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東京五輪の今夏開催の是非は客観的に評価しよう-議論のロードマップ  / 毎日新聞

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田中均氏=根岸基弘撮影 


  田中均氏が出演する報道番組はとても好きだ。元外交官が出演する報道番組には興味深く観ているが小生は、田中均氏の話にとても説得力を感じている。ご存知ない人もあるかと思うが、小泉純一郎総理大臣(当時)および金正日総書記による日朝首脳会談の史上初の実施や、日朝平壌宣言の調印の成立などの立役者で、安倍前総理の北朝鮮拉致被害者対応についても、暗に批判的な発言を繰り返していた。

 はっはっは、東京五輪の話だった。東京五輪は中止すべきですね!
  

毎日新聞 2021年5月12日

東京五輪の今夏開催の是非は客観的に評価しよう-議論のロードマップ

田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長

 国際オリンピック委員会(IOC)は今夏の東京オリンピック・パラリンピック開催を既定方針としている。
 菅義偉首相は「(五輪)開催の権限はIOCにある」と述べるとともに、「安心安全な開催は可能」として7月23日から開催する姿勢を崩していない。
 一方、緊急事態宣言は5月31日まで延長されたが、その時点で宣言解除を可能にするような状況になっているのかは予断を許さない。IOCのバッハ会長は5月17日に予定されていた来日を見送った。
 国民にとっても五輪に向けて切磋琢磨(せっさたくま)してきたアスリートにとっても、安心安全な形で五輪が今夏開催されることが当然最善なわけであるが、希望的観測に終始するわけにもいかない。
 しかし、実際には“なし崩し的”に開催に至ってしまうのではないかという不安を以前にも増して抱くようになった。
 筆者は、適切な判断は“客観的”な状況評価に基づかなければならないと考えるので、議論を整理してみることとした。


1.日本及び世界の感染状況をどう見通す?

 選手団に対して厳密な感染防止措置がとられるにしても(事前のワクチン接種、毎日のPCR検査など)、多数のスタッフ、メディア、ボランティアなどを巻き込むこともあり、日本全体の感染が収束に向かっていることが開催の大前提となる。

 米国の例からも明らかなとおり、このためにはワクチン接種が鍵となろう。バイデン大統領は7月4日(独立記念日)までに成人の70%が少なくとも1回のワクチン接種を受け、行動制限を大幅に緩和することを目標にしているが、これまでの順調な接種状況をみても、達成は目前に迫っている。

 欧州各国もワクチンの接種拡大とともに制限緩和を拡大している。菅首相は5月7日の記者会見で7月末を念頭に高齢者への接種を終えるとともに、1日に100万回の接種を目標とすると述べているが、その一方で接種を担当する人材の不足は深刻とみられ、この目標を達成するのは困難とも言われる。

 仮にワクチン接種が順調にいったとしても、「集団免疫」と言われる状況(人口の約70~90%にワクチンを接種)に達するのは「明年以降」と調査機関は試算している。

 そして世界の感染状況は、先進国ではピークを過ぎたにしても、途上国の多くではいまだ感染拡大は続き、特にインドやブラジルといった人口大国の感染状況は深刻だ。

 これらの国での大量感染は複雑な変異株を生む蓋然(がいぜん)性が高く、今後変異株が世界を飛び回り、ワクチンの効力を脅かす可能性も危惧される。

 感染状況とワクチン接種状況次第という面もあるが、なによりも、五輪のために十分な医療資源を割くことができるのであろうか。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は500人の看護師と200人のスポーツドクターを募集するとしているが、国内医療体制を損なわないで五輪に万全を期すことは困難を極めることは明らかだ。

 すなわち国内・世界の感染状況、ワクチンの普及状況、医療資源の逼迫(ひっぱく)状況のいずれをとっても、7月の五輪を安心安全な大会とすることに楽観的とはなれない。

2.国内外で東京五輪の開催はどう見られている?

 五輪は「平和の祭典」と言われる通り、通常のスポーツ競技会を超え、平和を象徴する大会であり、人々に歓迎されなければならない。日本の世論調査では7割が「中止」ないし「再延期」を支持するという結果が明らかとなった(3月20~21日実施:朝日新聞、4月10~12日実施:共同通信、5月7~9日実施の読売新聞による調査では中止支持が59%)。

 世論は感染状況や今後明らかになっていく五輪での感染防止対策次第で変化しうると考えられるものの、それでも今後感染が拡大していく限り、消極的な意見も増えていくだろう。

 また、米国の民間会社「ケクストCNC」が日米欧6カ国で実施した調査でも、米国以外の5カ国(日・英・仏・独・スウェーデン)で年内の五輪開催に反対する人が賛成する人より多いという結果となっている。

 海外のメディアでは、日本国民の多くが反対しているのに一体何のための五輪かと問う報道が多い。特に米国の有力紙ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、サンフランシスコ・クロニクルなどは7月の東京五輪開催に反対の論評を掲げている。

 特に5月5日付のワシントン・ポスト紙の論評では「IOCは収益をほとんど自分たちのものとし、費用は全て開催国に押し付けている」としてIOCを酷評した。

 過去には祝福されなかった五輪も存在する。例えば五輪期間中にイスラエルのアスリート11人がテロリストに殺害された1972年のミュンヘン五輪、またソ連のアフガニスタン侵攻の後行われ西側の多くの国がボイコットした80年のモスクワ五輪などは、残念ながら負の記憶を呼び起こす。

 今年の東京五輪は「復興五輪」であり、更に「パンデミックに打ち勝った五輪」とすることを目標としてきたはずで、ニューヨーク・タイムズが論評するような「一大感染イベント」と評価されるような結果となるのは絶対に避けなければならない。

3.誰が五輪開催を最終的に決定するのか?

 東京五輪開催は2013年9月に東京都、日本オリンピック委員会(JOC)、IOCの間で締結された開催都市契約で定められている。

 その66条には契約解除の規定があり、IOCは戦争や内乱状態などのほか、参加者の安全が脅かされる合理的な理由がある場合には契約を解除し開催を中止できるとしている。

 この規定もあくまでIOCの裁量により中止決定をするとあり、IOCに権限が担保されているようである。契約の71条には、予見できなかった不当な困難が生じた場合、五輪組織委はその状況に置いて合理的な変更を要求できると定めている。これもIOCに変更を考慮しなければならない義務を課するものではなく、あくまでIOCの裁量により決めることとされている。

 このような規定はIOCに一方的に有利なように読めるが、それは国家の後ろ盾を持たない非政府、非営利団体であるIOCの独立性を担保するために設けられているのだろう。

 20年3月には新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、五輪延期の決定が行われたが、その内容は開催都市契約付属の合意書に記されている。

 「2020年3月24日に、東京都知事小池百合子氏と組織委員会会長森喜朗氏の同席により執り行われたIOCプレジデントと日本国首相安倍晋三氏の間での電話会談にて、全ての関係者の関与の下、その時点でのCOVID-19のパンデミックの更なる拡大可能性というWHOからもたらされた情報に基づき、(a)選手、大会に関係する全ての人々及び国際社会における人々の健康の安全確保をはじめとする数々の理由により、当初大会期日における大会開催や2020年の残りの期間での大会開催が不可能であり、(b)大会は、2021年の夏までに代替開催されるべきであるという結論に達した」

 要するに開催の決定はIOCの権限として担保されているが、五輪の安全のために日本側が開催中止や開催時期延期の要請ができることは明らかだ。

4.それでは、日本にとって考えられる選択肢とは?

 東京五輪の今夏開催の是非については早急に判断をしなければならない時期に来ている。

 5月末には緊急事態宣言がどういう効果をもたらしているのか、さらなる延長は必要なのか、ワクチンの集団接種を含めた見通しも明らかとなっているだろう。五輪に十分な医療体制を準備できる見通しとなるかも重要な点である。

 現段階では、全国的な感染は極めて高い水準にあり、短期間で収束していくとも考えられず、今夏の五輪開催は難しいということにならざるを得ないのではないか。

 政治的に見ても、国内および国際社会で五輪開催が懐疑的に見られているなかで、もし強行して目に見える感染拡大が生じた時、日本とIOCは強い非難を受けることになるだろう。

 無観客で膨大な経費を使って(無観客では900億円の損失と試算されている)得られるメリットをはるかに超えるリスクがあるのではないだろうか。

 そこで筆者が思うに、日本にとって最も好ましいシナリオは、1年の再延期だろう。22年2月には北京冬季五輪があり、24年のパリ夏季五輪まで2年しかないといった不都合はあろうが、これからワクチンが普及していくだろうし、今夏よりもはるかに安心安全な五輪が開催できる可能性が大きくなることは間違いがない。

 ただ東京五輪の再延期をIOCに提案する場合には、あくまで契約に従って行動しなければならない。20年の延期決定の際には21年夏までに代替開催されるべきである点が合意されており、そもそもさらなる延期は想定されていないので再延期の実現は難しい。

 しかし、いずれにせよ、コロナ感染拡大により安全な五輪は開催できないという客観的で科学的な、場合によっては世界保健機関(WHO)の意見も聞いたうえでの要請が必要ではないだろうか。

 再延期の判断は契約に従えばIOCが行うことになるが、日本の要請に応じない場合には、IOCはなぜ日本の要求が合理的でないのか説明を行う必要があるだろう。

 五輪開催についてのIOCの自立性を損なうものではないが、IOCの判断自体が客観的で合理的なものかどうかは、国際社会に問われるべきであり、IOCにも説明責任がある。

 再延期が認められない場合には開催中止とならざるを得ないだろうが、損害を補塡(ほてん)する保険もあるだろうし、改めてIOC、政府、東京都、組織委の話し合いで考え方を整理していく必要があるだろう。

 IOCあるいは日本が一方的に事を運ぼうとした場合には将来の五輪開催に禍根を残すことになりかねず、関係者すべての合意の上で進められなければならない。

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