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本 / 『ベラルーシの林檎』 岸 惠子 著  / 朝日新聞出版

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世界はめまぐるしく変わり、人も国境も動き続けていく。パリでのさまざまな体験が著者を世界の国境へと駆り立てた。イスラエル、パレスチナ、バルト3国……。そこで何を見つめ、何を感じたのか。自分史と重ね合わせて綴るルポルタージュ。~朝日新聞出版

   

あとがき (抜粋)
 プロローグに代えた「廃墟からの旅立ち」は「昭和」という一つの時代が終わったとき、『波』という雑誌に載せたものです。
 それからすでに五年。世界は大きく変わり、今も変わりつつあります。
 その台風の目になった旧ソ連や東欧、そしてそのずっと前から紛争の絶えないアラブ・イスラエル問題の焦点であるエルサレムを再度訪れるチャンスにも私は恵まれました。
 それらの見聞記を、はじめは軽いヨーロッパ・リポートのつもりで『月刊Asahi』に連載しておりました。
 今回、本にまとめるにあたり、構成を変え、新たに三百五十枚ほど書きおろしました。
「祖国なき人びと」や「遠い日本」は西ヨーロッパの一つの中心、パリという町に住んだ三十五年という長い時間の中で、私が見た出来事や感じたことを、かなり省略しつつ、アットランダムに書き綴ったものですが、私個人の深い念(おも)いが籠っています。
  (中略)
 追記。
 今、まさにペンを置こうとしていたとき、私にとっても世界の人々にとっても信じ難いことが報道されはじめました。
 「ガザ」と「エリコ」の暫定自治!
 イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の相互承認!

  

 そして、九月十三日ワシントン時間の正午、腰の銃をはずしたヤセル・アラファットPLO議長が、清濁合わせ呑む、という風な人を惹き込む笑みを浮かべて先に手を差しのべ、一瞬とまどった硬い表情のラビン・イスラエル首相が、ついに宿敵パレスチナ・ゲリラの首領アラファット議長の握手に応じた数秒間、ホワイトハウスに集まった観衆がどよめいて拍手に湧き、私はひとりテレヴィの前に起立して、あふれ出る涙とともに、手が痛くなるまで拍手を送っていました。

  しのつく雨の中、お互いに手をとり、喜びを分かち合うイスラエルとアラブの人びとを町中に眺める一九九三年九月十四日の巴里にて
                                                         岸惠子

  いやはや、若さと美貌を保たれている86歳の女優さんだと思っていたら、この本を開いておったまげたね。NHKからの依頼でパリ発の衛星放送の初期の初期「ウィークエンド・パリ」という番組からのスタートだそうだが、ガザ地区で少年の投石に合ったのは序の口で、テレビ朝日ではイラクからミサイルを撃ち込まれた後、イスラエルに首相インタヴューに出向いたのはいいが、短めのキュロットに袖なしのヴェスト着姿で、頭から足の先まで黒装束でかためた人物に-勝負ッと思って近寄ったら、突然沸いた怒声、黒装束の群れ、キャメラマンは十四、五に襲撃され、岸さんは待たせてあったタクシーに走ったが、空ビンやゴミの山が飛んでくるは顔に衝撃を受けつつ、パレスチナ人の運転手も逃げだしたタクシーに逃げ込んで震えていたとか。車の屋根、ボンネットにも黒ずくめが這い上がって・・・。いや、プロの記者でもしり込みしそうな地域で取材を繰り返したそうな。

 本を読んでいて、ユダヤ人とアラブ人という相入れない雰囲気が少し分かった気がした。それどころか、旧ソ連に併合されたり独立を繰り返す東欧にもトイレもとても使えたものじゃーないような列車に乗っての取材やパスポートを取り上げられたり、などなど度胸が良すぎるのか、怖い物知らずなのかに番組が作られていったんだそうだ。
 
 あとがきでは、イスラエルとパレスチナの相互承認に歓喜されたそうだが、現在の米大統領の政策には、はらわたを煮え繰り返しておられることでしょうね。いや、凄い本に出合った。普通の歴史解説では聞けない現地の声だ!

  

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