自民党総務会に臨む村上誠一郎元行政改革担当相=東京都千代田区の同党本部で2020年9月29日午前10時55分、竹内幹撮影
学問への畏敬の念「菅さんも周囲もなさ過ぎる」 自民・村上誠一郎元行革担当相
毎日新聞 2020年10月16日 08時00分
自民党にも人物がいた。元行革担当相の村上誠一郎衆院議員である。安倍晋三政権時代は「安倍1強」の官邸や党にも臆せず物申していたけれど、菅義偉政権の船出早々、早速持ち上がった日本学術会議の任命拒否問題にも、やっぱりお怒りである。「自民党よ、これでいいのか」と。【吉井理記/統合デジタル取材センター】
6人の業績、知っているのか
――自民党のベテランとして、任命拒否の受け止めから。
◆言語道断ですよ。菅さんも、周りの人も、学問への畏敬(いけい)の念、リスペクトがあまりになさ過ぎるのではないか。そもそも菅さんたちは、任命を拒否した6人の学術的な業績について、一体どれほどのことを知っているというのか。論文を精読したことがあるのでしょうか。学術的な誤りがあるというならまだ話は分かる。それならどこが間違っているのか、指摘しなければなりません。でもそうではないと思います。
――「前例を踏襲しない」という説明をしています。
◆それならばなおのこと、「前例」の何が問題だったのか、説明が必要でしょう。それなのに任命拒否という極めて重大な決定をした理由について、いまだにご本人たちにも国民にもまともな説明がない。いや、説明すべき論理を持ち合わせていないのではないでしょうか。
――となると、任命拒否の理由は何でしょうね。
◆私は安倍政権の時から、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法、「共謀罪」法に異を唱えてきました。憲法や立法事実(法律を作らなければならない根拠)に鑑みても、これらはどれも違憲の可能性があったり、あるいは理論に問題があったりする法律でした。今回の6人の学者の方々も、これらに反対してきた人たちです。学術的な業績に誤りがないのなら、拒否した理由はおのずと明らかです。つまり、政府の意に反する言動から任命しなかった、ということです。
日本初のノーベル賞受賞者の理論物理学者、湯川秀樹氏と語るアルベルト・アインシュタイン博士=米国・プリンストン高等学術研究所で1953年6月
――日本学術会議は「軍事目的の科学研究は行わない」との立場です。今回の人事介入は、大学での軍事研究を進めたい政府が、学術会議から政府の意に沿わない学者を追い出すためだ、という見方もあります。
◆思い出してください。かつて米国では、少なからぬ物理学者が核兵器開発の一端を担い、広島・長崎の惨状を経て、例えば原爆開発の責任者だったオッペンハイマーは反核運動に転じ、アインシュタインも特に科学者に対し、核などの科学技術の軍事転用について反対をした歴史がある。人々の幸福を追求すべき科学者が、大量破壊兵器などの開発に携わってはならない、ということです。そこを忘れてはいけません。そもそも、拒否された6人は、いずれも人文・社会科学系の人たちです。この分野は、政治や行政を批判的に検証し、意見したり、問題点を指摘したりするのが仕事です。それが自分の意に沿わないから任命しないというのであれば、全体主義国家と同じです。
自民総務会、物申せない?
――自民党からは表だった異論は聞こえてきません。メールマガジンで今回の一件を批判した元経済企画庁長官の船田元氏くらいですね。
◆私は菅政権発足に伴う党役員人事があった今秋、約8年務めた党総務会のメンバー(党総務)を降りたんです。新体制になって、最初の総務会が10月6日にありましたが、今回の菅政権の決定について特に目立った異論は出なかったようです。異論どころか、出席していたある人によると「防衛省と大学の共同研究を、日本学術会議が反対してできなくなった。菅首相の判断を支持する」との趣旨の声まで出たという。総務会は党大会や両院議員総会に次ぐ党の意思決定機関で、会社でいえば取締役会です。国会に上がる全法案や予算をチェックするのが仕事です。官邸の決定を追認するだけの機関とか、サイレントソサエティーになり果てていては困ります。みんな、菅官邸に「忖度(そんたく)」しているのでしょうか。
――ここぞ、という時にきちんと議論したり、ストップをかけたりしないのでは、総務会の存在意義がありません。
◆昔は違いました。私の若いころの総務会は、梶山静六さんや加藤紘一さん、亀井静香さんといった一癖も二癖もあるベテラン論客がいて、軽く2、3時間、昼飯抜きの議論になった。激論を経て、総務会の重鎮たちを納得させる難しさは、彼らの頭文字を取って、スキーのジャンプ競技よろしく「K点越え」と呼んでいたものです。小選挙区制導入の是非で揺れた1990年代初めごろは、私ら若手議員が総務会になだれ込んで、つかみ合いのけんかまでして……。今はどうでしょう。20~30分でさらっと終わってしまうこともたびたびです。異論もなくはないですが、官邸にあらゆる権限が集中する今では、なかなか物申すことが難しいのではないでしょうか。政治家の勇気が求められていると思います。
1993年に政治改革4法案の党議決定のため開かれた自民党臨時総務会。手前左から塩川正十郎・政治改革本部長代理、梶山静六幹事長、佐藤孝行総務会長、亀井静香政調会長代理(いずれも当時)。梶山氏は菅義偉首相が政治の師と仰ぐ人物でもある=自民党本部で1993年3月31日
――説明を拒む菅首相の態度を見ていると、国のリーダーそのものが劣化している印象を受けます。
◆昔のリーダー、「三角大福中」と呼ばれた三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の各氏のような宰相は、みなきちんと学問をして、高い見識を備えた人たちだった。私の伯父の村上孝太郎(71年死去)は旧大蔵省の事務次官でしたが、田中角栄さんについて「学歴はないが、スズメの涙ほどの睡眠時間で、寸暇を惜しんで懸命に勉強していた」とよく話していましたよ。
――昨年死去した中曽根さんも、首相になってから、京都大学を中心とする「京都学派」の哲学に深い関心を抱いて勉強した、と晩年のインタビューに答えています。
◆学問は古人の経験と知恵と努力の積み重ねです。保守政治家であるなら、軽視などできるはずがない。繰り返しになりますが、任命拒否の理由について「前例踏襲はしない」というのも、ただのへりくつにしか聞こえません。安倍さんたちが「共謀罪」法を押し通すために「この法律がないと東京五輪が開けない」といったのと同じ。理論的ではありません。
「異論は許さぬ」許していいのか
――それにしてもこの新型コロナウイルス禍です。任命拒否問題について、政治的リソースを割いていていいのか、と心配になります。
◆歴史は繰り返す、と言いますが、100年前にもスペイン風邪(1918~20年)があり、この災厄も遠因となって9年後の世界大恐慌が起きる。そしてファシズムが台頭し、戦争の時代に突入していった。今も世界をコロナ禍が覆い、日本をはじめ、各国とも財政・金融の危機にある。米中の対立も激化する一方です。そんな難しい時代をどう乗り切るかということに、政治家は全力を傾注しなければならないはずです。
――そんな時に、学術会議を目の敵にしてどうするのか、と。
◆国家の指導者が、あたかも「自分の政権に異論を唱えるのは許さない」と言わんばかりの態度を取ることが、未来の世代の民主主義や学問の自由にどう影響を与えるか。何より、このようなことを伝統ある自民党として許していいのか。仲間たちにも、声を大にして問いたいですね。
村上誠一郎(むらかみ・せいいちろう)
愛媛県出身。1952年生まれ。東京大法学部卒。河本敏夫元通産相の秘書を経て、86年衆院選で初当選して以来、連続当選11回。大蔵政務次官、自民党副幹事長、衆院大蔵委員長、副財務相などを経て、第2~3次小泉純一郎政権で行政改革担当相。
もう放送は終了したが、御厨貴氏司会のTBS時事放談にこの村上氏が出演した時は特に面白かったな~。ズバズバと自民党をなで斬りして、最後に提言を色紙に「村上水軍4つの直言」、村上水軍「総理への直言」などなどで締めくくっていた。ここで述べられていることを、小父さんがべらべら話せるわけではないが、納得することがとても多い。村上氏がテレビで堂々と述べても、新聞で意見を言っても、「そうだ!そうだ!」と言う自民党議員はとても少ないんだな。ここでの記述を、そういうグループがあるのかないのかは知らないが(笑)特に菅義偉総理の岩盤支持層?には読んでもらいたいものだ!村上水軍とは、日本中世の瀬戸内海で活動した水軍(海賊衆)。詳しくはリンク先へ!
学問への畏敬の念「菅さんも周囲もなさ過ぎる」 自民・村上誠一郎元行革担当相
毎日新聞 2020年10月16日 08時00分
自民党にも人物がいた。元行革担当相の村上誠一郎衆院議員である。安倍晋三政権時代は「安倍1強」の官邸や党にも臆せず物申していたけれど、菅義偉政権の船出早々、早速持ち上がった日本学術会議の任命拒否問題にも、やっぱりお怒りである。「自民党よ、これでいいのか」と。【吉井理記/統合デジタル取材センター】
6人の業績、知っているのか
――自民党のベテランとして、任命拒否の受け止めから。
◆言語道断ですよ。菅さんも、周りの人も、学問への畏敬(いけい)の念、リスペクトがあまりになさ過ぎるのではないか。そもそも菅さんたちは、任命を拒否した6人の学術的な業績について、一体どれほどのことを知っているというのか。論文を精読したことがあるのでしょうか。学術的な誤りがあるというならまだ話は分かる。それならどこが間違っているのか、指摘しなければなりません。でもそうではないと思います。
――「前例を踏襲しない」という説明をしています。
◆それならばなおのこと、「前例」の何が問題だったのか、説明が必要でしょう。それなのに任命拒否という極めて重大な決定をした理由について、いまだにご本人たちにも国民にもまともな説明がない。いや、説明すべき論理を持ち合わせていないのではないでしょうか。
――となると、任命拒否の理由は何でしょうね。
◆私は安倍政権の時から、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法、「共謀罪」法に異を唱えてきました。憲法や立法事実(法律を作らなければならない根拠)に鑑みても、これらはどれも違憲の可能性があったり、あるいは理論に問題があったりする法律でした。今回の6人の学者の方々も、これらに反対してきた人たちです。学術的な業績に誤りがないのなら、拒否した理由はおのずと明らかです。つまり、政府の意に反する言動から任命しなかった、ということです。
日本初のノーベル賞受賞者の理論物理学者、湯川秀樹氏と語るアルベルト・アインシュタイン博士=米国・プリンストン高等学術研究所で1953年6月
――日本学術会議は「軍事目的の科学研究は行わない」との立場です。今回の人事介入は、大学での軍事研究を進めたい政府が、学術会議から政府の意に沿わない学者を追い出すためだ、という見方もあります。
◆思い出してください。かつて米国では、少なからぬ物理学者が核兵器開発の一端を担い、広島・長崎の惨状を経て、例えば原爆開発の責任者だったオッペンハイマーは反核運動に転じ、アインシュタインも特に科学者に対し、核などの科学技術の軍事転用について反対をした歴史がある。人々の幸福を追求すべき科学者が、大量破壊兵器などの開発に携わってはならない、ということです。そこを忘れてはいけません。そもそも、拒否された6人は、いずれも人文・社会科学系の人たちです。この分野は、政治や行政を批判的に検証し、意見したり、問題点を指摘したりするのが仕事です。それが自分の意に沿わないから任命しないというのであれば、全体主義国家と同じです。
自民総務会、物申せない?
――自民党からは表だった異論は聞こえてきません。メールマガジンで今回の一件を批判した元経済企画庁長官の船田元氏くらいですね。
◆私は菅政権発足に伴う党役員人事があった今秋、約8年務めた党総務会のメンバー(党総務)を降りたんです。新体制になって、最初の総務会が10月6日にありましたが、今回の菅政権の決定について特に目立った異論は出なかったようです。異論どころか、出席していたある人によると「防衛省と大学の共同研究を、日本学術会議が反対してできなくなった。菅首相の判断を支持する」との趣旨の声まで出たという。総務会は党大会や両院議員総会に次ぐ党の意思決定機関で、会社でいえば取締役会です。国会に上がる全法案や予算をチェックするのが仕事です。官邸の決定を追認するだけの機関とか、サイレントソサエティーになり果てていては困ります。みんな、菅官邸に「忖度(そんたく)」しているのでしょうか。
――ここぞ、という時にきちんと議論したり、ストップをかけたりしないのでは、総務会の存在意義がありません。
◆昔は違いました。私の若いころの総務会は、梶山静六さんや加藤紘一さん、亀井静香さんといった一癖も二癖もあるベテラン論客がいて、軽く2、3時間、昼飯抜きの議論になった。激論を経て、総務会の重鎮たちを納得させる難しさは、彼らの頭文字を取って、スキーのジャンプ競技よろしく「K点越え」と呼んでいたものです。小選挙区制導入の是非で揺れた1990年代初めごろは、私ら若手議員が総務会になだれ込んで、つかみ合いのけんかまでして……。今はどうでしょう。20~30分でさらっと終わってしまうこともたびたびです。異論もなくはないですが、官邸にあらゆる権限が集中する今では、なかなか物申すことが難しいのではないでしょうか。政治家の勇気が求められていると思います。
1993年に政治改革4法案の党議決定のため開かれた自民党臨時総務会。手前左から塩川正十郎・政治改革本部長代理、梶山静六幹事長、佐藤孝行総務会長、亀井静香政調会長代理(いずれも当時)。梶山氏は菅義偉首相が政治の師と仰ぐ人物でもある=自民党本部で1993年3月31日
――説明を拒む菅首相の態度を見ていると、国のリーダーそのものが劣化している印象を受けます。
◆昔のリーダー、「三角大福中」と呼ばれた三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の各氏のような宰相は、みなきちんと学問をして、高い見識を備えた人たちだった。私の伯父の村上孝太郎(71年死去)は旧大蔵省の事務次官でしたが、田中角栄さんについて「学歴はないが、スズメの涙ほどの睡眠時間で、寸暇を惜しんで懸命に勉強していた」とよく話していましたよ。
――昨年死去した中曽根さんも、首相になってから、京都大学を中心とする「京都学派」の哲学に深い関心を抱いて勉強した、と晩年のインタビューに答えています。
◆学問は古人の経験と知恵と努力の積み重ねです。保守政治家であるなら、軽視などできるはずがない。繰り返しになりますが、任命拒否の理由について「前例踏襲はしない」というのも、ただのへりくつにしか聞こえません。安倍さんたちが「共謀罪」法を押し通すために「この法律がないと東京五輪が開けない」といったのと同じ。理論的ではありません。
「異論は許さぬ」許していいのか
――それにしてもこの新型コロナウイルス禍です。任命拒否問題について、政治的リソースを割いていていいのか、と心配になります。
◆歴史は繰り返す、と言いますが、100年前にもスペイン風邪(1918~20年)があり、この災厄も遠因となって9年後の世界大恐慌が起きる。そしてファシズムが台頭し、戦争の時代に突入していった。今も世界をコロナ禍が覆い、日本をはじめ、各国とも財政・金融の危機にある。米中の対立も激化する一方です。そんな難しい時代をどう乗り切るかということに、政治家は全力を傾注しなければならないはずです。
――そんな時に、学術会議を目の敵にしてどうするのか、と。
◆国家の指導者が、あたかも「自分の政権に異論を唱えるのは許さない」と言わんばかりの態度を取ることが、未来の世代の民主主義や学問の自由にどう影響を与えるか。何より、このようなことを伝統ある自民党として許していいのか。仲間たちにも、声を大にして問いたいですね。
村上誠一郎(むらかみ・せいいちろう)
愛媛県出身。1952年生まれ。東京大法学部卒。河本敏夫元通産相の秘書を経て、86年衆院選で初当選して以来、連続当選11回。大蔵政務次官、自民党副幹事長、衆院大蔵委員長、副財務相などを経て、第2~3次小泉純一郎政権で行政改革担当相。
もう放送は終了したが、御厨貴氏司会のTBS時事放談にこの村上氏が出演した時は特に面白かったな~。ズバズバと自民党をなで斬りして、最後に提言を色紙に「村上水軍4つの直言」、村上水軍「総理への直言」などなどで締めくくっていた。ここで述べられていることを、小父さんがべらべら話せるわけではないが、納得することがとても多い。村上氏がテレビで堂々と述べても、新聞で意見を言っても、「そうだ!そうだ!」と言う自民党議員はとても少ないんだな。ここでの記述を、そういうグループがあるのかないのかは知らないが(笑)特に菅義偉総理の岩盤支持層?には読んでもらいたいものだ!村上水軍とは、日本中世の瀬戸内海で活動した水軍(海賊衆)。詳しくはリンク先へ!