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金言  手術では治らない=小倉孝保  /  毎日新聞

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新テロ対策特別措置法改正案を審議中の参院外交防衛委員会に参考人として出席、アフガニスタンの治安情勢などについて述べる中村哲氏=国会内で2008年11月5日、毎日新聞 藤井太郎撮影



毎日新聞 2021/8/27 東京朝刊 有料記事
<kin-gon>
 米同時多発テロから約1カ月後の2001年10月13日、土曜にもかかわらず衆院特別委員会が開かれた。政府は当時、自衛隊が米軍の対テロ活動を支援できるよう法整備を急いでいた。

 軍事評論家らとともに参考人として出席したのが医師の中村哲だった。1983年に国際NGO「ペシャワール会」を設立し、アフガニスタンで農地を作ろうと井戸を掘って水路を通し、隣国パキスタンでも医療活動をしていた。

  中村はアフガンの状況について、「私たちが恐れるのは飢餓」と述べ、テロを抑え込むため自衛隊を派遣することを、「有害無益」と明言する。

 浮世離れした発言と受け止められたのか、議員席には嘲笑が広がった。「有害無益」発言を取り消せとの自民党議員の要求を中村は、「日本全体が一つの情報コントロールに置かれておる中で、率直な感想を述べただけ」と突っぱねている。

 米軍はこの6日前、アフガンを軍事攻撃していた。「米国の正義」対「タリバン(イスラム主義組織)の悪」との図式で語られることに中村は疑問を抱いた。テロを防ぐには敵意の軽減が必要で、武力によってそれは成し遂げられない。「このやろうとたたかれても、報復しようという気持ちが強まるばかり」と述べている。

 武力でテロに対抗することを彼は医師らしく、「外科手術」に例えた。国の荒廃や混乱の背景には教育や医療の欠如、貧困や飢えがある。それを人道支援で予防、改善することで、最後の手段であるべき「外科手術」を回避できると中村は考えていた。

 国連世界食糧計画(WFP)などが先ごろ発表した報告によると、アフガンの飢餓状況は悪化している。「継続的な干ばつや紛争による避難民の増加、さらに新型コロナウイルスの影響から来る食料価格の高騰と失業の拡大により食料不安は深刻」という。

 米軍によるアフガン侵攻から20年。飢餓や貧困は改善されず、崩壊したタリバンが勢力を盛り返し、ほぼ全土を掌握した。世界一の「外科医」である米軍をもってしても、アフガンの患部は治癒しなかった。

 憲法の規定から、日本は外科医にはなれない。ならば「予防」や「内科」の分野で世界の安定やテロ防止に貢献するしかない。

 中村は2年前、アフガンで武装勢力に銃撃され命を落とした。タリバンが戻ってきた今、この国とどう向き合うか。中村が嘲笑を浴びながら残した言葉にこそ、貴重な答えがある。(論説委員)

  バイデン大統領による米軍のアフガン全面撤退で、カブール爆発テロの現実を見せつけられた今こそ故・中村哲さんが語られていた真実が実証できた気がするが、この先の日本の針路も何も変わらないのだろうね。

 「ワシントンなんかに居てアジアのことなんか分かるわけがないよ!」とアジアを飛び回っていた人が言っていたことが思い出される。そうか、日本の国会ですら理解しようとしていないんだ。

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