毎日新聞 2021年2月1日 東京朝刊
「オリンピックはアメリカ次第。大統領が開催に前向きな発言をしてくれれば勢いがつく」――。
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の高橋治之理事(76)が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューでそう言った(27日、電子版)。
高橋はこう続けた。
「(米国で放映権を独占する)NBCも含め、アメリカに参加してもらうことが何より大事。言いにくいが、IOC(国際オリンピック委員会)とバッハ(会長)に決められることじゃない。彼らにそんなリーダーシップはない」
この毒舌は、商業化が極まった現代五輪のゆがみを言い当てている。
◇
28日午前1時前、バイデン米大統領と菅義偉首相が電話協議に臨んだ。五輪の話は出なかった。高橋の逸話をどう思う? 対米調整の前線に立つ外交官に聞くと、こう答えた。
「バイデンほど用心深い人はいない。コロナに無頓着なトランプを批判し、大統領選の見せ場でもマスクを外さなかった。就任後も外国要人との面会は避けている。東京へ行こうと呼びかけて、万一、大会で(感染症が)蔓延(まんえん)したら責任ものです。何が悲しゅうてそんなリスクをとるかっちゅう心境でしょう」
前のめりで大統領に五輪参加を勧めたりせず、菅首相は賢明だった。
◇
高橋治之は「電通」の元専務。巨大スポーツイベントの舞台裏を仕切る実力者として知られる。
フランスの検察は、今回の東京五輪をめぐり、東京招致委からIOC委員へ不正な資金提供ありと見て捜査中。ロイター通信は昨年春、「高橋が招致委から9億円受け取って工作」と報じた。高橋は、有力者にカメラや高級腕時計を贈ったことだけ認めた。
高橋は、2002年サッカー・ワールドカップに関しては、ノンフィクション作家の取材に対し、ロビー活動費8億円で日韓共催へ導いたと答えている(田崎健太「電通とFIFA」光文社新書16年刊)。
舞台裏を知る男だからこそ、「五輪は米国次第」の現実が見えている。
◇
現代五輪は、米国のテレビが払う放映権料、米国の世界企業が出すスポンサー料で動いている。「オリンピック・マネー」(後藤逸郎、文春新書20年刊)によれば、13~16年のIOCの総収入は57億ドル(約6000億円)。そのうち73%が放映権料だという。
日本の民放の幹部に聞くと、放映権料は数大会分ずつの契約。中止なら支払い義務はない。負担は日本の数百億円(NHKと民放で折半)に対し、米国は1ケタ違う数千億円。だから大会の時期も、競技時間帯も米国優先で決まる。
選手団、メダル数はもちろん、スポンサー企業も米国が断然多く、各国の五輪委へ流れる協賛金の50%は米国が取る。他方、このしくみの余得にあずかるIOCと関連法人の腐敗を追及する報道も多い。
商業化の起点は1984年のロサンゼルス大会。石油危機による財政難がアマチュア五輪を葬った。商業化が加速し、行き過ぎが問われ、それでも変わらぬ流れをウイルスが阻んだ。
選手の努力を思えばしのびないが、現実を見れば東京大会は中止が自然。富める国優先の旧弊を絶ち、全世界が納得する改革を工夫して着地したい。米大統領頼みの「金満五輪」回帰はない。(敬称略)(特別編集委員)=毎週月曜日に掲載
東京2020開催の裏側がだんだん表面化してくる。ここに書かれていることが事実ならば、日本のオリンピック開催の要人の奥歯に物が挟まったような話し方が分かった気になる。日本オリンピック委員会の山下泰裕代表や日本陸上競技連盟の瀬古利彦理事は純粋なアスリートだったので真っすぐな発言なのは出来るが、メンツや利権に政治の道具などに使われるならば、近代オリンピックの基礎を築いた創立者・クーベルタン男爵の言葉「オリンピックで重要なことは、勝つことではなく参加することである」なんて全くの「死語」になっていたんだね。
2024年と2028年の夏季五輪は、パリとロサンゼルスらしいが、それ以後は費用から考えても開催に手を上げる国もないのじゃーないかな?後、余裕がありそうなのはドバイ首長国くらいなもんだろう?(笑)。
「オリンピックはアメリカ次第。大統領が開催に前向きな発言をしてくれれば勢いがつく」――。
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の高橋治之理事(76)が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューでそう言った(27日、電子版)。
高橋はこう続けた。
「(米国で放映権を独占する)NBCも含め、アメリカに参加してもらうことが何より大事。言いにくいが、IOC(国際オリンピック委員会)とバッハ(会長)に決められることじゃない。彼らにそんなリーダーシップはない」
この毒舌は、商業化が極まった現代五輪のゆがみを言い当てている。
◇
28日午前1時前、バイデン米大統領と菅義偉首相が電話協議に臨んだ。五輪の話は出なかった。高橋の逸話をどう思う? 対米調整の前線に立つ外交官に聞くと、こう答えた。
「バイデンほど用心深い人はいない。コロナに無頓着なトランプを批判し、大統領選の見せ場でもマスクを外さなかった。就任後も外国要人との面会は避けている。東京へ行こうと呼びかけて、万一、大会で(感染症が)蔓延(まんえん)したら責任ものです。何が悲しゅうてそんなリスクをとるかっちゅう心境でしょう」
前のめりで大統領に五輪参加を勧めたりせず、菅首相は賢明だった。
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高橋治之は「電通」の元専務。巨大スポーツイベントの舞台裏を仕切る実力者として知られる。
フランスの検察は、今回の東京五輪をめぐり、東京招致委からIOC委員へ不正な資金提供ありと見て捜査中。ロイター通信は昨年春、「高橋が招致委から9億円受け取って工作」と報じた。高橋は、有力者にカメラや高級腕時計を贈ったことだけ認めた。
高橋は、2002年サッカー・ワールドカップに関しては、ノンフィクション作家の取材に対し、ロビー活動費8億円で日韓共催へ導いたと答えている(田崎健太「電通とFIFA」光文社新書16年刊)。
舞台裏を知る男だからこそ、「五輪は米国次第」の現実が見えている。
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現代五輪は、米国のテレビが払う放映権料、米国の世界企業が出すスポンサー料で動いている。「オリンピック・マネー」(後藤逸郎、文春新書20年刊)によれば、13~16年のIOCの総収入は57億ドル(約6000億円)。そのうち73%が放映権料だという。
日本の民放の幹部に聞くと、放映権料は数大会分ずつの契約。中止なら支払い義務はない。負担は日本の数百億円(NHKと民放で折半)に対し、米国は1ケタ違う数千億円。だから大会の時期も、競技時間帯も米国優先で決まる。
選手団、メダル数はもちろん、スポンサー企業も米国が断然多く、各国の五輪委へ流れる協賛金の50%は米国が取る。他方、このしくみの余得にあずかるIOCと関連法人の腐敗を追及する報道も多い。
商業化の起点は1984年のロサンゼルス大会。石油危機による財政難がアマチュア五輪を葬った。商業化が加速し、行き過ぎが問われ、それでも変わらぬ流れをウイルスが阻んだ。
選手の努力を思えばしのびないが、現実を見れば東京大会は中止が自然。富める国優先の旧弊を絶ち、全世界が納得する改革を工夫して着地したい。米大統領頼みの「金満五輪」回帰はない。(敬称略)(特別編集委員)=毎週月曜日に掲載
東京2020開催の裏側がだんだん表面化してくる。ここに書かれていることが事実ならば、日本のオリンピック開催の要人の奥歯に物が挟まったような話し方が分かった気になる。日本オリンピック委員会の山下泰裕代表や日本陸上競技連盟の瀬古利彦理事は純粋なアスリートだったので真っすぐな発言なのは出来るが、メンツや利権に政治の道具などに使われるならば、近代オリンピックの基礎を築いた創立者・クーベルタン男爵の言葉「オリンピックで重要なことは、勝つことではなく参加することである」なんて全くの「死語」になっていたんだね。
2024年と2028年の夏季五輪は、パリとロサンゼルスらしいが、それ以後は費用から考えても開催に手を上げる国もないのじゃーないかな?後、余裕がありそうなのはドバイ首長国くらいなもんだろう?(笑)。