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人生相談 生きるのがおっくう=回答者・高橋源一郎 / 毎日新聞

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高橋源一郎 氏
  
  小父さんにもそんな時期あったかな~?ただ無気力には何回かなったと思う。う~ん、この歳になれば「あ~、しんど」で済んでいるかも知れない(笑)。

 でも、相談者の方は深刻ですよね。ただ、悩み抜いて、自分で解決の道が分かった時、こんな簡単な一歩を踏み出せば良かったのかと気づいた時は、無常の喜びを感じるものですね。ということは小父さんも何度もそんな壁にぶつかったことがあったんでしょうね(笑)。

 小父さんはもうすぐ72歳ですけど、高橋源一郎さんが言われる「希望」という病には年中かかっています(笑)。単純だってことなんでしょう!小父さんから見れば相談者は、青春のまっただ中におられるように感じます。どうぞ悩み抜いて前に進んで下さい。

   

毎日新聞 2019年6月9日 東京朝刊

 感情を持つのも呼吸をするのも、面倒でなりません。やりたいことや夢もない。全て放棄した結果、今ではわが家のごくつぶしです。世の中には病気で長生きできない方がたくさんいるのに、不謹慎な悩みだと分かっています。2人の弟は有名企業と有名大学におり、彼らの人生と差がついてしまいました。劣等感はあるのですが、行動する気力はおきません。自殺する勇気もない。でも生きるのは面倒。わがままですよね。(24歳・女性)

   

 あなたは、「ごくつぶし」でも「不謹慎」でも「わがまま」でもありません。ただ、「ふつう」なだけです。じつは、あなたみたいな人、ものすごく多いんです。みんな、口には出さないけれど。わたしもある時期、そうでした。何カ月も、ただ天井だけ見て過ごすとか。やりたいことが何もなかったので。

 いまでも時々そうなります。何をしたって、最後は死んじゃうのだから。可愛い子どもがいるじゃないか? しょせん他人じゃありませんか。

 この世でいちばん好きな、小説書きをやっているじゃないかって? わたしの書いているものなんか、死んだらすぐに忘れ去られます。何の意味もないことをやっているだけです。

 残念ながら、この問題に根本的な解決策はありません。だって、それは、あらゆる人間がかかる病なんですから。

 そのままでいいじゃないですか。息を吸って吐いて、寝て起きて、壁でも見てる。そのうち年とって死んでしまうから、問題なし。絶望して死んでゆくだけ。それこそ、他の生きものにはできない、人間らしい生き方なのかもしれません。

 一ついいことを教えてさしあげます。人間がみんな突然かかる、もう一つの病があります。「希望」という病です。絶望と同じように、この病にも突然かかります。理由もなくね。かかった瞬間、世界は突然美しくなります。その病にかかられるよう心よりお祈りしております。(作家)

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