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女の気持ち  「了解 待ってる」 大阪府河内長野市・徳重三恵(無職・77歳)/ 毎日新聞

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写真はdocomo Online Shopから

  

毎日新聞 2020年1月11日 大阪朝刊  めっちゃ関西

 夫と私は「ガラ携」の携帯電話を使っていた。昨年10月に亡くなった夫は、難病を患っていたため、生前は週に2回、デイサービスに行く以外は家でテレビの番人だった。私が出かけるときは、何時ごろに帰るのかと何度も聞くので、いつも早めにガラ携で状況を伝えていた。

 帰宅の途中で「いまバスに乗っているよ。今夜はタイの刺し身よ」などとショートメールを送信すると、「了解 待ってる」と返ってくる。機器が覚えている言葉を拾って送信してくるので、それ以外の文言はない。

 10年ほど家で介護したが、最後は3週間の入院中にあっけなく逝った。葬儀が済んですぐ、娘が「お父さんの携帯を解約してくるね」と言って出かけた。ぼやっとしている私を見かねてのことで、悪気はない。なんと段取りのよいことかと、「助かるわ」と言って任せた。

 しかし納骨も終わった後で、夫との遊び道具をなくしたことに、ようやく気づいた。

 「お父さん、いまどんな景色が見えるの?」と送信し、彼の携帯から「きれいな花が咲いているよ。今日、おやじとおふくろさんに会ったよ」と、私宛てに送り返すのだ。

 一人二役。2人の往復通信をもう少し楽しめたのに、早々に返却したことを後悔した。時々、「早く帰ってきて」の後に♡が付くこともある。「もう少し、この世で遊んでからね」と返信したら、寂しがるだろうか。それとも、いつものように「了解 待ってる」と返ってくるのだろうか。
  
 徳重三恵さん、素敵な交信だったんですね。私は現在72歳ですが、後10年も経ったら我が家にもそんな日が来るかも知れません。一人二役の往復通信っていいです。明日のことは分かりませんが、私もショートメールを練習しておかなくてはと思いました。有難うございました。

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