象徴的なのは、18歳以下に10万円相当を給付する未来応援給付。与党や省庁に議論を任せ、現金とクーポンをそれぞれ5万円分ずつ配布という妥協案を承認しましたが、世論を中心に批判の声が高まると「全額現金給付の容認」に乗り換えた。それを首相やその周辺は「聞く耳がある」「ボトムアップだ」などと自賛していますが、言い換えれば政策理念がないということです。そうした姿が徐々に見えてきたのではないでしょうか。支持率も、横ばいという表現もできますが、逆に言えば、伸びが止まったとも言えます。
与良委員
=幾島健太郎撮影
与良 確かに支持率が下がり始めた調査もあります。コロナ対応については、当初から専門家の間では「最悪のシナリオ」としてオミクロン株による感染者急増の可能性が指摘されていました。首相は「最悪の事態を想定するのが危機管理」と再三述べていますが、本当にそう考えているのか、疑念があります。「オミクロン株は重症化しない」ということばかりが国民に伝わり、危機意識が緩んでしまっているようにも感じます。これは政権の手綱さばきに問題があるからではないでしょうか。
鈴木 首相はそもそも、30以上の都道府県に適用されたまん延防止等重点措置について、記者のぶら下がり取材に応じるだけで記者会見を開いていません。これだけ感染が広がってオミクロン株という新しい敵に直面しているわけですから、国民に対して、オミクロン株対応に特化した新たな視点のメッセージを専門家と並んで出すべき局面では。また、通常国会では、コロナ対策を強化する感染症法や特措法などの法改正を見送るとしましたが、「危機管理が大事」と言うなら今すぐに議論を始めるべきです。日本医師会が反対しそうだとか国会が荒れそうだとかいうものを避けるのは、今夏に参院選を控えているからなのでしょうが、それは筋が違う。
与良 岸田首相の言葉がとても空疎に感じます。丁寧に答弁しているように見えますが、結局は何も言っていないに等しい。昨年9月の自民党総裁選の頃から盛んに使ってきた「新しい資本主義」というキーワードがまさにそれです。問題意識は私も共感するのです。ところが、今年1月の施政方針演説では、「さまざまな弊害を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両面から資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化していきます」と説明しました。これ、理解できます? 行き過ぎた新自由主義の是正といった程度にとどめておけばよかったのに、大風呂敷を広げてしまった。「成長と分配の両方が大事だ」と言うのなら、アベノミクスとほとんど変わらない。結局、「新しい資本主義」とは「アベノミクスの持続化」のことなのではないか、と思い始めています。
鈴木 岸田首相の施政方針演説における「新しい資本主義」の説明は分かりにくい。それに、「成長と分配を重視する」というのも、いまだに具体的にどうするのか見えてこない。国民は「私たちの生活はどうなるの?」「仕事は?」「子育ては?」といったことが聞きたいのに、その説明がなく、むなしさすら感じます。
安倍氏と溝
与良 今夏に参院選を控える中、自民党が参院選に勝利すれば、岸田政権が長期政権になるとの見方も浮上しています。岸田政権を支える自民党内情勢をどう見ていますか。
鈴木 対立が表面化しているわけではありませんが、安倍元首相と岸田首相の間で溝が深まっていると思います。政権発足直後の閣僚や党役員の人事で安倍氏の意向が十分に反映されなかったことがきっかけでしたが、決定打は、安倍氏と同じ山口県が地盤で、古くから因縁のある林芳正元文部科学相を外相に起用したことではないでしょうか。安倍氏に近い関係者の話では、岸田首相は事前に外相人事を安倍氏に相談し、安倍氏も人づてに首相に内意を伝えていたようです。にもかかわらず、首相はよりによって、安倍氏の得意分野である外交・安全保障の要のポストに天敵の林氏を起用した。首相の意図にかかわらず、この外相人事によって二人の関係は急速に冷えてしまったようなのです。
与良 一方、「佐渡島の金山」(新潟県)を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録するよう推薦する話では、首相は韓国との関係を重視して慎重だったにもかかわらず安倍氏らから「弱腰だ」と批判されると一転して方針を変えた。
そんな二人を何とかつなぎ留めているのが憲法改正です。岸田首相は安倍氏の悲願である改憲に意欲を示しており、党の憲法改正実現本部の総会に出席し「総力を挙げて結果を出したい」とあいさつしました。首相は韓国との関係を重視して慎重だったにもかかわらず安倍氏らから「弱腰だ」と批判されると一転して方針を変えた。首相は韓国との関係を重視して慎重だったにもかかわらず安倍氏らから「弱腰だ」と批判されると一転して方針を変えた。改憲論議が岸田首相にとっての政権維持装置になっているわけです。
鈴木 安倍氏は、総裁選で推した高市早苗政調会長や、同じ派閥の下村博文前政調会長を「ポスト岸田」候補として考えているようです。党内を見渡せば、茂木派を率いる茂木敏充幹事長はポスト岸田を見据えた言動が活発化し、岸田政権の誕生で党内の非主流派となった二階俊博元幹事長や菅義偉前首相、石破茂元幹事長らが連携を模索する動きもある。今後の岸田政権の動向次第では、こうした党内の動きが加速するでしょう。
前の総裁選挙からかな~?政治討論に興味がなくなったのは。このお二方の対談を読んでいてその原因が分かったような気になる。良く言えば「可もなく、不可もなく」で、悪く言えば表題の「『丸投げ』理念なしが露呈、『弱腰』批判で揺らぐ足元」なのかな?私は元総理の推す高市早苗氏に「ポスト岸田」にはなってもらいたくないので、魅力は感じないけど、岸田文雄首相には頑張ってほしいです。立憲民主党に維新にも期待が持てませんね~。