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女は死なない 第4回 復讐のバレンタイン=室井佑月 / 毎日新聞

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  この年になって職場でのバレンタインデーの裏側がやっと解った(笑)。果たして小父さんは、女性とうまくやっていただろうか?陰でボロクソに言われていただろうか?たぶん、必要以上に優しかったり、時として生真面目すぎて適当に流すことが出来なかったんではないだろうか?

 まさか、「エロ白髪、今日もエロそうだな。キモッ!」なんてまでは言われてはいなかったと想像するが、さりげなくライバルの悪口を拡散し、蹴落としてあげたりしてもくれなかっただろうね!(笑)
 
   

女は死なない 第4回 復讐のバレンタイン=室井佑月 / 毎日新聞
毎日新聞 2017年2月6日 Texts by  室井佑月
 バレンタインデー。
 女性が好意の証しとして、男性にチョコレートを渡す。たくさんもらう男性もいれば、まったくもらえない男性もいる。

 あたしは仕事関係者など、毎年30~40個くらい配る。もはや、お歳暮やお中元の類いに近い。
渡すとき、わざとみんながいる前で、「愛してます!」とか、「ウィズ・ラブ!」とか、一言いって渡すのも恒例だ。

 お金のかかったイタズラみたいなもん。たいていはゲラゲラ笑われ、気の利いた男性なら、「ヤッホー、両想(おも)いだね!」とか、「佑月(いつもは室井さんだが)、俺も愛してる」とか、面白おかしく答えてくれる。

 ま、そういう男性は、女性陣から好かれている。あたしのほかにも方々からチョコレートをもらっているんだろう、バッグがチョコの箱でパンパンで、紙袋をもう一つ、みたいな感じだ。

 バレンタインでチョコをたくさんもらってくる男性は、それだけ顔が広く、周囲と上手(うま)くやっているってことだ。

 逆に、一つもチョコをもらえないのであったら、それだけ閉じこもった生活をしている。しかし、とくべつに閉じこもった生活などしていないのに、バレンタインデーに女性から無視される男性もいるにはいる。

 もし、自分や、自分の夫や息子などがそうであったら、なぜそうなのか考えたほうがいい。べつに、その日その場で目に入らなかったわけじゃない。わざと無視された可能性もある。周囲の女性は、無視しようと決めて無視した。いじめに近い。

 チョコなんて何千円もするわけじゃない(お高いやつもありますが)。もらう側の男性だって、チョコが好きでたまらないわけでもない。バレンタインという市民権を得た儀式というか、祭りみたいなもんがあって、女性は挨拶(あいさつ)程度に顔馴染(なじ)みの男性にチョコを渡す。男性も挨拶(あいさつ)程度にチョコを受け取る。その程度のもん。

 が、どうしてその程度のことに乗れないのか? バレンタインデーを外した364日間の間、女性から嫌われてしまうようなことをしでかしていないか?

 いつも威張っていたり、人前で恥をかかせていたり、失敗したのに謝らなかったり、失敗を人のせいにしたり、異常にケチだったり。なにか理由はないか?たいていの女性は、仲間に愚痴や不満を話すことで、ストレスを発散させる。つまり、しでかしてしまったことは、周りの女性たちに拡散される。しかも、拡散されるうちに、話は意味不明になっていったりもする。

 「主任って、不必要に肩とか触ってくるよね」がはじめの話だったりすると、その次は「主任、◯◯ちゃんにいやらしいことしたみたい」となり、その次の次は「あのハゲ、スケベでやばいらしいね」となり、その次の次の次は「エロハゲ、今日もエロそうだな。キモッ!」となる。

 もしかすると、はじめの話も肩に触れられたことが嫌だったわけじゃなく、みんなの前で叱られて、その腹いせでちょっと気になったことをわざわざ見つけ、みんなに報告した可能性もある。話を振られた仲間たちも、たとえば部の飲み会で上司のくせに10円単位で割り勘にした、若い女性にあからさまな贔屓(ひいき)をする、などといった不満を普段から抱いていて、これを機会にこの男の悪口解禁となったのかもしれない。そして、最後はなにもしていないのに、酷(ひど)いことをいわれるのだ。

 こういう話をすると、世の男性は女が怖いと思うかしら? 書いていて素直に思う。女は怖いと。

 執念深いから、バレンタイン、みんなにチョコを渡し、一人だけ渡さないという陰湿な復讐(ふくしゅう)をしたりする。その際、味方を集い、女子全員でそうしたりする。

 しかし、執念深いぶん、どこまでも情け深いのも女。普段から優しく接していれば、まさかというとき、助けてもらえたりもする。またその手が男には考えつかないことだったりして。さりげなくライバルの悪口を拡散し、蹴落としてあげたり?

 やっぱ、女は怖い?
    

室井佑月 1970年、青森県生まれ。雑誌モデル、銀座・高級クラブでのホステスなどを経て、1997年に「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」に入選し、作家デビュー。小説家、随筆家、タレントとして多岐にわたり活動している。2000年に第一子となる男児を出産。2016年には、一人息子の中学受験と子育てについて愛と葛藤の8年間を赤裸々に綴ったエッセー『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)を上梓。主な著書に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花』(集英社)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)、『ママの神様』(講談社)などがある。

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