安倍政権について語る河野洋平元衆院議長=東京都港区で2013年3月1日、森田剛史撮影
毎日新聞 2013年03月05日 東京夕刊 毎日jp
◇「アジアの中の日本」意識した協調を
◇不条理な事態のまま原発再稼働おかしい
◇解釈による集団的自衛権行使、不真面目な議論
歴代最長の衆院議長、河野洋平氏(76)は、宮沢喜一内閣の官房長官として従軍慰安婦問題で旧日本軍や官憲の強制性を認めた「河野談話」(93年)を発表、アジア諸国との関係発展に尽力した。09年に政界を引退したリベラル派、河野氏に、安倍晋三政権や改憲論議はどのように映っているのか。松田喬和専門編集委員が聞いた。【構成・瀬尾忠義】
−−安倍内閣の支持率が続伸しています。
河野氏 これまでの短命政権と違い、発足後の支持率が発足時を上回っている、けうな政権です。高い支持率の理由は三つ。一つは経済で、株高・円安という数字で見える変化が好感されています。2点目は野党が非力で、期待できないという見方が安倍政権支持を支えています。3点目は安倍首相が「中国、韓国を刺激すべきではない」という米国の忠告を守っていること。安倍氏は不本意かもしれませんが、自分のやりたいことを抑制していることが支持につながっているのでしょう。
−−自民党はこの3年間で変わったのでしょうか。
河野氏 今の政策が野党時代に相当磨き上げた政策とは思えず、以前の政策と同じようです。例えば財政出動。公共事業に予算を付ければどのくらいの即効性があるのかは、自民党は何十年もの経験があるのでよく分かる。だから公共事業への対応は手際はいいのですが、効果は限定的ではないでしょうか。
−−安倍政権の基本は憲法改正を含む保守政治。それを抑制していると党内に不満がたまります。一方、参院選で無党派層を取り込むには主張を抑制しないといけない。ジレンマに苦しみませんか。
河野氏 安倍政権は「参院選まで安倍カラーは出しません」と言っています。参院選まで「猫をかぶる」とあからさまに言っているわけですよ。これを聞いた有権者が怒ったり、不安を感じたりしないのが不思議です。怒らない理由は、民主党政権が悪すぎたということ。今の政権は実に不誠実でおかしいけれど「今までよりはまだまし」という感じなのではないでしょうか。ここに日本の政治の危うさ、悲しさがあります。
−−安倍政権は原発の再稼働に前向きです。
河野氏 あれだけの事故を起こし、大勢の人々が古里に帰れない。こんな不条理な事態をそのままにして、原発を再稼働するのはおかしい。「安全審査をしたから大丈夫」と言われても国民は不安です。経済界が燃料を輸入して火力発電をしていたらエネルギーコストが上昇すると主張するのは分かります。ゼロか100かの議論ではなく、中期目標を具体的に策定して方向性を示すべきです。それに放射性廃棄物の問題はまったく解決されていません。たまっていく廃棄物をどうするかという指針も目標もありません。
■
−−中国、韓国は領土問題では自説を強く主張し、関係が悪化しています。
河野氏 日本は両国に政治家を派遣して関係を改善しようという姿勢を示しています。しかし、両国には「日本は米国の忠告通りに行動しているだけ。本心から関係改善のために一生懸命ではない」と映っているのではないでしょうか。
−−保守主義者でも太平洋戦争を経験した政治家にはアジアに対する関心、思いやりがあったと思うのですが。
河野氏 同感です。思いやりというよりも率直に「反省」がありました。1977年、マニラで福田赳夫首相(当時)が演説した「福田ドクトリン」が日本外交にとって非常に重要なんです。「日本は二度と軍事大国とはならない」と宣言しました。それまでのアジア外交の基本的な考えの底流にあった「日本とアジア」という意識を、「アジアの中の日本」に転換した。それが今は「日本とアジア」に戻ってしまいました。
−−「福田ドクトリン」や「河野談話」「村山談話」はアジア諸国との関係を修復するものですが、自民党幹部らの不穏当な発言で、アジア諸国の不信感は継続しています。
河野氏 政治家の異質な発言によって日中、日韓関係が崩れ、また修復するということを繰り返してきました。これまで特異な主張や頑固な言い分を持っている政治家がそのような発言をするのだと思っていました。しかし、最近の若い政治家の発言には歴史をきちんと勉強していないのではと思うようになりました。
日本では韓流ブーム、韓国では日本文化の解放で日本の音楽や映画に触れる人々が増えたことで、草の根レベルで理解は深まっています。しかし、政治家は竹島問題などが浮上すると、やや感情的に、過剰と思える反応をしてしまう。日中関係でも同じですが、一番大事なことはトップ同士が話し合い、大局観を持って協調していくことです。
■
−−安倍首相は憲法改正に積極的です。改正の発議要件を緩和する96条改正は野党の一部も主張しています。
河野氏 何かを変えたいんですね。でも今の憲法によって不自由な生活を強いられている人はいません。憲法は「変えるしかない」という状況になってから改正すればいい。いつでも改正できる状況にしておくことに政治的なエネルギーを費やすのではなく、ほかにもっとやらなければならないことが今の日本にはたくさんあります。
−−集団的自衛権の行使を容認しようという議論が安倍首相の私的懇談会でスタートしました。
河野氏 集団的自衛権の行使は憲法を改正しない限り認められません。解釈によって行使を認めることは、憲法を空洞化することと一緒で、不真面目な議論です。これまでの自民党には憲法改正に抵抗する力がありました。特に宮沢元首相や後藤田正晴元副総理は、憲法9条とは外国で武器を使わないことだと整理していました。集団的自衛権の行使を容認すれば、自衛隊が中東まで行って戦争を手伝うことにもなります。
−−民主党は復活できるのでしょうか。
河野氏 可能だと思いますが、それには政治家の責任感が重要ですね。鳩山由紀夫元首相が評価されないのは、あまりにも発言や行動が無責任だったからです。昔の政治家は命がけで自分の発言を守りました。日中国交正常化、日中平和友好条約に携わった政治家は推進派も反対派も命がけでしたから。これからは沖縄問題が重要です。基地問題に限定せず、日本の安全保障や日米関係をもう一度、真剣に見直すべき時期なのです。
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■ことば
◇河野談話
従軍慰安婦問題で、慰安婦の管理、慰安所の設置などに旧日本軍が関与し、強制的だったと公式に認めて謝罪した談話。政府調査結果に基づき93年、宮沢内閣の河野官房長官(当時)が発表した。
◇福田ドクトリン
77年8月、福田赳夫首相(当時)がマニラで行った政策演説。軍事大国にならない▽東南アジア諸国との間に相互信頼関係を築く−−などが骨子。
◇村山談話
戦後50年を迎えた95年8月15日に政府が閣議決定した村山富市首相(当時)の談話。過去の植民地支配や侵略に反省とおわびを表明した。
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■人物略歴
◇こうの・ようへい
1937年神奈川県生まれ。早大卒。67年初当選。76年ロッキード事件を批判して自民党を出て、新自由クラブ結成。86年自民党復党。93年の細川政権では初の野党として自民党総裁を務めた。94年の村山内閣で副総理兼外相。03年から09年までの衆院議長在職は歴代最長。09年、引退。河野太郎衆院議員(自民)は長男。
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◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を
この記事、大阪版には載っていない。今、アベノミクスで世の中はもろ手を挙げて歓迎しているように思えるが河野談話で評判の悪いこの人の警鐘は貴重なんじゃないかな?果たして内閣官房参与 浜田宏一氏や竹中平蔵氏の指南だけでばら色の明日がやってくるのだろうか?前者のことはよく知らないが後者を安倍総理が日銀総裁に据えたかったといううわさを聞くにつけ、今の内閣が小泉内閣の継承のような気もしてきた。安倍内閣は支持したいが、安倍政権の短所は直視していくべきだろう。
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毎日新聞 2013年03月05日 東京夕刊 毎日jp
◇「アジアの中の日本」意識した協調を
◇不条理な事態のまま原発再稼働おかしい
◇解釈による集団的自衛権行使、不真面目な議論
歴代最長の衆院議長、河野洋平氏(76)は、宮沢喜一内閣の官房長官として従軍慰安婦問題で旧日本軍や官憲の強制性を認めた「河野談話」(93年)を発表、アジア諸国との関係発展に尽力した。09年に政界を引退したリベラル派、河野氏に、安倍晋三政権や改憲論議はどのように映っているのか。松田喬和専門編集委員が聞いた。【構成・瀬尾忠義】
−−安倍内閣の支持率が続伸しています。
河野氏 これまでの短命政権と違い、発足後の支持率が発足時を上回っている、けうな政権です。高い支持率の理由は三つ。一つは経済で、株高・円安という数字で見える変化が好感されています。2点目は野党が非力で、期待できないという見方が安倍政権支持を支えています。3点目は安倍首相が「中国、韓国を刺激すべきではない」という米国の忠告を守っていること。安倍氏は不本意かもしれませんが、自分のやりたいことを抑制していることが支持につながっているのでしょう。
−−自民党はこの3年間で変わったのでしょうか。
河野氏 今の政策が野党時代に相当磨き上げた政策とは思えず、以前の政策と同じようです。例えば財政出動。公共事業に予算を付ければどのくらいの即効性があるのかは、自民党は何十年もの経験があるのでよく分かる。だから公共事業への対応は手際はいいのですが、効果は限定的ではないでしょうか。
−−安倍政権の基本は憲法改正を含む保守政治。それを抑制していると党内に不満がたまります。一方、参院選で無党派層を取り込むには主張を抑制しないといけない。ジレンマに苦しみませんか。
河野氏 安倍政権は「参院選まで安倍カラーは出しません」と言っています。参院選まで「猫をかぶる」とあからさまに言っているわけですよ。これを聞いた有権者が怒ったり、不安を感じたりしないのが不思議です。怒らない理由は、民主党政権が悪すぎたということ。今の政権は実に不誠実でおかしいけれど「今までよりはまだまし」という感じなのではないでしょうか。ここに日本の政治の危うさ、悲しさがあります。
−−安倍政権は原発の再稼働に前向きです。
河野氏 あれだけの事故を起こし、大勢の人々が古里に帰れない。こんな不条理な事態をそのままにして、原発を再稼働するのはおかしい。「安全審査をしたから大丈夫」と言われても国民は不安です。経済界が燃料を輸入して火力発電をしていたらエネルギーコストが上昇すると主張するのは分かります。ゼロか100かの議論ではなく、中期目標を具体的に策定して方向性を示すべきです。それに放射性廃棄物の問題はまったく解決されていません。たまっていく廃棄物をどうするかという指針も目標もありません。
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−−中国、韓国は領土問題では自説を強く主張し、関係が悪化しています。
河野氏 日本は両国に政治家を派遣して関係を改善しようという姿勢を示しています。しかし、両国には「日本は米国の忠告通りに行動しているだけ。本心から関係改善のために一生懸命ではない」と映っているのではないでしょうか。
−−保守主義者でも太平洋戦争を経験した政治家にはアジアに対する関心、思いやりがあったと思うのですが。
河野氏 同感です。思いやりというよりも率直に「反省」がありました。1977年、マニラで福田赳夫首相(当時)が演説した「福田ドクトリン」が日本外交にとって非常に重要なんです。「日本は二度と軍事大国とはならない」と宣言しました。それまでのアジア外交の基本的な考えの底流にあった「日本とアジア」という意識を、「アジアの中の日本」に転換した。それが今は「日本とアジア」に戻ってしまいました。
−−「福田ドクトリン」や「河野談話」「村山談話」はアジア諸国との関係を修復するものですが、自民党幹部らの不穏当な発言で、アジア諸国の不信感は継続しています。
河野氏 政治家の異質な発言によって日中、日韓関係が崩れ、また修復するということを繰り返してきました。これまで特異な主張や頑固な言い分を持っている政治家がそのような発言をするのだと思っていました。しかし、最近の若い政治家の発言には歴史をきちんと勉強していないのではと思うようになりました。
日本では韓流ブーム、韓国では日本文化の解放で日本の音楽や映画に触れる人々が増えたことで、草の根レベルで理解は深まっています。しかし、政治家は竹島問題などが浮上すると、やや感情的に、過剰と思える反応をしてしまう。日中関係でも同じですが、一番大事なことはトップ同士が話し合い、大局観を持って協調していくことです。
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−−安倍首相は憲法改正に積極的です。改正の発議要件を緩和する96条改正は野党の一部も主張しています。
河野氏 何かを変えたいんですね。でも今の憲法によって不自由な生活を強いられている人はいません。憲法は「変えるしかない」という状況になってから改正すればいい。いつでも改正できる状況にしておくことに政治的なエネルギーを費やすのではなく、ほかにもっとやらなければならないことが今の日本にはたくさんあります。
−−集団的自衛権の行使を容認しようという議論が安倍首相の私的懇談会でスタートしました。
河野氏 集団的自衛権の行使は憲法を改正しない限り認められません。解釈によって行使を認めることは、憲法を空洞化することと一緒で、不真面目な議論です。これまでの自民党には憲法改正に抵抗する力がありました。特に宮沢元首相や後藤田正晴元副総理は、憲法9条とは外国で武器を使わないことだと整理していました。集団的自衛権の行使を容認すれば、自衛隊が中東まで行って戦争を手伝うことにもなります。
−−民主党は復活できるのでしょうか。
河野氏 可能だと思いますが、それには政治家の責任感が重要ですね。鳩山由紀夫元首相が評価されないのは、あまりにも発言や行動が無責任だったからです。昔の政治家は命がけで自分の発言を守りました。日中国交正常化、日中平和友好条約に携わった政治家は推進派も反対派も命がけでしたから。これからは沖縄問題が重要です。基地問題に限定せず、日本の安全保障や日米関係をもう一度、真剣に見直すべき時期なのです。
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■ことば
◇河野談話
従軍慰安婦問題で、慰安婦の管理、慰安所の設置などに旧日本軍が関与し、強制的だったと公式に認めて謝罪した談話。政府調査結果に基づき93年、宮沢内閣の河野官房長官(当時)が発表した。
◇福田ドクトリン
77年8月、福田赳夫首相(当時)がマニラで行った政策演説。軍事大国にならない▽東南アジア諸国との間に相互信頼関係を築く−−などが骨子。
◇村山談話
戦後50年を迎えた95年8月15日に政府が閣議決定した村山富市首相(当時)の談話。過去の植民地支配や侵略に反省とおわびを表明した。
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■人物略歴
◇こうの・ようへい
1937年神奈川県生まれ。早大卒。67年初当選。76年ロッキード事件を批判して自民党を出て、新自由クラブ結成。86年自民党復党。93年の細川政権では初の野党として自民党総裁を務めた。94年の村山内閣で副総理兼外相。03年から09年までの衆院議長在職は歴代最長。09年、引退。河野太郎衆院議員(自民)は長男。
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この記事、大阪版には載っていない。今、アベノミクスで世の中はもろ手を挙げて歓迎しているように思えるが河野談話で評判の悪いこの人の警鐘は貴重なんじゃないかな?果たして内閣官房参与 浜田宏一氏や竹中平蔵氏の指南だけでばら色の明日がやってくるのだろうか?前者のことはよく知らないが後者を安倍総理が日銀総裁に据えたかったといううわさを聞くにつけ、今の内閣が小泉内閣の継承のような気もしてきた。安倍内閣は支持したいが、安倍政権の短所は直視していくべきだろう。
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