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春秋  5月1日の改元の瞬間、どんな光景を目にするのか / 日本経済新聞

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サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会で、2大会ぶりの決勝トーナメント進出を決めた日、東京・渋谷 2018年6月29日午前1時9分 朝日新聞から
 
 1989年1月7日の早朝、昭和天皇の崩御のニュースを通勤中のカーラジオで聞き、その日の午後、官房長官から「平成」という元号が示されたのをはっきり覚えているから、4月1日の馬鹿騒ぎを小父さんは無視したくなった。経済であれ政治であれ文化も前日の続きが続いているのに、もっと冷静に受け止められないものかね。「令和」に好感持つ人が73%はいいとして、なんで内閣支持率は9.5ポイントの大幅増(共同世論調査)なのか不思議でならない。いつのまにか日本中が渋谷のスクランブル交差点に成り下がった気がする。 

   

春秋 5月1日の改元の瞬間、どんな光景を目にするのか

日本経済新聞 2019年4月3日(水)
 明治45年(1912年)7月。天皇の危篤を伝える号外を手にした日の夏目漱石の日記だ。「当局の権を恐れ、野次馬の高声を恐れて、当然の営業を休むとせば表向は如何(いか)にも皇室に対して礼篤(あつ)く情深きに似たれどもその実は皇室を恨んで不平を内に蓄うるに異ならず」

▼日記を要約すると――。夏の風物詩、隅田川の花火を中止した当局の対応は非常識だ。娯楽を禁じても病状は回復しない。営業停止はかえって天皇の徳を傷つける、と批判。返す刀で新聞はしっかりしろ、とバッサリ。さすが当代一の文明人だ。思えば、私たちは昭和の終わりに「自粛」という形で同じことを繰り返した。

▼翻って、なんとも気軽な世間の新元号の受けとめだ。ツイッターで、飲料や菓子メーカーが「令和」と印字した商品を提供する、との報が拡散された。だまされまい、と疑った。が、本当だった。元号をコミュニケーションや消費の手段として楽しむ。表現や経済活動が萎縮した昭和末期の閉塞感を知る身には隔世の感だ。

▼天皇の寿命と代替わりを切り分け、社会の混乱を抑えたい。天皇陛下はそんなお気持ちもにじませ、退位が実現する。5月1日の改元の瞬間、どんな光景を目にするのか。東京・渋谷の交差点で若者たちはハイタッチを交わし、盛り上がるのか。漱石先生なら、自粛に身をすくめるより、よほど文明的だと評するだろうか。

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